chapter3-11.5:BATTLE RESULTS


 ◇◇◇



 アオバ市内有数の高層を誇る「火力ビル」全体が、にわかに震動している。

 そしてそれは明らかに、地震やなにか自然的な現象によるものではなかった。まるで、なにか巨大な何かがビルを殴りつけているかのような、そんな不自然かつ断続的な揺れ。


 それに対し、怪訝な顔をしながらも戦っていたのは「反英雄組織」所属の戦闘員たちである。


 彼らは「リヴェンジャー」を送り出した後も、継続して迫り来る機兵達を迎撃し続けていた。

 最初こそ物量に押し負けていた彼等。だが、メカニックマスターの参戦もあり戦況は徐々に変化していった。


 最初に異変を感じ始めたのは、その時だ。


 ―――突如として敵の数が、減りだしたのである。


 全員がそれぞれ一機を相手取っている間に、奥に控えた一列が。また一歩戦線が押し上げられると、その最後列に控えていた一列が、と加速度的に敵の数が減少していったのだ。


 だがしかし。遂には半数以上の兵器が後退しても尚、その防衛網の強固さは健在だった。そのために、頂上での戦いが決着した今もなお、数十機の敵との戦闘が継続されていたのであった。



『あっ!スナイプ・グレイブさん! 』


 ……そんななか、一人の戦闘員が一階に到着した一行の存在に気付く。

 蒼い大柄な鎧の戦士、「スナイプ・グレイブ」。そして、その直属部隊である第二部隊の戦士達だ。


『……上層の作戦は失敗した、撤退するぞ』


 彼は重々しい声でおもむろに通信でそう告げると、総員に撤退命令を発する。

 それを聞いた各員もそれに従い、徐々に交戦を取り止め、後退を始めた。


『なんと……分かりました、総員撤退を! 』


 上層の作戦の失敗。

 その言葉に、各員は特に追求をすることはなかった。それが事実だというなら、ただ受け入れてこの場を離れるだけだ、という割りきりのよさ。


 それもあったが、一番は。

 ……他者の失敗を追求することの無意味さを誰もが知っていただけだったのかもしれない。



 そうして誰もが、戦いを取り止め後退していくなか。


『くそ、僕の兵隊が貴様らごときに……!』


『遅れを取るかぁ!!!』


 一人の男と、それに造り出された瓦礫の兵隊たちが、相手方のロボットをただ、攻撃し続けていた。


『どーだ、思い知ったか!これが「英雄達ブレイバーズ」最高の兵隊をもつ、僕の実力!』


 彼は如何せんプライドが無駄に高かった。

 だから「自分自身の兵隊よりも、相手が同質の能力で造り出した兵隊のほうが強い」という事実を、受け入れられなかったのだ。


 だから意固地になって、戦いを続けるしかなかったのだ。それが彼にとっての、ヒーローとしての自身の存在証明であったのだから。



 だが、そんな彼の視界の端。


 そこに、黒い影が過った。


『……ってうわ!?黒い化け物!』


『人を虫かなんかみたく言うな』


 現れたのは、彼の兵団を倒し、そして再び彼に戦う力を渡した黒き戦士、リヴェンジャーだ。


 それを見た瞬間、戦意に過剰に暖まっていたメカニックマスターの心は、一瞬落ち着いた。それは目前のリヴェンジャーへの恐怖からだったのかは分からない。


 だがここにきて彼はようやく、自分自身が「英雄達」のヒーローであること、そして彼に理不尽に協力させられ、相手方の「反英雄組織」と協力させられていたという事実を思い出した。


