chapter3-12(end):惨憺たる報告
◇◇◇
あの物資強奪作戦の失敗から、数時間が経過した。
怪我をしていた構成員たちも治療班の措置を受け粗方復帰したその頃、俺―――鳴瀬ユウことリヴェンジャーは、何人かの構成員達、そしてメカニックマスターと共に再び「
……それは正しく、敗走だった。
拠点につくと同時に、「英雄達」を裏切り反英雄組織への加入を希望したメカニックマスターは、数人の構成員達に連れられえ尋問室へと連行。
それと別れた俺たちは、足取り重く、作戦前にも集まったあの
「―――それで、成果は?」
拠点の作戦室にて待っていたレイカは、いつになく真面目な顔でそう質問する。
「……」
それに対し、共にいた構成員たちは無言だった。
言葉もない、といってしまえばそこまでだが、それでは話が進まない。
そう思った俺は致し方ないとばかりに、彼女が求めた成果物を提出する。
「これを」
「
目標であった五つの変身機の奪取、そのうち実際に確保できたのはたったの一丁だ。
うち二丁は「英雄達」の元に、そして残りは……最悪なことに、未知の第三勢力の手の内に。
正直、これは俺自身としても不甲斐なさを感じる結果ではあった。
明通イクト……もといフェイス・ソードとの交戦で遅れを取ったこともそうだが、それ以外にも反省点は数多い。
もう少し上手く立ち回れば、あるいは全ての変身機を確保することも不可能ではなかったのではないか。
そんな「たら、れば」が脳裏に無数に浮かぶものの、結局は後の祭りだ。
実際は様々な要因が重なってしまい、今回のような有り様となってしまったのだから、言い訳のしようもない。
……だが。
「あの状況下で一つ確保しただけでも、戦果としては上々だと思うが」
自分達は最善を尽くした。
そう考えなければ、わざわざこんな荒事をやっている意味もない。
特に俺は、実質ハルカを人質に取られているような有り様だ。万が一にも、利用価値無しと取られるわけにはいかない。
「予期せぬ新しいヒーローの誕生に、未確認勢力の襲撃。あれだけ混迷とした戦況下で、俺たちは最適の行動を取ったと思う」
「……それに、新たな協力者も確保したわけだし」
やたらと早口で、矢継ぎ早に出てくるその弁明の言葉。
当然、自分自身でも思ってもない言葉だったが、フォローの為ならば致し方なし、と俺はそれを発し続けた。
「はぁ……もう、リヴェンジャーさんはこういう時ばかり口が回るんですから!」
捲し立てられたレイカは、「やれやれ」とばかりに首を振る。
そこに、先ほどまであったような我々への非難の目線はない。どうやら先ほどの態度はあえてやっていたものだったらしい。
大方、他の子供達がこの作戦失敗に対し甘い考えでいることを危惧して、そんな行動に出ていたのだろう。
しかし思った以上に、俺以外の構成員達は落ち込んでいるようだ。そんな彼女の心配が杞憂だったことは、今の状況が十二分に証明している。
むしろ、これ以上叱責することは、余計に彼等を気落ちさせることにしかならないだろうと、彼女も判断したのだ。
「……確かに、メカニックマスターのヘッドハンティングは私も予想だにしない成果でした。それについては、本来の作戦目標以上の功績とはいえるでしょう」
レイカは深い溜め息をつきつつ、俺の弁明を肯定する。
ヒーロー「メカニックマスター」の能力を保持したままでの加入。それは「
なにせ、彼の口から「
「ですが!あくまでも本来の目標は全変身機の確保であったことはお忘れなく!しかもうち2つは、第三勢力の手に渡ったかもしれないっていうんですから……」
そこまで言うと、レイカは頭を抑えため息をつく。
……そうだ、第三勢力。
その存在こそが、今回の作戦の失敗、その最大要因だ。
「……レイカさん、あの人たちに心当たりは?あのスケールの違い、僕らや「
「それも目下調査中です。……もう、反「
レイカは顔を手で覆い隠しながら、そう告げる。
―――
