第2話 交渉

図書館にはラッキービーストの呼びかけで多くのフレンズが集まっていた。

朝ラッシュの通勤電車の様に図書館内部はフレンズで溢れかえっていた。

アライさんやフェネックとも合流することが出来た。


寝起きのサーバルはいまいち状況が理解できなかった。


「皆さん、ここに集まってくれてありがとうございます。

今、このパークにヒトが来て、次々とフレンズを捕まえています。

何でそんなことをするのか、よくわかりません。

僕は、その人たちと話し合おうと思います。皆さんはここに居てください」


フレンズたちは戸惑った顔を浮かべた。


「ヒトって...、かばんちゃんと同じ...、仲間?」


その中で声を上げたのはサーバルだった。

彼女が一番純粋な心の持ち主なのは、かばんも既知していた。


「そうだよ。だから、“ここで”対等に話せるのは、僕だけなんだ」


再度、そう主張した。





「ここが図書館か」


暫くして上野たちが図書館に到着した。

その奇抜な建物を見つめる。


職員たちは指示通りに、茂みの中で待機している。




ガチャッ...



上野はその音で前に目線を向けた。


慎重な足取りで、その場へ近づいた。

軽く息を吐いた。鼓動が早くなる。


「こんにちは」


僕は後ろに、サーバルと博士を連れて、その場所に立った。

アライさんが行きたいとか言っていたが、フェネックに抑えさせてもらった。


この図書館でのフレンズへの指示をフェネックと助手に任せたかったからだ。


「こんにちは...」


戸惑った感じで、彼はそう言い返した。


「君は・・・、“フレンズ”なのかい?」


僕より身長が高く、見下すように聞かれた。

彼と1メートル程の間はあるが、威圧感を感じた。

息を飲み、答えた。


「はい。“ヒト”のフレンズ、かばんです」


「ヒトの・・・、フレンズか・・・」


彼は特別な呪文を唱えるかのようにに答えた。


「私は、ネイチャーテクノロジーカンパニー副社長、上野だ」


そう答えた。


「君達がどうして自分たちからここに赴いたのか。大体察しが付く。

フレンズを連れ去ってる件についてだろう?」


「はい、どういう事情で、どういう経緯で、そういう事をしているのか。教えていただけますか」


上野は口元を緩めた。


「私達は自然科学を研究している。

フレンズは研究のサンプルとして、回収しているだけだ。

私達のいる所では、少々面倒なことが起きててね。君達の力を解明して使おうと思っている」


「僕たちは、フレンズ。あなた達は、普通の人間...。

最初はやはり、隔たりがあるかもしれません。

けど、そちらが困っていることがあれば、僕たちは喜んで協力するつもりです。

しかし、無理矢理フレンズを連れ去るという点が、解せません」


「なるほど。君たちには私たちに協力する意志があるという事か。

手荒な手段を用いらなければと」


「そういうことです」


静かに肯いた。


上野は腕を組んで天を仰いだ。


(ヒトのフレンズ...、なるほどね・・・)


「そちらに、僕たちの条件を飲む気があるんだったら、

フレンズを解放してください」


かばんはハッキリとそう主張した。


「・・・、解放することはできない」


「何故ですか」


「回収は社長の命令だ。私が独断で、命令の内容を変える事は出来ない」


眼鏡を掛けなおし、かばんを鋭い眼光で見た。

後ろの二人は、黙って様子を見ている。

かばんが次にどう切り出すか、見守っている事しかできない。


「・・・、じゃあ、僕が社長とお話しすることは、出来ますか?」


「直談判ということかい・・・?」


上野も意外だったようだ。

少し考えた。


「いいだろう」


上野は後ろのポケットからスマートフォンを取り出した。

指を少し動かしてから、かばんに向けた。


「これで、電話が出来る。こちらへ来てくれれば

私が直接かけてあげよう」


「その薄いのを使えば、社長とお話し出来るんですね」


「そうだ」


かばんは上野の元に歩み寄った。


「か、かばんちゃん!」


サーバルの声で後ろを振り返った。


「大丈夫・・・」


すぐに言い返した。



(相手は・・・、人間だ)


そう自分に言い聞かせた。



一歩ずつ距離を詰め、50メートル程になったときだった。


上野が少し、かばんから見て右側に逸れたのだ。

後ろにいた職員が麻酔銃を発射した。








「いっ...」


左腕に針で刺された様な痛さが走った。


その瞬間、上野は前方に倒れて来たかばんをガッチリとした右腕で抱えたのだった。




「か、かばんちゃん!!」


一瞬の出来事に、サーバルは声を上げて駆けだそうとした。


「待つのです!!サーバル!!」


博士は本気でサーバルの両手を抑えた。


「何すんのっ!?」


「アレを見るのです!!」


上野の後ろからは大勢の職員が姿を見せた。

麻酔銃を構えている。


「この状況でお前ひとり行かせれば、あなたもかばんと同じようになります!!」



「どうやらそこの鳥さんは賢いようだな。

そうだ。このかばんは社長とお話ししたいと行って来た。

だから直接、合わせてやるだけだ。

この島のフレンズに関して、俺はもう手を出さない。こいつの意見を尊重してな」


「では、その後ろの者達は何なのですか」


博士は上野を睨みつけた。


「言っただろ?俺“は”手を出さないって。

もう二度と言わないからな?じゃあ、さよならだ」


上野は、かばんを一度両手で抱きかかえ直して、引き返していった。


「かばんちゃん!かばんちゃんっ!!」


動転したサーバルは必死に呼びかける。


「暴れるなですっ!」



渋谷しぶや、ここは任せた」


「はい。上野さん」



渋谷と呼ばれた男は、七三分けをした少し気取った感じの男だった。



「環境研究所所長権限で、この島のフレンズ大確保作戦を行う!」



「マズいことになりましたっ...」


「博士、こ、これは!!」


図書館の上空から助手が様子を伺っていた。



「ここから逃げるのですっ!とにかく早く遠くへっ」


博士は焦った様子で助手に呼びかけた。


「は、はい!!」


「サーバルも行くですよ!」


「行くって、かばんちゃんは!?」


「今この場所にいたら私たちまで実験体にされるのです!

遠くの場所に避難して、作戦を立て直すのですっ!」


博士はサーバルを抱え飛び上がった。


図書館からも次々と大勢のフレンズが叫びながら出てくる。



「お前ら何をしてるっ!今のうちにひっ捕らえろ!」


渋谷の癖のある甲高い声で、職員が一斉にフレンズの所へ向かっていき、

混乱状態に陥った。


渋谷は無線機を取り呼びかけた。


「各班メインリーダー!馬込まごめ森下もりした板橋いたばし月島つきしま

マップ上に表示した各地方に向かって、フレンズを捕獲しろ!」







かばんを連れて一足先にヘリに上野は乗り込んだ。


「もしもし、上野だ。社長はいるか」


「ただいま、社長は会議で席を外しております」


淡々とそう言ったのは秘書の新木場だった。


「新木場、社長にこう伝えておいてくれ。お客様がお見えになるとな」


そうして、乱暴に電話を切った。

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