 ―――だから宣言する。


 敵が粗方居なくなった今、今度こそ自分は「英雄達」の戦士へと戻るのだ、と。


『ふん!奴等は概ね片付けた!つまり僕は貴様らに協力する理由はもうない……ここからは、敵どう』


『あっお前裏切り者認定されてたぞ』


『なんでー!!?』


 ―――だが、そんな決意は理不尽な現実に押し潰された。

 そう、彼は既に、「共に警護をしていたイン・ファイターと「英雄達」を裏切り、敵対組織に協力した」―――などという、理不尽極まりない誤解をされていたのだ。


 ―――「英雄達」は裏切り者を決して許すことはない。

 そんなことは、その組織に存在している者であれば誰もが知っていることだった。そして、それを弁明しようとしたところで、聞き入れられる訳もないことも。


『ここに残ってたら多分消されるだろうが……なら、反英雄組織についた方が、安全じゃあないか?』


『……選択肢ないが』


 メカニックマスターは絶望した顔でそう呟く。

 もはや彼は万策尽きていた。そんな彼に残された選択肢は、最早ただ一つしかありはしない。


『おい早くしろリヴェンジャー、撤退するぞ!』


『あぁ、わかった……で、来るか?』


『むむむ……』


『……ええぃ仕方ねぇ!分かった行く!』



 ―――斯くして、一人のヒーローは「英雄達」から「反英雄組織」へと、鞍替えをすることとなった。

 そんな彼のもたらした情報により、今後の「反英雄組織」は情報面で優位に立ち回れるようになるのだが―――それは後の話である。




 ◇◇◇




『はぁぁぁッ!!!』


 火力ビル上層。

 その付近の空中に滞空していた巨大なロボットに、一筋の閃光が打ち込まれた。


 その握り拳に、フェイス・ソードが斬撃を見舞ったのである。

 そしてその破壊力は、強固な装甲を持つ機兵の拳を易々と両断、爆発。辺りにはにわかに、黒煙が広がった。


『すげぇ、指を破壊した!』

『適合因子なしで変身すると、あんなに強くなるのかよ……』


 それをみていた「英雄達」のヒーローは誰もが、驚愕の瞳でそれを見つめる。

 しかし、その斬撃を最後に彼は遂にその体力を使い果たしてしまった。


 元来、適合因子というものは変身時に過剰増殖する能力因子を抑え込む為のものである。


 フェイス・ソードは膝から崩れ落ち、その剣からは光が喪われる。


 そしてそれと同時に巨大機兵は全身の推進機から炎を放出。

 奪い取った変身機を保持したまま、その空域から離脱を始めた。


『あ、くそ、アイツ飛び去りやがった!』


 ヒーロー達は皆、騒然となった。


 ……残念なことに、この場のヒーロー達に自由飛行能力を持つものはいなかったのだ。

 何人かのヒーローは慌てながら、射撃によって機兵を追撃するが、特に効果はない。


 ―――結局、五つの変身機のうち二つは今の機兵に、一つは「反英雄組織」に強奪されるという、最悪の結果となってしまったのであった。



『はぁ……はぁ……!』


『もういい、イクトくぅん。因子なしでの戦闘はもう限界だろう、変身を解きたまえ』


 崩れ落ちたフェイス・ソードに、グランド・ティーチャーは優しく言葉をかける。

 それはまさしく、教職者のごとく彼を気遣ったもので、フェイス・ソードは変身機をゆっくりと取り外した。


 そんな姿と、彼の外した変身機を見てグランド・ティーチャーは呟く。


『変身機は……結局、3つを喪う結果となったかぁ』


 しかし、その語尾に落ち込んだ気配はない。

 それどころか、その声色はどこか喜びに染まった物。


『……だが!我々はここにあって新たな同志を得た、それもとびきりに強力な人材をなぁ!』


『「英雄達」の未来は明るいぞぁ、キミたち!』


 そして彼はそんな調子で、この先の明るい展望についての演説を始めるに至ったのであった。



 ―――そんな中で、フェイス・ソード―――もとい、明通イクトは呟く。


『……私は、僕はなるんだ」



 ―――そうだ、きっと正義の味方に、人を護る英雄になる。

 例えば……そう、あの人。


 先日不良に向かっていった際に、颯爽と現れ助けてくれた、あの憧れのヒーロー 。

 実力の伴わない僕とは違い、自身の力で悪党を制圧して去っていった、あの勇敢な青年のようになるんだ。



 ―――そう、鳴瀬ユウさんのようなヒーローに。



『きっと、きっとなってみせる―――!』




 そんな決意と共に、明通イクトは天を見上げる。

 その先には予感―――未来のビジョンが浮かんでいた。

 自身がヒーローとして活躍する未来。


 そしてそこに至るための道程が。

 だから彼は歩み始めるのだ、その未来に向かっての道を。




 ―――その到達点が、幸せな未来だと盲信して。

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