確かにその存在は、俺も考えたことが何度かあった。アンチテーゼだけでもこれだけヒーローの被害者がいるのだ、まだどこかに所属したりしていないだけで、その潜在的な人数は更に倍以上の人数はいることだろう。
そのうちの誰かが、アンチテーゼの存在を知らずに組織を立ち上げていたとしたら。
そう考え、買い物ついでに極秘裏に町を探って回ったりもしていたが、現状のところは収穫はなかった、はずだった。
だが果たして、第三の勢力は存在した。
……しかもその攻撃の矛先は「英雄達」だけではなく、俺たちにも。
「しかも奴等は、俺達にも問答無用で攻撃をしてきた。つまりは「英雄達」、ひいてはアンチテーゼまでも敵と判断している可能性が非常に高いと思う」
「単に判別がつかなかっただけということもあるじゃ?僕らは
俺の発した見解に、スナイプ・グレイブ……瀬峰リクが即座に否定的な意見を口にする。
……確かに、その可能性はある。
変身機で変身すれば、周囲の味方には信号でそれが伝達され敵味方の識別が可能となる。
だがそもそも奴等は、変身機を所持しているのだろうか。
今回襲撃してきたロボット達は、どれも自動駆動の人形だった。
それが能力によって作られたものなのか、それともどこかで製造された本物のロボットなのかなんて判断がつかないが、明確な敵意だけは確かに感じた。
もしくは、目に写るものをすべて攻撃するようにプログラムされていたのかもしれない。
というより、それが正解だろうと俺は思う。であれば、一切第三勢力の変身者が戦場に現れなかったことにも、説明がつく。
「なんにせよ、初手で喧嘩売ってきたんだから第一印象最悪ですけどね!」
レイカはわざとらしく、怒っているような身振り手振りをする。
そして一頻り一人芝居を繰り広げたのちに、一呼吸。
「まぁ、ともかく……」
「今回の一大任務、皆さんお疲れさまでした!またこういった作戦は増えていくと思われますし、今度こそ完全勝利、目指しましょー!」
―――そんな言葉と共に、戦闘の結果報告はつつがなく……いやあったが、どうにか完了したのであった。
◇◇◇
「―――レイカさん」
ブリーフィングの終了後、俺は不意に彼女に声を掛けた。
それに呼び掛けられた本人、レイカはまるで予想外、と言わんばかりにきょとんとした顔でこちらを見つめる。
「ん、どうしたのユウさん?みんな帰っちゃったけれど」
「……その皆とやらの態度の急変が、気になってたんだ」
そう、俺は作戦中からずっと、それが気になっていたのだ。
作戦前のブリーフィング段階ではあれほどまでに俺を忌避し、煙たがっていた奴等が急に掌を返してきたこと。
それは俺のなかでそれは、酷く薄気味悪く、そして腑に落ちない事実として色濃く記憶されていた。
元来、彼等は「
だから同じような苦労を背負った仲間にはまるで家族のように親身に接し、逆に組織への忠誠心もなく、背景も見えないような男には村八分とばかりに辛辣な態度を取る。
ある種分かりやすいその盲信は、誰もが大なり小なりに負った精神的外傷を癒すための自己防衛本能、依存なのだろう。
だからこそ、俺に対して態度を変えたのには、相応の事情があるはずなのだ。
それも、彼等が俺を同類と認識するような、そんな出来事。
―――そんなものは、一つしか考えられない。
「……あんた、俺の身の上を話したな、勝手に」
「―――」
その沈黙は、肯定を意味していた。
「えへ、バレちゃいました?」
その言葉と共に、レイカはまるで小馬鹿にするようにおどける。
「……」
―――冗談じゃない。
組織の連中に、俺のことが―――僕の、大切な妹のことが知れただなんて。
そもそも、大切な妹の安全の保証と、俺達兄妹の情報秘匿……それだけを条件に、俺はこのアンチテーゼなどという怪しげな組織に席を置いたのだ。
そして安全の保証、それはなにも治療だけの話じゃない。
爆発事故のことを嗅ぎ付けたマスコミや、「英雄達」への対処、そしてその情報の隠匿に至るまでを、俺は確かに条件としたのだ。
だがこの女狐、アンチテーゼの幹部であるレイカは、事前の相談もなくそれを破った。
―――そんなもの到底、承服できる話ではない……!
