chapter3-9: 決死 の 一射
◇◇◇
『くそ、ヒーローに逆らう蛮族どもが!』
『俺らに楯突いたこと、後悔させてやる―――!』
教師、もしくは学校をモチーフとしたような戦闘衣のヒーロー「グランド・ティーチャー」は、焦燥と危惧の最中、部下へと指示を飛ばした。
反抗勢力を、全力で迎え撃て。そして最重要である機材、そして栄光ある未来の人材を逃がす隙を作れ、と。
そしてそれらの命令を受けたヒーローは、少数の「
その狙いは何れも大将首―――つまり、スナイプ・グレイブだ。この緊急時においても「
だが、それがいけなかった。
視野が狭まり、脳が自己顕示欲に満たされた結果だ。
なにせ彼等は、相手と自分との間にある圧倒的な力量差すら、判断できなくなっていたのだから。
『―――遅い』
既にこの腕、その狙撃銃の銃口は敵の脳天を捉えている。戦闘衣が産み出す内部コンソールにより、その他の敵もロックオン済み。右腕の次弾も、ここに来る前の段階で対多数を想定した特殊弾頭に切り替え済みだ。
だから
目の前の敵を倒すため、そして……なによりも、後方の我が同胞を護るために。
『―――ッ!』
瞬間、放たれる弾丸。
それは銃口を通過し砲塔から解き放たれた瞬間に、炸裂。その内部からは無数の小型誘導弾が、まるで針間を縫うように的確に、それぞれが指し示す敵の方角へと飛翔していく。
―――「
私が持つ数ある弾頭の1つ、能力で精製された拡散型多段ミサイル搭載弾頭。
それを装填し放つ、「スナイプ・グレイブ」の対軍勢用兵装だ。
『ガッ』
無数に飛翔する誘導弾。
それに撃ち抜かれたヒーローが、ひどく無様な悲鳴をあげる。
……無理もないだろう。奴等の考えは恐らく、「近接戦闘や対多数戦闘は不馴れであろう狙撃主から先に潰す」というもの。
実際それは間違いではない。厄介なサポートタイプから先に排除しようというのは戦いの定石であるし、事実
だが、何事にも例外というものはあった。なにせ
結局のところ、初見の相手でも見抜けるような弱点に本人が気付いていない、なんて虫のいい話などありはしないのだ。
『くそっ、避け……ぐぁ!?』
十数秒、誘導弾を回避していたヒーローも、ついに弾頭の毒牙にかかり、無惨にも変身解除され倒れ伏す。
『……おっと、危ない』
それを見た私は、更にそれを追撃しようと突貫していくミサイルを、急遽方向転換させる。
変身者は能力摘出の対象だ。万が一にも傷付ける訳にはいかない。……どっかの誰かと違って、だ。
もちろん、余剰となってしまったミサイルの向かう先は―――言うまでもない。
『我が生徒達が、こうも容易く―――ぐあ!?』
―――後方で指示を飛ばすばかりだったヒーロー「グランド・ティーチャー」の元へと、数発のミサイルは飛翔、見事着弾する。
沸き起こる爆炎と煙。そのなかに、グランド・ティーチャーの大柄な身体は消えていった。
だがその手応えは、先程までの凡百とは明らかに違う。そう、
煙に撒かれて見えはしないが、恐らくはまだ生きている。……勿論攻撃が着弾して間もない、すぐには行動することはできないだろうが。
『愚童共め、
倒れ伏す数人のヒーローへと向けて、僕は侮蔑の言葉を浴びせる。
ヒーローの内、ある者は悔恨に顔を歪ませ、ある者はもう勝ち目はない、とばかりにへたりこんでいる。
そしてその中に、再起して戦おうという気概がある者は、結局数人しかいなかった。
―――これが「
世間ではヒーロー、正義の味方などと持て囃されていても、所詮、彼等は子供だ。
怪人退治を「高収入で手軽なバイト」、「金の貰える暇潰し」程度にしか考えておらず、そこに必死に命をかけることなどない。
そして始末が悪いのは、民間人に暴力を振るい、圧力をかけ思い通りにすることすら、「暇潰し」程度にしか認識していないという事実。
そのことによって、数多の悲劇が引き起こされてきたことを、僕は忘れない。
僕も、部隊の仲間たちも……「リヴェンジャー」も。
誰もがその被害者で、痛みを知っているからこそ、この「
……だから
そんな決意を新たに、
『さぁ、次はお前だ。大人しく
だが、その瞬間だった。
『……、なん、だ?』
―――身体が、動かない。
手が、腕が、足が。その全身が、コンクリートかなにかで固められたかのようにびくともしない。
唯一動かせるのは、顔と発声器官だけだ。
どうにか頭をひねり、周りを見渡す。
見ると、他の構成員達も同様に謎の力に拘束されているようで、自分以外の構成員に至って口を開くことすら許可されていないらしい。
そのことに、疑問を抱く間もなく。
黒煙の中から一人の人影が立ち上がるのを僕は視認した。
『―――貴様ら、『落第』だぁ』
響く、声。
そしてその言葉―――『落第』という言葉を聴いた、その瞬間。
『……!!???』
―――僕の身体は、まるで重力に押し潰されるように地面へと押し付けられた。
