第24話 不意打ちキスもどき

ルカと会うのは、考えてみると約4ヶ月振りのことだった。


アボーノにはその間、数回一人で来ては英語の勉強をしたが、連日の宮川さんアシスタントの疲れで、あまり集中してできなかった。


快晴の寒空を窓から眺めていると、「Hi」とルカが現れた。


久しぶりに、初めてルカとアボーノで会った時のことを思い出した。


その笑顔が、本当に私に向けられているものなのか、少しだけ疑いたくなるような位、整った笑顔。


「Hi」と言いながら立ち上がり、あの時のように手を差し出した。


すると、ルカは私の手をとるなり、私の体を軽く引き寄せ、頰をくっつけて、チュッと、キスをする音を立てた。


音を立てるだけで、実際に頬に口を触れたわけではない。


西洋風の挨拶なのはわかるが、慣れない私はどう返せばいいのかわからず、ただ立ちすくしていた。


こういう挨拶をルカにされたのは、これが初めてだった。


初対面以降、私がそもそも立ち上がって挨拶をすることがなかった。


なんとなく大げさな気がして、座ったままでいたのだ。


頬と頬が触れるなんて、ただの挨拶とわかっていても、ルカの体温と香水の匂いが近くて、心臓の音が響いて痛い。


ルカは何事もなかったかのように私に笑顔を向けると、「How are you?! I missed you. It’s been so long!」と言ってきた。


アメリカ人が言う、I miss you。


直訳すると、恋しい、寂しい、会いたい、という意味になるが、そこに必ずしも恋愛感情があるわけではない。


でも、言われるとやっぱり嬉しい言葉。


「I'm happy to see you.」


会えて嬉しいよ、と返した。




「So… Do you have any special plan for Christmas?」


食後のホットコーヒーを啜りながら、ルカが言った。


できれば避けて通りたい今年のクリスマス。


もちろん予定など、特にない。


「Maybe work.」


そう言うとルカは笑いながら「Yep. Same here.」、一緒だね、と答えた。


クリスマスといえばレストランもきっと大忙しになることだろう。


「Aren’t we so workaholics?」


workaholics、仕事中毒という意味。


私はルカに苦笑いを返した。


クリスマスの日に、浮いた予定も言えないなんて。


でも、それが別にそこまで嫌なことでもなかった。


ただ家でクリスマスが終わるのを待つわけではなく、仕事というやることがある。


そう考えてしまう私は、間違いなく仕事中毒なのかもしれない。


それか、ただ寂しさを必死に紛らわそうとしているのか。


認めるのは嫌だが、本音はきっと後者だろう。


でも、仕事で忙しいと言っている自分のことは、嫌いではなかった。


だから、仕事中毒なのだろう。


クリスマス。


恋人がいない日には、なんて有り難迷惑な日なのだろう。


そう思ってしまう自分は、誰よりも惨めな気がして、余計に嫌気がさすのだった。

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