chapter4:牢獄の魔法少女

chapter4-1-0: わたしの、やりたいこと


 ◇◇◇





『誰か、なんて関係ない』



『―――キミは、キミのやりたいことだけをすればいい』


 あの日彼は、確かにわたしにそう言った。

 でもいくら考えてもやりたいことなんて全然思い浮かばなくて、すぐには決まらなくて。


 でも、こころに思い描いていたこの気持ちだけは、確かにほんものだったと、今この瞬間に確信できたのだ。




『―――ぐ、う……!』


 ―――倒れ伏す、黒鎧の英雄。

 その装甲には至るところにヒビが入っており、最早立ち上がる力すらも喪われようとしている。

 仲間は決して助けには来れず、孤立無援のままに戦う彼。武器は遠くに弾き飛ばされ、その拳は既に砕ける寸前だ。


 ……わたしはそこに手を伸ばそうとしたけど、結局、助ける力なんて持っていなくて。


『アハハ!いい様ね、せんせー……!』


 静寂に響いたそんな空間に、そしてそれを嘲るような、醜い性根の透けた甲高い女の声がひびく。

 それは不快なくらいに鮮明に、わたしの鼓膜へとその音を伝えた。


 女は、やたらとフリルで着飾った白とピンクの衣装を揺らしながら、こちらを嘲るような笑顔でみていた。

 その過剰な可愛らしさを押しだしたビジュアルは、一周回って悪趣味とさえとれた。そんな彼女の姿は、その内面にはお似合いだと心底思えた。


 そんな女が、わたしを―――そしてわたしを守ってくれたヒーローを、馬鹿にしたような目線で見下ろし、見下している。




 ―――そのことを認識した時、真っ先に胸に去来したのは、その女への怒りと、殺意のみだった。

 それはきっと、ただ空虚な生き方をしてきたわたしが、ついに。産まれて始めて……他者に対して抱いた激情。



 だから―――その衝動に身を任せ、わたしは叫んだのだ。


 今までの自分と、おさらばするための言葉を。

 そして、


「―――変、身』



 目の前の、醜悪な存在を叩き潰すための、そのの言葉を。







 ―――Chapter4:牢獄がくえんの魔法少女

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