第25話 痩せ我慢

週末明け早々、魚介専門炭火焼のお店で、2ヶ月経過してはいるが、私の第3チーム歓迎会が営業メンバーで開かれた。


個人プレイヤーが集まる第3チームだと思っていたが、お酒の場では、かなり和気あいあいとした雰囲気だった。


堀さん、真淵さんいつになったら宮川英アシじゃなくて僕らの営アシになるんですか?


真淵さん、私たちの営アシになる前に辞めたりしないでくださいね。


なんで飲みの席でまで真淵さん宮川さんの隣なんですか?!ちょっと、宮川さん、独り占めするのもいい加減にしてくださいよ。


そんな冗談もたくさん飛び交った。


オフの時のメンバーは、私が想像していた以上に、ノリも良く、いい関係性があるのかもと思った。


オンとオフの切り替えが、はっきりしていて、見ていても清々しかった。


幹事である柴田君は、商談が長引き、1時間後くらいに現れた。


相変わらずの無表情で、「遅れてすみません。」と端の方に座った。


隣に座っていた子にビールをもらうと、小さいグラスは一気飲みでなくなった。


一番離れた位置に座る堀さんが、大きな声で商談のことを聞くと、メンバーは一瞬にして鎮まった。


どうやらまだ他社との契約が数年残っているらしく、すぐに何かがありそうではないらしい。


堀さんがちぇっと言うと同時に、柴田君は「すみません。」と携帯が鳴っているのを堀さんに見せ、もしもし、と言いながら席を外した。


30分しても、柴田君は戻ってこなかった。


そろそろトイレにも行きたかったし、私も席を外した。


レストランのドアを横切った時、柴田君が外で携帯を持ったまま、しゃがみ込んでいる姿が目に入った。


「お疲れ様。」


外はさっきよりも冷え込んでいる感じがした。


背が高いからか、しゃがみ込んでいる柴田君の姿はとても小さく感じた。


「寒くないの?」


ジャケットを着ずにずっと外でじっとしていられるなんて、痩せ我慢なのだろうか。


私はじっとしていられず、自分の体を温めるように両手で腕を擦った。


「なんとなく頭を冷やしたくて。ちょうどいいです。」


こちらを見ずに、ただ前をぼーっと見ながら答えた。


柴田君の低い声は、いつも以上に低い感じがした。


ひとりになりたい。


なんとなくそんなメッセージを感じた。


でも、なんだかこのまま放っておきたくなかった。


どうしてなのかは、わからない。


ただ、柴田君がこの夜と溶け込んでしまいそうな位、孤独に見えた。


社内でも、誰かと立ち話とかしているところを見たことがないし、誰かとランチに行ったりする姿も見たことがなく、ひとり行動が好きらしいのは知っているが、凍える様子も見せずに、ただ佇んでいる柴田君は、なんだかとても寂しそうに見えた。


私はとりあえず、柴田君の前に立ってみた。


「・・・何やってるんですか?風邪ひきますよ。」


小さくなった柴田君は、今日は下から、私を上目遣いで見た。


「柴田君だってジャケット着てないし、風邪ひくよ。」


「俺は大丈夫なんで、戻っててください。」


今度は眼鏡越しに真剣な眼差しがこちらに向けられていた。


柴田君の顔はひどく疲れているようにも見えたが、やっぱりすごく孤独だった。


「一緒に戻ろうよ。食べるもの、なくなっちゃうよ。」


「お腹空いてないから大丈夫です。あとちょっとしたら戻りますから、放っておいてください。」


どうやら、やっぱりひとりになりたいのかもしれない。


私は頷くき、「中で待ってるね。」とだけ言って、みんながいる席へと戻った。


そして、柴田君もすぐに席に戻ってきた。


さっき感じた孤独さはなく、いつも会社でみる柴田君に戻っていたようだった。


暗いところにいたから、そう見えただけだったのかもしれないな、とそれ以上は気にしないことにした。


だが、のちに、柴田君には、誰にも共感してもらえない孤独があるとは、もちろんこの時は思いもしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る