chapter3-8: 襲・撃
「な、なんなんだよ……こいつら……!」
迫り来る、無数の兵器達。
それを前にして、メカニックマスター―――だった少年は、情けなく涙を浮かべて俺にすがり付いた。
……この態度から察するに、あの兵器達は本当に別の何者の差し金なのだろう、と俺、「リヴェンジャー」は理解する。
こいつの性格上、もしもあれが能力で造り出した尖兵であるならば必ずや、俺に対しマウントを取ろうとするはずだ。
だが、それをせずに怖じ気づいて俺にすがり付く始末なのだから、こいつがこの襲撃を裏で糸引いている可能性は限りなく低い。
とすれば、この兵団は「
そしてその目的はきっと、俺達「
『「
「そんな……この数じゃ、幾らアンタでも……」
メカニックマスターの言葉に、確かに、と俺は頷きそうになってしまう。
目前の敵数は、先程のガラクタ兵団の数の比ではない。
しかもその装甲は、そこらの瓦礫とは一線を画す、頑丈な板金によって補強されていることが見受けられた。
きっとメカニックマスターは、その外観を見ただけで、相手の性能までもを看破しただろう。
だからこそ、こいつは気付いた。
―――「リヴェンジャー」一人では、どうあっても勝ち目などない、と。
『……ッ』
そして彼、メカニックマスターの見解は、俺のそれとも相違ないものだった。
先程の巨兵への勝利は、単にメカニックマスターの油断と慢心を誘えたことで、偶発的に手に出来た者。
あのまま物量で押されていたら、今頃無様に足元にすがる事となっていたのは俺のほうだろう。
しかも、俺の手持ちの触媒には最早あの兵団に対抗できるだけの物は残されていない。
「
数少ない有効打と成りうる「
しかもこれすら、相手が一纏めになっていなければ一掃とはいかないだろう。最大出力で投射したとしても、減らせるのは良くて3割、最悪の場合は1割程度か。
考えれば考えるほどに、勝ち筋のなさが露呈する。
―――だが、撤退する選択肢などない。
ここで奴等を食い止めなければ、この無数の鉄機達は当然上層へと向かう。
そうなれば最早「
そんな事、させるわけにはいかない。
ヒーロー、「
しかも彼等がヒーローになってしまえば、俺の復讐の対象となってしまう。
例え彼等が善行を積み本物のヒーローになったとしても、「
……それはいけない。俺は少なくとも現段階では一般人である彼等を、悪戯に傷付けたくはない。だからどうにかそうなる前に、対処をしなければ。
……だから、結局のところ勝機があろうとなかろうと、今は目の前の敵に立ち向かうしかないのだ。それ以外に、俺は選択肢を持たないのだから。
俺は、そんな覚悟、思いと共に、目前の勝ち目のない戦場へと銃を向けた。
変形した「ANTI KUKRI」のグリップを握りしめトリガーへと指を伸ばし、せめて一矢報いようと、銃弾に己のなけなしの因子を込める。
丁度、その瞬間だった。
『お待たせしました、リヴェンジャーさん!』
―――突如として、耳元の通信設備から声が響いた。
『ッ、何が……』
その声に驚き、立ち尽くす俺。
一瞬の意識の隙、その刹那に俺の視界の端を、何かが無数過った。
虹色に輝く、無数の光。
俺が目を凝らすとそれは、幾重もの炎、氷、雷……そして、銃弾が通過した軌跡だった。
そしてそれらは器用に俺達を避け、横一列に並ぶ兵器へと着弾し、七色に輝く火花を散らす。
その攻撃の正体に俺が気づくのに、そう時間はかからなかった。
其々の能力まで完全に把握してるわけではないにしても、幾つかの攻撃には見覚えがあった。
あぁ、間違いない。
『!、なんで、増援が……!?』
これは、「
だが、どうして。
この作戦は、俺が正面で暴れまわることによって、相手の意識、注意を反らし戦力分散をするというものであったはず。
謂わば捨て駒、鉄砲玉の役割。レイカは当然そのつもりで俺を抜擢したのだろうし、俺自身もそのことを了承していた。
その、はずだったのだが。
