chapter5-21-3:偽りの動機
突然の爆発と、そこに現れた若林 レイカ。
これが俺と青葉 キョウヤの命を狙い、奴が引き起こした攻撃であることは、誰から見ても明白だった。
「レイカ……!」
「あら、もう「さん」はつけてくれないんです?」
俺の隠しもしない敵意を前に、しかしレイカは飄々とした様子だった。
肩を落としておどけ、こちらをにやついた表情で見つめている。
まるで何事もなかったかのように。
たとえ先程の攻撃で俺が死んでいたとしてときっと……この女は、ずっとこの態度を崩さないのだろう。
そう確信できるほどの邪悪さを俺は目前でほくそ笑む女から感じ取った。
そうして、俺がレイカを視線で牽制するなか。
キョウヤが、煤をスーツから払いながら声をかける。
「――随分と久しいな、若林くん」
「あらキョウヤさん、お久しぶりです♪」
キョウヤからかけられた挨拶に、レイカは明るく答える。
先程の会話から察してはいたが、やはりキョウヤとレイカは随分と親密な間柄にあったらしい。
「最後にあったのは……あぁ、そうだ!」
そして、レイカはわざとらしく考えるような身振り手振りをとり。
――信じられないことを口にした。
「一年前の
「は――?」
一年前?
英雄達と敵対し、彼等に反抗することを目的に孤児達を兵士と集めていた組織、「アンチテーゼ」。
その首魁と目されるレイカが、敵組織の拠点につい最近まで足を運んでいた?
俺の混乱は刻一刻と増すばかりだ。
だがそれを尻目に、キョウヤは告げる。
「久しぶりついでに、これは餞別だ。受け取ってくれ」
――瞬間。
室内の壁、四方のそれから、急に軋むような異音がなる。
そして瞬きをした、次の瞬間には。
「!?」
壁面が180度回転し……その裏側にあったものが露わとなる。
そこにあったのは、無数の銃口だ。
壁一面にびっしりと張り巡らされた、幾万ものガトリング砲たち。
それらは一様に、その照準をレイカに合わせ……轟音を上げながら、一斉に。
「撃ち殺せ」
――掃射を開始する。
土砂降りのように放射された、弾丸。
それは瞬く間に俺の視界を、広々としたこの部屋を一瞬で埋め尽くす。
「が、ァ――」
一瞬聞こえたうめき声は、砲塔からの轟音で瞬く間にかき消される。
舞い散る血と肉も、激しく巻き上がる粉塵と煙でかき消されて、部屋の中の視認性は急激に悪化した。
血煙か、土煙か。
それすら判然としないほどの黒煙が、あたりを包む。
「おい、これは……!」
話を聞くよりも先にその相手を粉々にされ、俺は思わずキョウヤに食って掛かる。
聞きたいことが山程あった。だというのに……こんなにもあっけなく鏖殺されてしまうとは。
しかし、キョウヤは掴みかかる俺を一切無視して。
ただレイカのいた地点から一時も目を離さずに……、
「見ていなさい」
そう制止し、ゆっくりとレイカのいた方角を指差した。
今も放たれ続ける無数の弾丸は、着弾の瞬間に炸裂し、幾重もの爆風をあげて土煙にその姿を隠す。
俺達から見えなくなってからも、そこには続けて弾が撃ち込まれ続けて……それから、十数秒ほど。
壁面の銃口は一様に赤熱化し、陽炎を上げながら一斉射を止めて、一転して部屋には静寂が戻る。
ついで、換気設備が動き急速に煙を吸い上げる。
煙はやがて晴れ、焼け焦げ、抉れた部屋の地面が露わになった。
そしてそこには、半ば原型を留めない状態でレイカだったものが転がっていて。
「……」
死んだ、のか?
こんなにも呆気なく。
何事にも余裕の表情で応対し、人を食ったような性格で底をみせないあのレイカが。
疑念を抱くまでは、少しばかりは信用していた女の成れの果てが、赤い染みと骨の欠片になってそこに散らばっている。
俺はそのことがまだ信じられなくて、ただその遺体をみつめていた。
――だが。
「な……」
次の瞬間に俺の目の前で、信じられないような出来事が起きた。
転がるレイカの死体。
――その散乱した血まみれの骨と皮が……ゆっくりと、動いたのだ。
「ッ、なん、だ……これ」
そしてそれは痙攣し、動き出し、寄り合い……やがて、元の位置に戻る。
醜悪。
ただ、不可解かつ不愉快な光景だった。
グチャグチャ、ビチャビチャと。
悍ましい音を立てながら結合したそれは、やがてその輪郭を確たるものとする。
形だけは修復された血に染まった腕。
それはまたもうぞうぞと蠢き、地面に転がるなにかを握る。
そしてそれを天へ掲げ。
その表面に備え付けられたボタンを、ネチャリとした音と共に押下した。
<
瞬間。
辺りが記憶触媒から発された、紅い輝きに染め上げられる。
それと同時にレイカの肉体は、すぐさま元通りのキレイな肉体へと再生――否、転生を始める。
かろうじて残っていた骨と皮も刷新され、因子によって新たな肉体が構成され始める。
再生までの時間は、およそ30秒。
たったそれだけの時間で、一度死亡したはずの若林 レイカは、元通りの姿へと完全に復活を果たしたのであった。
「能、力者……!?」
俺は思わず零す。
レイカは能力者ではない、そういう話だったはずだ。
確かに、能力らしきものの断片を覗かせることはあった。だがそれらは他のメンバーがアシストのためにレイカに能力を使用しているだけで、彼女自身の力ではなかったはずだ。
そもそも26歳以上の、国断事変より前に産まれた世代の人類に能力者はいない。
どころかレイカは26年前の資料に研究者として名前を記されていた、とう考えても時期が合わない。
だが、目の前の光景を見てしまっては、それらは全て嘘だったと断じずにはいられない。
何故ならその手に握られていたのは、間違いなく記憶触媒だったのだから。
因子を操れる能力者しか起動できないそれを、平気で行使する姿は紛れもなく能力者。
つまり今まで俺たちの知っていた若林 レイカの情報は、全て嘘。
「そうだ、彼女こそ……」
キョウヤは無慈悲に断言する。
「英雄達最高幹部「
彼女こそが、組織の裏切り者であると。
どころか……俺達
「リヴァイヴ・アクターその人だ」
若林 レイカのおもちゃでしかなかったのだと。
「いたた……もう、蘇生だってタダじゃないんですよ?」
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