chapter5-21-2:本音の邂逅
敵であるはずの「青葉 キョウヤ」に連れられて、俺はふたりきりで大人しくエレベーターに乗る。
行き先は最上階。インターンシップ初日にも連れて行かれた、奴のオフィスだ。
要は誰の邪魔の入らない場所で、一対一で話そうと、そういう魂胆らしい。
……まぁ、いい。それは臨むところだ。
変身機がない以上、今戦闘になっても勝ち目はない。
いや、そもそもあったところで、前回の二の舞だろう。
あのときはギンジや怪人たちの援護もあって、ようやく逃げおおせただけだ。
単身でこいつをどうこうできると思えるほど、俺はうぬぼれてはいなかった。
……エレベーターの扉が開き、数週間ぶりの豪華なオフィスが目に入る。
何度みても慣れることのない小綺麗なその場所に踏み入ると、俺は先導するキョウヤの背を睨んだ。
「さて、ここなら外に話が漏れることもない」
「……どういうつもりだ」
「おおっと、もう演技は終わりかい?まぁ本音で語ってくれるというなら、こちらとしても望むところだが」
素の俺の声色に動揺することもなく、青葉 キョウヤは飄々とした態度で応える。
お互いにお互いの本性を知っているのだから、演技の必要はない。
だから俺は素の態度でもって、自身を圧倒したヒーローと対峙した。
「話は聞いた。お前は俺の正体に気付いているんだろう?なら余計な演技は邪魔でしかない」
「結構。ならお互いに、
キョウヤはソファに座り、こちらにも座るようにジェスチャーをする。
しかしその誘いを俺は無視する。
それを見たキョウヤは残念そうにため息をつくと、觀念したように喋りだした。
「単刀直入に言おう。私は君らと……リヴェンジャーと敵対するつもりはない。その正体を今日まで
前屈みの姿勢で手を組み、こちらを見上げるようにしてキョウヤはそう言う。
君ら《リヴェンジャー》と戦う気はない、といったか。
なるほど、つまりこいつは……俺が今、反英雄組織から距離を置いていることを承知しているらしい。
要はリナと俺、ないしは村の怪人達を引っくるめて第三勢力と捉えているのだろう。
先日のゴルドカンパニーの争奪戦からそこまでを察知して交渉をしてくるのだから、その洞察力には身を見張るものがある。
だが、ここはあえてブラフを張る。
「なぜ、俺個人なんだ?反英雄組織ではなく」
「君はもう反英雄組織には属していないだろう?もしくは所属しているが、現在は疎遠になっているかだ。でなければあんな少人数で、潜入活動などしないさ」
俺の誘ったミスリードを、キョウヤはやすやすと踏み越える。
確かに、奴の言う通りだ。
あれが反英雄組織の作戦だったなら、火力ビルでの激戦のように主力を全て投入するような作戦となったはず。
ワカバヤシ学園での一件のようなレアケースを除いては、このような回りくどい策は取らないだろう。
「それに、恐らくだが……君と若林 レイカは、性格が合わないよ。彼女は……そうだな、君の神経を逆撫でするタイプだろう?」
「ッ、!」
つい、驚愕の色が顔に出る。
反英雄組織と、英雄達に変身機を納入するゴルドカンパニー。
そのそれぞれの長が……顔見知り?