『―――ったく、お前がブリーフィング最後まで聞いてかないからだろ!』
唐突に、通信機から知らない構成員の声が響く。
……否、知ってはいる。
だがこの声は、一体どこで聴いたのだったか。
いや、そうだ。間違いない。
俺は記憶の片隅から、一つの情景を思い浮かべる。
確かにこの声はあの時―――ブリーフィングで、俺の姿をみてヒソヒソと陰口を叩いていた、アイツらの内の一人だ。
だが、今聞こえたその声色からは、ブリーフィング時に感じた俺への警戒心といったものは、あまり伺えなかった。
むしろその声はまるで、仲間に話し掛けるような気安いもので、むず痒い。
……しかし、ならば尚更疑問が残る。
ブリーフィングの前後で、彼等の間でどのような会話が交わされたら、こんなに対応に変化が産まれるのやら。
だがそんな疑問は、続けざまに聞こえてきた声により氷解する。
『あれからまた話し合いがあって、幾らなんでもこんな特攻みたいな真似はダメだろって、そういう結論になったんだよ……急遽の作戦変更で、ちょっとばかり合流タイミングが遅れたがな』
またも、あまり聴いたことのない構成員の声。
彼等のその頼もしい攻撃は、少しずつではあるが無数の兵器達を徐々に奥へと押し込んでいく。
そして何人かの構成員は、近接装備と共に俺の横を通り抜け、突撃していった。
一進一退、熾烈な攻防。
そのなかを俺は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
『―――上層から敵の意識を逸らすための、正面への二面攻撃!彼等の提案を飲んでみたけど、中々に上手くいきましたねぇ!』
その時耳元で響いた声。
それは他の隊員達のものとは違い、直ぐに誰のものか、俺にはわかった。
常に愉しげで、蠱惑的なこの勘に触る声は、間違いなく俺の上司、レイカのものだ。
『……レイカさん、聞いてた話が違うが』
少し不貞腐れたように、俺はそう言い放つ。
助けられたことには素直に感謝するしかないが、作戦内容の変更を俺に伝えなかったレイカには相応の不満があるというものだ。
だが彼女は、そんな俺の態度も何処吹く風と、飄々と答える。
『ま、私も使いやすい手駒を簡単に棄てられるほど、薄情ではないってことで?』
『……そうかい』
まともに取り合うだけ、時間の無駄だ。
そう確信し、俺はようやっと目前の敵へと視線を移した。
見ると敵のうち何機かは、先陣を切った構成員たちの手によって撃墜されたらしい。
……だが、残念ながらそれは大勢を決するほどの戦果にはなり得ない。
なにせ、数が多すぎるのだ。
この数えるのもバカらしくなるような大軍の前には、数機の損失など大した打撃にもなり得ない。
『……でも、よもや第三勢力の介入だなんて、面倒事が増えましたねぇ』
レイカはいつになく神妙な口調でそう呟く。
その言葉には、俺としても同意しかなかった。これから英雄達との戦闘が激化するかもしれない、という局面のなか、厄介な水入りがあったものだ。
『しっかし、にしても数多いなこいつら!』
前線の戦士達が、その炎を纏った拳を振るいながらぼやく。
やはり、数の差は埋めがたいものがあるか。
増援として来てくれた者達への感謝の気持ちはあるが、それにしても戦力に差がありすぎる。
そう、数なのだ。
所詮は能力で乱造された兵団だ、個体毎の質などたかが知れている。だからせめて数の差さえどうにかなれば、あとは個々人の戦闘力でどうにでも。
―――そうだ。
そこまできて俺は一個、妙案を思い付いた。
一人いるではないか、この物量差を埋められ、かつ手隙の戦力が。
正直、取りたくはない戦法ではある。
……が、この際には四の五のは言っていられない。
だから俺は、「ある物」を拾い上げ、渦中の人物へと無造作に投げつける。
『……おい、メカニックマスター』
「へ?うわっ!?」
件の戦力―――ヒーロー、「メカニックマスター」へと投げつけたのは、彼が取り外した「英雄達」製変身機「エヴォ・トランサー」だ。
