第3話 作戦

図書館から少し離れた場所。

NTCの追手から、フレンズ達は逃げていた。


「おい、何処に隠れやがったぁ・・・?」


麻酔銃を構えつつ白いジャンパーを着た職員が辺りを見回す。



「...ウグッ!」


後ろから不意に衝撃を与えられ、職員は気を失った。


「ふう、疲れるなぁ・・・。久々の野生解放は」


「先生、大丈夫ですか!」


「ああ。取りあえず、気を失わせた。かばんの仲間を殺すわけないだろ?

しかし、参ったなあ・・・。どこかで合流しないと・・・」


「そうですね・・・。あっ!」


キリンは思い出したように職員に近付きある機械を手にした。


「これ、確かこのパークの地図が描いてあるはずですよ!

使ってたのを見てました!」


「さすが、洞察力が優れてるな。それを使えば、相手の場所もわかるし、誰かと合流出来るかもしれないな」


「はいっ!!」




サーバルは、博士と助手に連れられ、とりあえずこうざんまで連れてこられた。


こうざんには偶々、トキ、ショウジョウトキ、アルパカが居た。

ラッキービーストが居なかったので、そのままカフェにいた。

一応、図書館から結構離れたので、暫くは大丈夫だろう。


「取りあえず、落ち着いて、作戦を立てましょう」


博士は、そう言い聞かせた。


「どうすればいいのっ・・・」


サーバルは苦し気に言葉を発した。


「先ずは、この島にいる職員を何とかしないといけませんね」


助手は紅茶を一口飲んだ。


「なんか大変なことになってるんでにぇ...」


アルパカが溜め息交じりに声を漏らす。


「職員たちをある程度処理してから、NTCの本社に乗り込まないといけないのです。

ただ、我々だけだと、力不足なのです」


「フェネックとアライさん・・・」


サーバルは思いついたかのように言った。

一緒に旅をした、心強い仲間だった。


「後はライオンとヘラジカが欲しいですね。戦いは得意そうですし」


助手は具体的な名前を挙げた。


「タイリクも協力してくれますからね。後はセルリアンハンターの3人ですか」


博士は顎を手で抑えながら目を瞑り言った。


「私達はどうしましょうか・・・」


「取りあえず、その、職員?を見つけて捕まえればいいと思うんですけど・・・」


後ろの席でトキ達も小声で話し合った。



「今、集まるべきメンバーは大体決まりましたね」


博士はそう言って、一旦話にオチをつけた。



「でも、どうしたら、みんな一か所に合流できるかな?」


「あの渋谷というヤツを何とかしないといけないので、だから、方向としては図書館に向かわないとダメなのです」


助手がそう言った。


「仲間を探りつつ、図書館に向かいますか」


博士も肯いた。


「かばんちゃんの仲間だから・・・、傷つけないで」


サーバルはそんな一言を放った。


「彼女が居たらそう言いますよ」


「私もそう思います。それは安心してください。ここのフレンズはそれをわかっているのです」








時同じくして、さばんなちほー


「はぁ・・・、はぁ・・・、アライさん・・・、本気出し過ぎだよ・・・」


「す、凄く、こ、怖かったのだ・・・、

死ぬ気で走って来てしまったのだ・・・」


後々にフェネックはあのジャングルの大河をどうやって超えたのか、疑問に思った。

しかし、今はそんなことを考えている暇はない。


こんな見通しのいい場所であの職員に見つかったら袋の鼠だ。


取りあえず隠れる場所を見つけないと・・・。


そう考えていた時、フェネックは聞きなれない音をその、大きな耳で察知した。


「アライさんっ!」


緊急的にアライさんを連れて木の陰に隠れた。

姿勢を低くし、屈む。


「ど、どうしたのだ・・・」


「もう追手が来たみたいだ・・・」


遠くの方を注視すると、何台ものバイクに乗って来る集団が目に入った。

白いジャンパーを着ているのでNTCの者に間違いない。


(まずいね...)





その集団の先頭にいたのは、口にキャンディーを加え、長い茶色い髪が特徴な若い女性だった。


「おっと、見っけた。作戦通りにやってよね?」


マイクに向かってそう語った。


『了解です、月島リーダー』


(あれで隠れたつもりだなんて、無垢だよねぇ・・・)




「こ、こっちに来るのだ!!」


「逃げるよ...!」




「おっと・・・、逃がさないよ?」


ジャンパーのポケットから、ある物を取り出し、投げた。


パンパンパンと、空中で爆発音がした。



「のだっ!?」


「・・・!」


思わず二人は足を竦ませた。



その隙に物凄い速さのバイクが先回りする。


「し、しまった...」


フェネックは気弱な声を出した。



「はいはい、鬼ごっこはオシマイね」


ゴーグルを外し、その素顔を露わにした。

暫く追い詰められた二人の顔を見つめた。


「なんだ、害獣と・・・?イヌ?」



「イ、イヌじゃないのだ・・・、フェネックなのだ。それにアライさんは“がいじゅう”じゃないのだ

“アライグマ”なのだ」


アライさんは声を震わせながら、そう指摘した。



「マジレスどーも・・・。それが最後の言葉かー。まあ、死にはしないけど。ウチで作った麻酔銃は最先端の技術を詰め込んで特許も取ってあるからね。

人に撃っても優しい麻酔銃って・・・、蛇足過ぎたか。さ、あんた達、やりなさい」


月島以外の7人が、麻酔銃を向けた。




「ア、アライさんの危機なのだっ...」


(こうなったら...、私の野生解放でっ...)





