第22話 仁との関係

「笑った方が断然いいよ。」


「・・・そう?」


「うん。きっとモテる。」


「何それ。俺モテてなかった前提?」


敬語からタメ語で印象は変わるが、自分のことを僕、から俺と呼ぶのも、随分と相手と対等になれた気がする。


「別にモテなくてもいいよ。俺一応彼女いるから。」


そうか、彼女がいるのか。


でも、笑った柴田君を見たところ、モテると言われても、さほど驚きでもない。


どうやら学生時代から付き合っている彼女がいるらしい。


「遠距離なんだけどね。1年半前に転勤で大阪に行って、今は1ヶ月に1回会えればいい位。」


先日非常階段で一緒になった時も、柴田君はどうやら彼女に電話しようとしていたところだったらしい。


「1ヶ月に1回会えてれば、よく会えている方じゃないの?」


「まぁね。」


柴田君は少し遠い目線で続けた。


「でも、会いたい時に会えないのはやっぱり大変だよ。」


「そっか。遠距離で1年半続いてるってすごいね。」


私は今まで遠距離恋愛をしたことがないから、よくわからないが、会えないのに互いを思い合える関係は、信頼関係がきちんとできていないと、できるものではないと思った。


「会えなくて大変ではあるけど、気持ちが変わったわけではないから。どうしようもできないよね。」


「好きなんだね、彼女のこと。」


「じゃなきゃ彼女じゃないでしょ。真淵さん彼氏は?」


私は首を振り、亮のことを少しだけ話した。


私たちの場合、距離的には近くにいたし、それなりにも会ってはいるつもりだったが、心は離れていってしまった。


互いの両親にも紹介したし、結婚の話だってしたのに、だ。


「遠くでも思われている柴田君の彼女は幸せ者だね。」


「そうだといいね。でも、遠くにいるから諦めがつく部分もあるのかもしれない。近くにいたら、俺らも同じ状況になってるかもしれない。会える距離なのに、どうして会えないのって。」


案外、遠距離だからうまくいく部分もあるのかもしれない。


「彼氏、作らないの?」


「そんな簡単にできるもんじゃないよ。時間がなければ出会いもないし。」


「星野さんとかは?仲良いじゃん。」


私は飲みかけていた日本酒を吹き出しそうになった。


「仁?あるわけないじゃん!」


「なんで?かっこいいし、仕事もできるし。」


仁と付き合ってるのか、と聞かれることは、これが初めてではなかった。


和田チームにいた時、和田さんと仁と3人でミーティングをしていた最後に、付き合っているのか、と訊かれたことがある。


私と仁は顔を見合わせ、声をも揃えて「付き合ってません。」と答てしまったものだから、余計に疑われるところだった。


だが、「私もっと男らしい人がいいです。」「俺は美人なクライアントさんたちで満たされてます。」と言った私たちの顔が切実だったらしく、和田さんはわかってくれたのだった。




「仁とは今の仲良い関係のままがちょうどいいかな。それに、仁も私も、お互いを恋愛対象としては見てない、かな。」


お互いのことをそう見ていたら、私が仁の家に泊まると、そういう関係にだって発展しているだろう。


でも、私たちは、同じベッドでも寝ないし、ましてや私は化粧なしのメガネ、おまけに仁の部屋着に着替えて、色気なんてあったものでもない。


私と仁は、そういう関係ではない。


私が異動してからも、飲みには誘ってくれるものの、私にそんな余裕がなく、すっかり仁との接点がなくなってしまった。


やっぱり同じ部署で働いていたことは大きかった。


ということは結局、私たちの繋がりって、そういうものだったのだろうか。


何でも話せる気が合う同僚と思っていたが、その関係は異動したら変わってしまうのだろうか。


ちょっとだけ切ない。


今日、この場に仁も誘うだけ誘ってみればよかったと、ちょっとだけ後悔した。


久しぶりに、会いたいな。


・・・この感覚、何だろう。


日本酒が来てるんだな、これは。


やめてやめて。


仁との関係、簡単に壊したくないから。

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