「―――
メカニックマスターは困惑しながら、俺に疑問の目を向ける。
……彼への要請は簡潔だ、だから俺はすぐに口にする。
『そいつを使って、他の奴等を援護しろ。……今更、抵抗もしないだろ?』
『はぁ!?お、お前!なに勝手に……!』
『やっぱアイツ頭おかしいって……』
周りの構成員達の困惑の声。
折角勝手に上がっていたらしい好感度が、音を立てて元通りにいっていくのがわかる。
だが、俺に思い付くこの現状への打開策は、これくらいしかなかった。
とはいえ、考え無しにこんな暴挙を取ったわけでは決してない。
彼が反抗する可能性は限りなく低いだろうと、そう判断しての結論だ。
まず第一に、第三勢力の存在は「
そして第二―――そもそも、俺に敗れたという事実は、彼の心境に少なからず変化を及ぼしているということ。
俺一人に勝てなかった彼が、他の大勢の構成員の只中で下克上を目論むとは、とても思えない。
そして最後。
―――例え裏切ろうが、いつでも殺せる。
「た、確かにこの人数相手に勝てる気は……いやでも……」
俺のその心中は当然聞こえるべくもないが、第一と第二の思惑については彼も気付いただろう。
それでも、やはり彼は悩んでいた。
だがその最中も、近くで爆発が起き、鉄が飛び散り、弾丸が頬を掠めていく。
自身の命がいつ喪われるとも限らない、極限の状況。そしてここで変身することを選ばなければ、もう二度と変身機は手に入らないかもしれないという懸念。
そんな命の危機の最中……彼は、ついに決断した。
「……ええぃ!分かった、やってやる!!!」
「―――変身!」
そう言い放ち、彼はリヴェンジャーに投げつけられた変身機を取り付け、ヒーロー―――「メカニックマスター」へと変身を遂げる。
それと同時に辺りの鉄屑と瓦礫が宙に現れた赤い光珠へと集まり、人の形を為した。
急拵え故に、数自体は先程よりも少ない。
だが、先程までの人数差に比べれば、遥かに勝ち目のある戦になったのは事実だ。
―――さぁ、これで概ね戦力は整った。
俺は拳を構え、今まさに戦闘が繰り広げられている最前線へと飛び込んだ。
迫り来る鉄鎧。俺は拳を振るい、その装甲へと叩き込む。
「ここで、立ち止まる訳にはいかない」
―――ここを切り抜け、最上層へと辿り着く為に。
『―――さぁ、行くぞ』
◇◇◇
所変わって、火力ビル15階のイベントホール内。
そこでは「
『ホール防衛の二人からの連絡がない……!一体ぃ、どうなっているのだ!』
そう言い、焦りの伺える声を上げたのはイズミ管轄第二部隊指揮官、「グランド・ティーチャー」だ。
だが、焦るの無理はない。
突如として各階の監視カメラからの映像が途絶え、それと同時に階下では爆発が発生。
その上防衛に当たっていたヒーロー達とも連絡が取れない、となると、いささか手詰まりだ。
だが、オロオロしているだけでは決してない。
彼は教職に就いていた身。相応に機転は利くし、物を考える力がある。
即座に戦力を階下の調査と増援に向かわせ、状況の把握に努めた。
物資もコンテナに纏め終わり、後はヒーロー候補者と共に屋上のヘリポートから逃がすだけ。
だから彼が気がかりだったのはただ一つ。
1階の「メカニックマスター」達からも向かわせた増援たちからも一向に上がってこない、火力ビル階下の状況だけだった。
『向かわせた増援からの連絡はぁ!』
「い、いえ、それが……」
グランド・ティーチャーの呼び掛けに答える通信士の声は浮かない。
それに業を煮やしたのか、彼は強引に通信士から通信機器を引き剥がし耳元に当てた。
ノイズ混じりで嫌に聞き取りづらい、相手の声。
だが、その断片的にしか読み取れない音声から、グランド・ティーチャーは現状の危険度が想像以上に高いことを知ることとなった。
『―――た――てくれ!変な機械が、襲―――!』
僅かにしか聞き取れないその音声、だが、その意味を推し量ることはできる。
(助けてくれ、変な機械が襲って……!?)
