第14話 検索『ルカの正体』

「ねー理沙ー、なんか最近いいことでもあったのー?」


にやにやしながら、千秋が生ビールを片手に私に聞いていた。


千秋曰く、どうやら最近の私はイキイキとしているらしく、元カレと別れてからやっと息を取り戻した感じ、らしい。


私はルカとのことを話した。


仁には、ルカと知り合ってすぐに話していたのだが、ずっと忙しかった千秋とは、一緒に飲みに来るのも久し振りで、まだルカのことを話していなかった。


「イケメン英会話パートナーかー。」


仁はこの話には飽きているのか、さほど興味などなさそうに、牛タンの塩焼きにレモンをかけると食べた。


千秋の写真リクエストに応え、この前仁に見せるために撮った、ルカの写真を見せた。


写真を撮る時、いきなり写真を撮るのは少し微妙だったので、アボーノに来たいって言ってた友達のために料理の写真を撮ると言いながら、ついでに生ハムとルッコラのピザと一緒にルカを撮ったのだった。


仁がアボーノに行ってみたいというのは本当だった。


写真を見せると、千秋は「えーちょっと、めっちゃイケメンーっ!」と目を見開いて叫び、私の携帯を取り上げた。


ピザと一緒に爽やかな笑顔を見せるルカは、仁もイケメンと即答だった。


「でも恋愛はあり得ないんだとよ。」


仁は千秋が質問するだろうことを先回りするかのように話した。


千秋は牛タンを噛みながら怪訝そうな顔をした。


ルカとは、一緒にいると確かに楽しいのだが、恋愛対象として見ることはなかった。


誰もが認めるイケメンなのだから、美人な人もたくさん寄ってくるというのは、容易く考えられることだ。


そもそもルカにとって、私がそういう対象ということもないだろうし、知ってて自ら自滅しにいくようなものだ。


いつも1時間半できっちり切り上げるし、ルカにとっては日本語と英語を喋れる、カンバセーションパートナーでしかないのだろうし、私もそれ以上のことは何も期待していなかった。


そして何より、なんとなく、まだルカのことをよく知らないような気がした。


「でもさー、不思議じゃない?この人、日本人の友達とかいっぱいいそうじゃない?」


千秋の言う通り、それは私も思ったことだった。


「忙しいから友達っていう友達はいないんだって。だいたいいつもお客さん絡みらしくて、仕事に関係のない人と知り合いたかったんだって。」


有田さんも、ルカの仕事で繋がり仲良くなったひとりだ。


「ふーん。それでも自然に日本人の友達くらい簡単に作れそうなのにね。」


千秋の中ではイマイチ腑に落ちていないらしい。


私も、わからなくはない。


「でもまぁシェフにコンサルって、忙しそうだね。なんで2つもやってんだろう?シェフって案外儲からないのかね?」


千秋はシーザーサラダをつつきながら言った。


「実は経営者なんじゃね?」


仁が再び牛タンに箸をのばすしながら言うと、私たち3人は顔を見合わせた。


ルカと仕事の話はするものの、経営者の可能性は考えていなかった。


4回会っているが、実はまだルカの年齢すら知らない。


私たちは、全員同じことをするように携帯を取り出した。


「フルネームは?」


「ルカ、ベローニ、だったと思う。」


ルカ・ベローニで検索をしてみると、仁の言うことは見事にビンゴだった。


一番上に上がってきたのは、「若手イケメンイタリアン人シェフ、ルカ・ベローニ氏が語る!美味しいパスタの茹で方」だった。


クリックしてみると、料理人の格好をしたルカの写真と、パスタの写真がでてきて、美味しいパスタの茹で方について書かれていた。


そして一番下までスクロールすると、ルカの紹介文が書かれていた。


表参道にある高級イタリアンレストラン経営者兼シェフ。


カリフォルニア出身。


両親が経営するレストランで修行後、日本に姉妹店を出店。


レストランコンサル業も担っているー、と書かれていた。




「この人、朝の料理番組にも出たことあるみたい。」


「表参道高級イタリアンレストラン、ラルーチェの経営者だって。」


千秋と仁が携帯に目を落としたままそれぞれ言った。


画像検索結果の中には、千秋がいう朝の番組に出ている出演者と一緒に写っている写真があった。


「ちょっとした有名シェフじゃん!」


千秋が再び大きな声で言った。


「しかもこのレストラン、住所がないぜ。完全予約制で予約した人のみにご連絡差し上げます、だってよ。今時そんなんで儲かんのか?」


「3ヶ月先まで予約取れないってレビューに書いてあるよ。」


千秋がすかさずフォローを入れた。


私よりも、仁と千秋の方が途端にルカのことに詳しくなり、私は本当にルカが誰なのかを知らないと思いしらされた。


「この人、なかなかやり手じゃん。お!しかも年齢33歳!若いー!」


7歳年下の千秋が言うのもなんだが、確かに33歳でここまで成し遂げているのは若い方だろう。


盛り上がり続ける千秋をよそに、仁は冷静なまま携帯を見ていた。


そして、落ち着いている仁とゆっくり目が合った。


「何?」


何か言いたそうな仁に私が聞くと、仁はただ「別に」とだけ答えた。


言おうとしていたことは、なんとなくわかっていた。


この出会いが一体何だったのか。


そしてルカは一体何者なのか。




インターネットを通してルカのことはわかった。


私が、知らなかったルカ。


むしろ、ネットに書かれていることの方が、本当のルカの姿のような気さえして、途端に心の中に雨雲がのしかかったようだった。


有田さんは、何の目的があってルカを私に紹介したのだろうか。


ルカは本当に、日本人の友達など必要だったのだろうか。


仕事と関係のない人と出会うことが、ルカにとって本当に難しいことなんだろうか。


一体、この出会いは、何のためにセッティングされたんだ?

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