ならば反英雄組織の使う変身機「エゴ・トランサー」の出処は。
ふとそんな考えが頭を過り、しかし一瞬で振り払った。
このことは後で聞こう、今はキョウヤとの会談に神経を集中するときだ。
俺の動揺を知ってか知らずか、キョウヤは構わずに話を変える。
「聞いてくれ。
奴が告げる言葉に、一切反論は生まれなかった。
奴と俺との「ヒーロー」への認識に、ほとんど相違はない。
初めは本当に正義を胸に抱き設立された組織であっても、今、現実にあるのは他者を害することしかしらない怪物たちの巣窟だ。
フェイスソードらを、除いては。
「……そうでない奴も、幾人かはいるようだが」
ふと、口をついて言葉が出る。
俺自身発したつもりのないその言葉は、しかしキョウヤからの深い共感を掴んだ。
「あぁそうだ。だから彼らのような善人、本物のヒーローだけをピックアップし、それ以外の者からは力を取り上げたい。そのためには、君らの協力が不可欠だと考えたんだ」
キョウヤは立ち上がり片手を胸にあて力強く声を上げる。
その手は、奴のスーツの胸元に取り付けられた議員バッジを掴んでいる。
「そのために私は都知事選に出馬した。今の、どこからも独立した立場にある粗暴な組織を、公的な立場から正すために、ね」
その瞳は、情熱に燃える熱血漢そのものだった。
奴の言葉、奴の行動原理。
そのすべてに一切の矛盾はなく、また一切の躊躇もないのだろう。
「……」
それがどこか、俺の目には歪に映って見えて。
しかしそれを本人に言うこともなく、俺は一旦奴へ同調する言葉をかけた。
「……話はわかった。アンタの言っていることは、間違いなく本音だと思う。俺たちの目的とも、一部は合致する」
「なら……!」
俺の言葉に、目を輝かせるキョウヤ。
しかし。
「ただひとつ、確認したいことがある」
どんな協調関係を結ぶにしても、ここで決裂し戦闘になるにしても。
何にしても、今は確認しなければならないことが残っている。
俺は奴の目を見据え、静かに問う。
「若林レイカと、アンタの関係はなんだ?奴のことを深く知っているような口ぶりだったが」
「――」
俺の言葉に。
キョウヤはバツの悪そうな表情を浮かべる。
先程までの義憤に燃える男の姿はそこになく、むしろ、俺を気遣うような目線がちらつく。
――なんだ、なんなんだ。
そう俺が疑問を抱き、口を開こうとした瞬間に……キョウヤは伝えようとする。
「知っている。なにせ彼女は――」
だが。
――ちょうど、その時だった。
キョウヤの座るソファと、俺との間に広がる空間。
上質な木で作られた変哲もないテーブルがあるばかりの、なんでもない場所。
しかし、なんだろうか。
そこに、俺はなにか……強烈な違和感を覚えた。
それは、恐らく因子。本能で感じられる、能力者にとって身近な物質。
その励起の前兆だろうか。
まるで、変身中の自身が技を放つ瞬間に得るような感覚を、今、何もない空間に対し感じている。
……俺では、ない。キョウヤがなにかをした様子もない。
刹那、俺とキョウヤの目が合う。
それはお互いに、今差し迫らんとする何らかの異常に気付いた瞬間だった。
俺達は互いに回避姿勢を取り、その場から飛び退こうとした――、
「はい、そこまでです♪」
瞬間。
声が聞こえた、耳慣れた女の甘ったるい声。
それが誰のものなのか気付くより先に、今度は異音が響き渡る。
――俺とキョウヤ、その間の空間にあったテーブルが、急に爆散したのだ。
ひとりでに、唐突に。
轟音と共に台が炸裂し、その破片が散弾銃の如く辺りへと飛び散る。
……どうにか、反射的に飛び退いたことで致命傷は避けられた。
が、俺は爆風と、それによって飛散する木片の一部を身に受けて傷だらけになり、後方へと大きく吹き飛びされた。
……頭から、一筋の血が流れて視界を赤く染める。
何が起きたのか。誰が……いや、誰かははっきりしている。
だが何故、ここに。
そんな思考をめぐらすうち、目に映る真っ赤な光景のそのなかで。
人影がゆらめき、それがこちらを一瞥するのを俺ははっきりと見た。
だから、そいつに向かって俺は吠えた。
その女の。
「レイカ……!」
「あら、もう「さん」はつけてくれないんです?」
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