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chapter4-2-15:成・果・報・告
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ワカバヤシ学園でのあの死闘から、既に数週間が経過した。
あれから暫く。
俺は自分の拠点へと戻り、それまで通りの生活を取り戻していた。
ヒーローを狩り、アンチテーゼの拠点へ向かい、報酬を頂戴する。そんなルーチンワークだ。
それはつまり……教育実習生「鳴子 ユウ」はその役目を終え、ただの「鳴瀬 ユウ」へと戻ったことを意味していた。
自分のものでない因子を使用した負担もあり、暫くは寝たきりの生活を余儀なくされたが……どうにか、戦えるだけのコンディションは整えられたからだ。
学園の先生方からは引き留められはしたが……俺には本分がある。
―――この新都アオバ中のヒーローを、残らず狩る。その戦いを、こんなところで終わらせるわけには決していかないのだ。何より大切な、妹のためにも。
そんなわけで適当に「他に目標とする進路が見つかった」などといって、その場を脱したわけである。それでも食い下がってくるような人達もいたが……学長の話を引き合いに出した瞬間、すぐに大人しくなったのは記憶に新しい。
―――最早、あの学園に用はなかった。
多賀城 マナカ……もとい「城前 カナコ」の引き起こした事件は解決された。そして本来の目標であるところの専用回線からのハッキング……すなわちゴルドカンパニーからの、「
―――それからの学園の顛末は、至って単純なものであった。
まず、一番重要な事柄から。
能力因子を回収された多賀城 マナカ―――城前カナコは、その記憶を保持したままに力を喪った。
二人の少女の、その壮絶なイジメの連鎖。そのことはある少女の暴露によってあの学校中に知れ渡り、公然の事実となったのだ。
そして、そのことが露見するということはもう一つの重大な秘密をも衆知のこととなるのと同義だ。
多賀城 コウゾウ……マナカの実の父であり、カナコの父親でもあった男の不倫、及び隠し子問題。
その事実は瞬く間に学校中に広まり、やがて学園外のマスコミまでも知るところとなったのである。
結果、学園には連日マスメディアが殺到。
学長自身もその責任を取るかたちで辞任を発表し、学園内はしばらく、各方面への対応に追われていた。……教育実習生にすぎない俺が引き留められたのは、この対応を少しでも手伝ってほしいという思惑もあったのだろう。
なお、地下に監禁されていた多賀城 マナカはその後、無事に救出されて未だあの学校に通い続けているという。
なんでもシズクが彼女を自分達のグループに率いれて、無理矢理にでも登校させているらしい。
ある種、復讐ともいえるのか。まぁシズクからすれば、自分達を害していた人物をイジメていたということになるわけだから、単純に親切心なのかもしれないが。
ちなみに彼女には「もしカナコと似たようなことをし始めたらまた現れる」と脅しているので、めったなことにはならないだろう。
正直単なる法螺で、「
しかも驚くことに、「多賀城 マナカ」を打ち倒したのは、表向きにはシズクだということになっているらしい。
なんでもアイツが地下にくるまでの間に、シズクは彼女から何故か幹部への内定をもらっていたそうなのだ。本当になんでかわからない。
トップの失墜に総崩れとなった幹部勢に颯爽と取り入った奴は、瞬く間に情報操作を開始して……今や、英雄扱い。
なお、勿論リナの許可は取っているらしい。
妙なところで手際がよいというか、立ち回りが上手いというか……いつかしっぺ返しを食らいそうな感があるが、だとしてもそれは、いつかの別の話だろう。
そして―――この件を語るうえで、一番重要な人物について。
城前 カナコ。多賀城 マナカの姿を奪い、傍若無人の限りを尽くしたあの学園の暴虐皇女。
彼女は今、「アンチテーゼ」本部にある地下独房へと収監され、日々尋問を受け続けている。
始めのうちは俺やリナ、学生たちや自身の父親、そして死んだ両親への恨み言を繰り返すばかりだったが……やがて、一週間ほどで落ち着いた。
今では「
そのことはきっと……本人が、一番よく理解しているに違いない。
反省している、などとは欠片も思えないが……最早能力を喪った彼女に、実行できる対抗手段もありはしなかった。
◇◇◇
「
それは妹、ハルカの治療費を向こう数年ぶんも補うに十分すぎるほどの額でもあり、俺はそれに足るぶんだけを頂戴して……残りの額を受けとることは、努めて固辞し続けた。
なにせ今回の件での自分の活躍など、たかが知れていたからだ。それよりもリナ、シズクという現地の協力者によって綱渡り的に成功しただけであり、俺ひとりならば間違いなく、カナコに殺されていた。
それに、ここで貸しを作っておくのも悪くないという打算もあった。貰わなかった報酬は、今後の便宜に変えてもらう……というのが、理想的な流れだ。火力ビルでの一件以降、組織の子供達からはやけに同情的に見られていたりするのが気に入らないが……とにかく、組織内でのしがらみに縛られない、自由な行動を確保するのが今の俺の第一目標だ。
だから、諸々を断ってそのことをそれとなく伝えたのだが……
―――だがそれでも、アンチテーゼのレイカは「どうしても!」などとしつこく食い下がり聞いてはくれなかった。
そこで仕方なく、簡単なものでいいから、「記憶を消す前に協力者であり命の恩人でもあるリナの願いを叶えてやってくれ」などと妄言を吐いた。
……だが、それがいけなかった。
『それで、志波姫ちゃんはなにがお望みで?レイカさんの権限で、欲しいものがあればなんでも買ってあげちゃいます!ユウさんの頼みですし!』
何を隠そう……司波姫 リナは、記憶を消される寸前のところだったのだ。
アンチテーゼと、俺自身の存在。しかも変身機まで使用し、あまつさえ変身してしまったのいうのだから……彼女を捨て置く選択肢など、なかったわけだ。
けれど、あれだけの活躍をしてもらって、なんの報酬もなしというのは些か失礼だと思った。
妹、ハルカとも随分仲良くしてくれたようだし、なんであればこの子のお陰で容態が快方に向かっているという事実もある。願わくば、ハルカについての記憶は消さないようにしたいところだが……果たして、レイカがそれを認めるかどうか。
話しかけられたリナはすぐに、俺に向かってお伺いを立ててきた。
『……せんせい、本当になんでもいいの?』
本当に、不安そうな顔。
その姿が、あまりにも殊勝で、不憫で。
彼女の歩んできた孤独の人生を思えば、なにかをお願いすることなどほとんどできなかったのだろう……などと、甘い同情を抱いてしまったりなどして。
『あぁ、好きに頼め。随分と迷惑をかけたし、お前は長い間我慢し続けたんだ。これくらい、当然貰っていい対価だろう』
俺は、彼女にそう促してしまったのだ。
……あぁ、思えばここではっきりと言うべきだった。
もう戦う必要はない、お前は平穏に暮らすべきだ。俺達のことは忘れて、学業にでも打ち込めばいい、と……
けれど。
彼女の思惑は、願いは。
そんな俺の願いとは……およそ、正反対のものだった。
『……なら、わたし―――』
そして、彼女が言った言葉は。
「―――せんせいと、いっしょに戦いたい。カナコちゃんみたいなヒーローがたくさん迷惑をかけてるなら、この手で、止めたい」
「……は!?」
とても、衝撃的な……。
―――彼女が自分自身でやりたいと考えたことを、そのまま体現したものだった。
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