トントン


7人目の職員の肩に何かが触れた。


「...ん?」


後ろを振り返った瞬間、


「うぐっ!?」


頬を殴られ、倒れ込んだ。


その音で、一斉に職員たちがその方向を向いた。



「あ、あれはっ!」


アライさんも驚き声を出した。


「あの時の...」


フェネックも息を飲んだ。


「8対2は卑怯じゃありませんの?」


「な、なんなのアンタ・・・」


月島も驚きを隠せないようだ。




「それに、サバンナを荒らすのは、やめてくださる?」


右の拳を左手で覆いながら、そう言った。



「つ、月島リーダー...!!こ、コイツ、あのサバンナに生息する最強の哺乳類カバですよ!!」


職員の一人が声を震わせて言った。


「何言ってんの!最強の哺乳類は人間でしょ!それにあっちは素手、こっちは武器を持ってるし、フレンズだからそんな力も持ってないでしょ。早くさっさと眠らせてよ!」



「は、はい!」


職員の狙いはフェネックたちからカバに変わっていた。




「う、撃てっ!」



目に見えない微細な麻酔針がカバに向かって放たれる。


が、軽いフットワークで麻酔攻撃を軽々と避けた。



(い、今のうちに応援を・・・)




「うはっ...!」


「グッ!?」


「アウッ!」



3人程の声が聞こえた。



「あなた達、それを撃ってくることしか出来ませんの?

それじゃこの大自然の中じゃ生き残れませんわよ?」



「す、凄いのだ、一瞬で3人も・・・」

アライさんは感嘆としていた。



「素手で倒すなんて・・・

あんなの獣じゃなくて化け物じゃない・・・」

月島は苦虫を噛んだ様な表情をした。



「リーダー!!」


フェネックが振り向くと20人ほどの職員が集まり完全にカバ達を囲んだ。



「仲間を呼びましたのね」


カバはまだ余裕そうだった。


「アライさん、私達も戦うよ」


「ふぇっ!?」




「これだけ人数が居れば勝てないでしょう!」


月島は自信満々に言い張った。あくまで数で勝負するつもりらしい。


「そうかしら?」



「うわああああッ!?」


その悲鳴の主は職員だった。


「ツメが食い込んでっ!痛てえっ!」


「フルルルルゥ!!」


職員の一人に襲い掛かっていたのは野生解放したアライさんだった。

元々気性の荒い性格から、その名前が付いたと言われているアライグマは、その本性を現していた。


職員を怯ませたアライさんは麻酔銃を取り上げた。


「ま、まずいっ!」


「そうだね、マズイね!」


「あっ、ちょっ」


そう呟いた職員もフェネックの手に掛かり倒れ込んだ。


「アライさんもやっつけるのだっ!」


先程入手した麻酔銃を職員に向かって乱射する。


数撃てば当たるの言葉通り、滅茶苦茶に撃ってるように見えて当たっているのだ。大勢いた職員がバタバタと倒れる。


フェネックは小柄な身を生かし職員を盾にし、麻酔針攻撃をかわしていた。


「リーダーっ!もう無理ですっ!ヒトの力を得た野生動物に勝てるわけがない!」


「何を弱気になってるのよっ!」


(こ、この数で麻酔銃をもってしても全然効き目が無い・・・、マジでヤバいかもしれない・・・。ただここで逃げたら渋谷所長にっ...)


職員の数はもう殆ど数人にまで数を減らしていた。


「こうなったら...」


二丁の麻酔銃を取り出した。


(先ずはあの力負けしそうなカバと害獣を・・・)




「誰か忘れてない?」


月島の背後から声を掛けたのはフェネックだった。


「自分から撃たれに来たの?なら撃ってやるわよ!」


左手の銃をフェネックに向けた時だった。


ドスッ!


「うあっ!」


「きゃっ!?」


突然横から職員が倒れかかって来た。


「なっ、ちょっ!どいてよ!!」


「ダメです!やっぱりカバは強すぎます!!」


「泣き言言ってるんじゃないよ!」


部下と上司が言い争いをしている隙に、カバは二人の前まで来た。


「あっ!ああっ!!」


首の後ろをカバに捕まれ、そのまま投げられた。


「アアッ!!」


「ひぇっ...」


鋭い眼光で、カバは怖気づく月島を見た。


「いいですこと?金輪際、カバには手を出さないでくださる?もし私が野生解放して戦ったら、あなた達死ぬことになるわよ?」


「は...、はい...、手、手は出しません...」


か細い声でそう言った。



「あなた達、図書館に行って他の仲間と合流しましょう」


「はいよー」


「わかったのだ!」


返事を返し、アライさんとフェネックはカバに付いて行った。


辺りには倒れている大勢の職員達。まさか、三人組にやられるとは

彼女にとっても想定外だった。


「くっ...」


(何よ...、私よりも胸が大きいしっ...、態度もデカいし...。マジムカつく...!あのカバっ...!)


立ち上がり、不意を突こうと銃を構えた。


その刹那、強い衝撃が後頭部に加わった。


「うあっ...」





倒れる音が後ろで聞こえた。


「ありがとう、トムソンガゼル。後はお願いね」


「任せてよ」



カバは後ろを振り返らず、そう礼を述べ図書館へ向かった。

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