第20話 一緒に行きません?
歓迎会は来週の月曜に設定された。
当然なのかもしれないが、ご丁寧に、ちゃんとクリスマスを外して、21日に設定されていた。
今年のクリスマスは、25日が金曜日。
家族や恋人がいる者にとっては嬉しいことなのだろうが、何の予定もない身分の私にとっては、何とも迷惑な組み合わせだった。
歓迎会はAjino(アジノ)という刺身と炭火で焼いた魚介類が美味しいと評判のお店で、ちょうど行ってみたいと思っていたお店だった。
柴田君、なかなかお店選びのセンスはあるな。
『今日は行けそう?千秋はまだわからないって。』
仁からメールがあったのは、夕方5時位だった。
私が第3に異動してから、すっかり金曜定例の、仁と千秋との飲みに行けなくなってしまっていた。
『ごめん、今日も来週用の資料仕上げなきゃ行けない。』
もちろん、宮川さんの資料だ。
今日のお昼に急遽準備して欲しいと言われた。
以前、渋谷のスクランブル交差点で仁と千秋と飲んだ後に見かけた、ワインの輸入会社だ。
今は競合大手が扱っているのだが、宮川さんが担当者の人と商談が取れたらしい。
宮川さんに気合が入っているのは伝わるので、私も気を引き締めてやらないといけない。
『週末にやればいいじゃん』
『えー。でも明日は久しぶりにアボーノに行く予定とかあるし。』
ルカとも異動して以来、1度会ったきりでずっと会えていなかった。
あまりに仕事が忙しすぎて、勉強する気力がなかったのもある。
とりあえず土曜日は起きるのが辛くて、お昼になっても仕事をしながら家でダラダラと過ごすことが多かった。
ルカもアメリカに帰っていたり、タイミングが全然合わず、明日は久しぶりに会う予定だった。
『今日は何時に終わる予定?』
『まだわかんない。10時半くらいかな?』
『おそ。わかったよ。とりあえず終わったら教えて。』
『オッケー。いつもごめんね。』
毎回断っているにも関わらず、仁は誘い続けてくれている。
その関係性が変わらないのは、やっぱり嬉しいことだった。
資料作成が3分の1程進んだところで、会社から支給されている黒iPhoneにメールが届いた。
『真淵
お疲れ様。
来週の例のアポがなくなったので資料は急ぎじゃなくて大丈夫になりました。
連絡まで。
宮川』
時計に目をやると、まだ7時半だった。
そそくさにPCの電源を切り、私は会社を出ることにした。
これならまだ仁とも合流できる。
エレベーターを待っている間、仁にメールを送ろうとしていると、オフィスとは逆の方から柴田君がカバンを持って現れた。
帰りに鉢合わせになるのは初めてだった。
「お疲れ様です。今日は早いんですね。」
「お疲れ様。宮川さんの資料作り、急ぎじゃなくなったから。柴田君も今日は早いね。」
お互いだいたい10時以降に出るのが当たり前になっていた。
エレベーターが扉を開き、私がエレベーターに入るのに続いて柴田君も乗った。
「真淵さん、これからもしかして暇だったりしますか?」
予想外の柴田君の言葉に、少しだけ考えてから「どうしたの?」と答えた。
「いや、ちょっと行ってみたい店があるんですけど、これから一緒に行きません?」
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