chapter5-20-2:決行、強奪作戦
「よし、と……」
新都地下、ゴルドカンパニー近郊の地下水路。
そこにユウ、クロコダイル、そして数人の怪人たちは集まり、作戦開始の準備をしていた。
この作戦の根幹を成すのは、ギンジから預かったある物だ。
なによりも重要なそれは、単に必要な戦力というだけでなく、鳴瀬ユウの正体が露見することを防ぐ意味でも大切な物である。
「いけそうか?」
「は、はい!試運転もしましたし、いけるとは……」
俺が不審な様子に声をかけると、クロコダイルはわたわたと手振りをしながら答える。
その様はどうにも、変に浮足立っているように思えた。
「……大丈夫か?」
それに俺は、柄にもなく心配の言葉をかける。
「あ、いや大丈夫で……ただその、ボクで本当にいいのかな、なんて」
そう語るクロコダイルの顔は、プレッシャーに押し潰されかけているように見えた。
……やはり。
こいつはどうにも、昔の俺に似ている。
フェイス・ソード――明通 イクトとは、また別のベクトルで。
復讐者となる前、義憤からヒーローに楯突く前。
学校に通っていた頃の、自分に自信のなかった頃の俺に、とても似ているのだ。
「正直、そこは若干不安だが――」
「うぅ……」
だから、あえて言葉を選ばず。
「でも、お前は真面目そうだし、良い奴そうだから任せられるよ」
ストレートに、思ったことだけを伝えた。
こういうタイプには、理屈を捏ねくり回すより事実だけを口にするほうが通る。
考え込むよりもただ、信頼した理由だけ。
「……俺を、僕をよろしくな」
「――」
俺の言葉を聞いたクロコダイルは、一瞬呆気にとられたような顔をし。
「は、はい!頑張ります……!」
すぐに、勇気に満ち満ちた、やる気のある表情を見せたのだった。
◇◇◇
翌日、朝。
「おはようございます!」
鳴瀬ユウがゴルドカンパニーの従業員ゲートを通り社内に入ろうとすると、警備員が現れる。
それに対し彼がIDカードを手渡すと……受け取った警備員は確認し、ゲートを開いた。
「今日も元気だね、インターンシップはいつまでだっけ?」
「あ、えっと、今週末なので……明後日までです!」
「頑張れよ、この会社に受かって俺たちの話し相手になってくれ」
辟易とした様子で、警備員は続けて語る。
「ここの従業員は俺たちへの態度悪くてなぁ……まったく、超一流企業だからって、お高く止まって」
「あ、あはは……はい、僕でよければぜひ!」
愚痴っぽい彼等とひとしきりの雑談を追えると、ユウは従業員用のエレベーターに乗ろうとする。
――その瞬間だった。
遠くの方から、激しい爆音が響いたのは。
「なな、なんだ!?」
「正面玄関だ、向かうぞ!」
「え、えぇ、とにかく上に――」
鳴瀬ユウは、焦ってとにかく適当な階のボタンを押す。
24階、50階、55階、78階。
そのうちエレベーターの戸は閉まり、騒動による振動を物ともせずに、エレベーターは上昇していく。
そうして、彼は向かった。
動くエレベーターが止まるのは最寄りの階、24階だ。
――目当てのもの、
◇◇◇
――ゴルドカンパニーの正面玄関。
そこへ「アンチククリ」から砲撃を見舞い、
煙のなかを、悠然と。
そして一陣の風と共に土煙は吹き飛んで、黒き鎧が内部にいた民間人、従業員の目に映った。
暗く、怪しく紫に輝く因子を靄のように発していることで、はっきりと姿は捉えられない。
だがそれが怪人でも、ヒーローでもない全く新しい脅威であることは、その場にいた誰もが察知できることだった。
「きゃあああっ!」
「おいどけ、どけ!」
老若男女が、パニック状態でその場を去っていく。
あとに残されたのはリヴェンジャー、俺一人であることを確認し、意図的に発していた靄を解除し、社内へと入っていく。
そして俺が、エントランスの二階に足を踏み入れた瞬間。
その足元に向けて、発砲音とともに銃弾が撃ち込まれた。
『っ』
コンクリートが爆ぜ、土煙が上がる。
突如響いた発砲音だったが、反射的に足を動かしたことで、直撃は免れた。
そして音の方向を向くと……そこには、一人のヒーローが銃を構えてこちらを威嚇していた。
『貴様、知ってるぞ!