『―――敵は既に中層にも潜り込んでいるというのかぁ……!』
変な機械。
それは即ち、反抗勢力―――「
となれば敵は階下だけではなく、中層、この最上層区画の近くまでも侵攻しているということになる。……これは、所謂ピンチというやつだ。
「グランド・ティーチャーさん!ホールの監視映像、回復します!」
自らを呼ぶ部下の声に、グランド・ティーチャーは振り向く。
それと同時に、コンサートホール上層のモニタ、そこに渦中の一階玄関ホールの映像が映し出された。
―――何者かと交戦する、ヒーロー擬きの姿。
彼等が「
『な―――?』
地面に倒れ伏す、「インファイター」。
―――そして、「
角度のせいで彼等が誰と交戦しているのかは分からない。だがその立ち位置、その行動だけで、彼が「
『……!メカニックマスター、あやつ敵側に付いたというのかぁ!』
グランド・ティーチャーは頭を抱え、思考を巡らせる。
突然の襲撃と、彼等の快進撃の原因は判明した。
……所属ヒーローによる裏切り。恐らくメカニックマスターは、以前から奴等に情報を流していたのだろう。
となれば、奴等の目的は分かったも同然だ。恐らくその目標は、元々此処に用意されていたもの―――変身者の精製に必要となる物資と、人材だろう。
それが分かったからには、決して奴等の手に渡す訳にはいかない。教師の名にかけて、なんとしても未来の生徒を、守り抜かなければ。
『くそ、変身機と適合因子、候補者達だけは退去させねば……!ヘリの用意はまだ―――』
―――その時だった。
目前でヘリの手配を行っていた構成員の一人が、何かに撃たれたように、突如として倒れたのは。
『な―――』
突然の襲撃。
そしてそれと共に、エコーがかった何者かの声が、辺り一面に響く。
『―――そうは、いかんな』
そしてその声が発されると同時に、何発かの発砲音が辺りに響く。
狙われたのは一部の照明と、モニターだ。それらは火花を上げて破壊され、辺りに破片を散らせる。
『!、何者だぁ、貴様ァ!』
グランド・ティーチャーは、声の方角―――客席の直上、天井へと向かい怒号を飛ばす。
するとそれに答えるかのように、ホールの天井が破壊され、土煙と共に幾人かの人影が客席間の通路へと降り立った。
―――そしてその煙の中に、蒼く、怪しく輝く瞳が浮かび、閃光を走らせる。
その特徴に、グランド・ティーチャーは覚えがあった。確かあれは、何者かの襲撃で敗走してきたヒーローが、涙ながらに訴えてきたときだったか。
(と、突然なにかに、撃たれたんです!暗闇の中に、眼だけが光っていて―――)
そう、そうだ。
奴の言っていた、暗闇の中より出でるという―――、
『蒼き、狩人―――!』
『ほう、私の脅威は随分と広く広まったと見える、少し
―――ヒーロー達の間で『蒼き狩人』と呼称されていた存在は、右腕に取り付けられた巨大な狙撃銃に弾を込めながら、そう呟く。
だが、そこに隙などなかった。
弾込め中を狙ったとて、それに対応しきることのできる機転と手数。それを手にしていると直感的に察知できるほどに、彼が発するプレッシャーのようなものが「
そんな中。
ただ一人、グランド・ティーチャーだけが、口を開く。
『―――私の名はグランド・ティーチャー。「英雄達」イズミ管轄第二部隊隊長だぁ。―――貴様、名は?』
『―――「反英雄組織」第二実働部隊隊長……スナイプ・グレイブ。覚えておいて貰おうか』
グランド・ティーチャーとスナイプ・グレイブ、双方の組織の実働部隊No.2同士の名乗り、その終わりの瞬間。
―――そこから一呼吸おいた刹那が、両者の間に火花が切って落とされる、合図となった。
『ッ、かかれぇ!』
その声と共に、変身を完了した「英雄達」の構成員達は一斉に、飛びかかる。
そしてそれを迎え撃つように、「反英雄組織」の戦士達も、戦闘体制へと移るのであった。
遂に、ブレイバーズとアンチテーゼ、二つの組織の威信を賭けた、初の全面対決が始まる。
この戦端の結果こそが、後の戦況に大きな影響を与える先触れであると、誰もがそう認識していた。
◇◇◇
……だが、まだ双方共に、気付くよしもなかったのだ。
足元で渦巻く、第三者の思惑。
―――その対決の最中に水面下で襲撃の好機を図る、第三勢力が潜伏していることには、
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