「いやいや、ただ意味もなくベラベラ離したわけじゃなかったんですよ?ほらあの子達、よくもわるくも連帯感がすごいから」
だがそんな俺の怒りには毛ほども気付かないのか……はたまた、わざとやっているのか。
この女は平然と、事情とやらをベラベラ話し始める。
「ユウさんみたいなタイプの人相手には、一歩引いちゃうところがあるでしょう?それはよくないなぁって……」
連帯感のない原因が「腹を割って話せていないから」だと察して、彼等に話した。
この女はそう言い放ち、わざとらしく悩むような素振りをする。
……あぁ、その態度のいちいちが勘に触る。
だが、俺はそれを彼女がわざとやっている行為であると知っている。相手を翻弄し、動揺させ、自分のペースに巻き込み丸め込もうとするのがあの女の常套手段。
だから俺は努めて平静であることを心掛け、問う。
「だから話した、と?」
「えぇ!だって―――」
俺の質問に、途端に満面の笑みで彼女は告げる。
「―――その方が、貴方を助けに入って和解する流れも、自然に作れるでしょう?」
その薄汚い打算を、彼女らを慕っている子供達すら、駒としか思っていない、そんなプランニングを。
俺はそんな彼女の狡猾さに、酷く嫌悪感を覚える。内心、彼女に吐きたい怨嗟の言葉は吐いて捨てるほどにあるし、未だ彼女を「優しい指揮官」と信じ込んでいる子供達にも、この会話のことを伝えてやりたいくらいだ。
……だが、直ぐに冷静になりそれを言葉にするのはやめた。
俺はあくまで、彼女に雇われている立場なのだ。表向きに彼女に反抗の意思を見せれば、ハルカの身の危険にだって繋がるかもしれない。
……それはダメだ。
いくら戦う力が手元に残るとしても、ハルカがそこに生きていなければ意味はない。
最早家族と自身に起こった悲劇の真相すら知ることのできない彼女。怒りを持つことすら許されない、そんな境遇に囚われた最愛の妹。
―――その為の、復讐なのだから。
そんな指針の再認識と共に、黙りこくる。
だがレイカは、そんな俺の様子を見ながら口角を上げ、憎たらしい笑みで告げた。
「あぁ、それとももしかして、心配は妹さんのことかなぁ?」
「―――ッ」
図星を刺され、俺の身体はピクリと震える。
……こういう時、地の性格が出てしまうのは俺の悪癖だ。
「あーなら、ハルカちゃんのことは話してないからご安心を!貴方が彼女を助けるために、仕方なくうちに協力していることもね」
そう聞いて、安心してしまった自分がいた。
恐らく彼女が伝えたのは、家族が皆ヒーローに殺された、という事実だけなのだろう。
つまり、構成員達は「妹だけ生き残っていて、それを助ける為だけに組織に協力している」ということまでは知らないわけだ。
「……そうかい」
そこまで聞いて、俺は一息置いてから反転、レイカに背を向け会議室の出口へと向かう。
「あら、もうお話は終わりです?」
呼び止めるレイカの声は、少し寂しげなものだった。
……わざとらしい。そんな感情、内心では欠片も抱いていないくせに。
「あぁ、用事があるんでね」
「なら菫恋ちゃん……「ミス・スミス」にもきちんと報告をしていってくださいね、例の武器の!」
レイカは最後に、俺にそう命令を告げた。
……そういえば確かに、新装備―――可変小刀「ANTI KUKRI」の使用した感想をまだ伝えていなかった。
そう、思いつつ俺は後ろ手に返事をして、その場を後にした。
……だが正直、これ以上誰かに報告をするような気分でもない。
仕事も一段落したことだし、安らぎが欲しい。
それにアイツの容態も心配だ―――そう思い、俺は拠点の外に出て、ある場所に向かうことにした。
長い長い螺旋階段を一足跳びにショートカット。ビルを出て、商店街へと抜けていく。
そんな一路、ビルの合間を抜ける瞬間に、ふと俺は後ろを振り向いた。
年中日の射し込まない、薄暗く辛気臭い路地裏。そして、日の当たる場所には出ずそこに閉じ籠る大人と、それにいいように使われる子供達。
それがまるで、「反英雄組織」という組織の歪な内情をそのまま表しているようで。
「……アイツらも、難儀なもんだな」
ただ、そう吐き捨てそこを立ち去ったのであった。
◇◇◇
「……おかえり、お兄ちゃん!最近帰ってこなくて心配したよ、大丈夫?」
「―――ただいま、ハルカ」
「わっ、ちょっとどうしたのお兄ちゃん……?」
「大丈夫、大丈夫だ……きっと、大丈夫」
「必ず俺、僕が必ず、護り抜くから……!」
―――chapter3,END
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