『心はもう離れてるがな』
俺は自嘲しながら素直に答える。
レイカへの疑念、そして元々ない組織への忠誠。端から信用などしていなかったといえば、それまでだが。
だがそれは、事情を知らないヒーローからすれば、それはただただ挑発としか取られなかったらしい。
『訳のわからない、ことを!』
問答無用とばかりに、重ねて弾丸が斉射される。
電磁波を纏った、ごく一般的な銃弾。
それを短剣で弾きながら走り、相手から見て死角になる柱の影へと潜り込む。
加えて、撃ち込まれる弾丸。
着弾した弾は柱をやすやすと貫通し、俺がいる側の床へと次々突き刺さっていく。
だがそれが俺に直撃することは何故かなく。弾丸が頭上を掠めていくなかで、俺は冷静に二の矢を構える。
手持ちで使える因子は四つ。
一つ、『破砕』。
俺の家族を葬った、憎むべき仇の残した因子。
二つ、『魂狩』
親友を襲った、愚かなヒーローの因子。
そして、三つ……『盗賊』。
怪人となりかけた相手から回収したものであり……因子だけとなった後も意識を保持しているらしい、危険な因子。
相手は単純明快、遠距離攻撃を主とするタイプのヒーローだ。
シンプルに考えれば、『映写機』で翻弄するのが最善のようにも思える。が、今は手元にない。
それに、ことヒーロー相手にこの先入観は危険だ。誰がどのような力を秘めているのかも、対峙してみなければ分からないのだから。
『さぁ、出てきたらどうだ?そんなところで……記憶触媒など眺めていないで』
『っ』
――やはり。
相手は、俺が何をしているかまで把握したうえで待ち構えているらしい。
柱の裏に隠れた俺に、一発も射撃が命中しなかった理由がそれだ。
あれだけ撃てば、どんなに下手くそでも一発は当たる。
俺を炙り出したがっている……つまるところ、そういうことだ。
『――なら、真正面から行かせてもらう』
『賊の分際で、随分と殊勝なッ!』
壁から姿を表した俺に、ヒーローは舌なめずりをする。
奴の切り札、その術中。
それにあえて乗ってやるのも、悪くはないだろう。
そう思い。
俺は改めて拳を構え、奴の元へと走ったのだった。
◇◇◇
所変わり、ゴルドカンパニー本社ビルの裏手側。
上昇するエレベーターは、やがて目的地である24階に到着する。
ゆっくり扉が開くのを見届け、鳴瀬 ユウは恐る恐るそこから降りた。
『ここまでは順調……あとはユウさんが、騒ぎを大きくしてくれているうちに……!』
そう呟く彼の腕には、不自然な揺らぎがあった。
うっすらと半透明なそれは、光学迷彩を纏ったよう。
変身機――エヴォ・トランサー。
ヒーローが付けているものと同じそれが、彼の手にあった。
『怪人なの、バレないようにしないと……!』
そう、彼の正体は「クロコダイル」。
ギンジから借りたエヴォ・トランサーと、ユウから借りた『映写機』の記憶触媒。
それを使い鳴瀬 ユウへと擬態した、怪人その人であった。
そんな彼は、恐る恐る倉庫の前に来て操作盤を触る。
パスワードはインターンシップ期間中、ユウが盗み見たものを入力。
すると扉は音も立てずに開き、クロコダイルはその中へと入り込んだ。
倉庫内部はそこまで広くなく、様々な物品が雑然と置かれている。
なかには因子が込められた状態の記憶触媒などもあった。
だがあくまで、目的のものを奪取するのが最優先と、クロコダイルはスルーする。
そしてひとしきり捜索したのち、一つの箱を見つける。
金属製のそのケースを開くと、ウレタンの内部にぴったりとフィットするように、一つの機械が収められていた。
変身機に取り付けるためのアタッチメントと、因子装填口が2つ存在するそれを見て、クロコダイルは目当ての物だと確信する。
そしてそれを取り出し、丁寧に箱を元の場所に戻して……彼は部屋をあとにした。
これであとは脱出するだけ。
そう思い、クロコダイルはエレベーターでなく、事前に知らされていた非常階段の方へと向かう。
既に内部にいたヒーロー達はリヴェンジャーの迎撃に向かい、一般人も避難しているはず。
そんな状況下であれば、裏口からあくまで巻き込まれた一般人として脱出すれば変に違和感を抱かれることもない。
この階で目撃さえされなければ……窃盗犯と、疑われることもないはずだ。
そう思い、クロコダイルは階段の方へと駆け出した。
遠くに「非常口」の表示が見える。
あそこまで行ってしまえば、作戦はほぼ成功――、
『おい、おい君!』
「は、ははははいぃ!?」
そう、思っていたが。
『学生か?なんでこんなところに……いや、もしかして例のインターンシップ?』
クロコダイルは、見つかり、呼び止められてしまった。
「そ、そうです!エレベーターに乗ってたんですけど、さっきの爆発のせいで変な階に止まっちゃって……」
『ここは倉庫区画だ、避難シェルターは下の階にあるから……俺が送ろう』
「ありがとう、ございます……!」
――よりによって、
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