身動きが一切取れないなか、コンクリートの床にその頭蓋が激突する。
『ぐぁ!?』
『ぁ……!』
確認はできない、が周りの仲間達も同様の力にその身体を操られたらしい。
方々から、呻き声のような物が上がる。
そしてそれを、嘲笑うかのように。
一人の男、教師風のヒーローの高笑いが、ホール中に響き渡った。
その声に、屈辱感を思い知らされる面々。
そんな中ひとしきり笑い、疲れたのか、ヒーローは我々を見下し、告げた。
『成る程成る程……力は大した物だと思ったが、なかなか統率が取れている組織のようじゃあないかぁ』
『何を、した……!』
当然易々と答えるなどとは思わないが、こんなものは最早定型文だろう。
少なくともこの状況下で僕に出来ることなど、極力奴から情報を引き出すこと、それだけだったのだ。
『何を、といっても大したことじゃあない。―――「
教師風のヒーロー―――グレイト・ティーチャーは、べらべらと話始める。
だが、それは決して彼が口の軽い無能だからではない。恐らくは、これから死にゆく我々「
しかしティーチング、「
これまた如何にも教師然とした見た目にお誂え向きな能力が出たものだ、と
だが、その力は笑い事ではないほどに過剰に、強力だ。
『この私ぃ、グレイト・ティーチャーの能力は「指導」ッ!この杖で不良共の恭順性を強制的に引き出し、支配下に置くぅ!』
―――恭順性。
その言葉を聴いた瞬間、
なるほど確かに。「
『とはいえ、お前らのような無軌道なドロップアウトボーイ共には直ぐに効く能力ではない……だが』
そう、そうなのだ。
『
それ故に対外的には、アナーキーな、ともすれば過激な団体と認識され、所属する構成員達も同様に反社会的なパーソナリティーをしていると取られることも多い。
……だが、その実は逆なのだ。
『
となれば、組織自体への恭順性は他のそれよりも遥かに純度の高いものになるのは必然だ。
何故なら我々被害者にとっては、『反英雄組織』こそが、明瞭に存在する唯一の「正義の組織」で、疑う必要なく力を求められる場所なのだから。
だから我々は集い、恭順した。
そう、それはもはや『依存』と言い換えてもいいほどに、だ。
『―――貴様ら、随分と従順に組織に従っているようだなぁ?』
『……ッ』
……だが、今回はそれが一番の裏目と出てしまった。
斯くして、我々は全員無様に、頭を地に伏せる散々たる結果となった。
それは奴の言を借りるなら、「『
もはや指先すら、自らの思う通りには動かず。
襲撃者であったはずの自分達は、いつの間にか囚人へと身を落とすこととなった。
『さぁ、起立!気を付けぇ!そして……口を開けぇ!』
『ぐ、うぁ……ッ!』
グランド・ティーチャーの声に、僕の身体は否応なしに立ち上がらせられ、芯を入れられたかのよにその場に硬直させられた。
抵抗は……望むべくもない。
もはや勝機はこの場には寸分たりとも在りはせず、文字通り最期の手段たる変身機の『自決機能』すら起動することすらも、できない。
だが、まだ。
『―――そして話せ、お前らの目的を!組織の情報を、その拠点をぉッ!!!』
『わ、れわれの……ッ!』
口が、舌が、唇が。
強制的に能力によって勝手気ままに動かされ、そして僕の脳へと不正アクセスを行う。
そしてその深淵に隠された秘密を引き出すことに成功すると、誤った指示が頭蓋を伝播し、そして。
『拠、点……は……』
その言葉が出力される、その瞬間。
『―――うおわぁ!?』
紫紺の光弾が、目前で閃光の
◇◇◇
それは、何者かからの援護射撃だった。
―――いや、そのような
なにせこんな無作法な戦いかたをするような輩は、我々の陣営には二人といない。
『私の杖がッ!?』
爆炎の前に一瞬、グランド・ティーチャーの手から、離された杖。
その瞬間に、僕達の拘束は瞬く間に解除される。
そして即座に、右腕の銃口をその杖へと定め、
『しまっ―――』
続けて上がる、赤と橙の爆炎。
放ったのは数ある手札の一つ、「
能力によって事前に精製、装填していた、対拠点隔壁用の高威力弾頭弾だ。本来であれば屋内で放つような代物ではないが、有事ゆえに致し方ない。
辺りはその爆風により大きくその様相を変え、辺りには火花と共に灰煙が無数にたなびく。
幸いにも
ともあれ、グランド・ティーチャーの杖は無惨にも
そのことに安心し、緊張の糸が切れた僕は、足の力が抜けその場に膝をつく。
『ぐ……、助かった……!』
『―――随分と苦戦していたようだが?スナイプ・グレイブ』
……その時隣から響いたのは、酷く憎たらしい声。
まるで弱者が無理をして、強者であろうと取り繕っているかのような背伸びした態度。
その変身前の平凡な容姿とは不相応に過剰に攻撃性を顕示した、黒鎧の装者。
『……遅いぞ、リヴェンジャー』
僕はその男―――
……遅いなどとはとんでもない、正直、最適なタイミングだ。
最良の頃合いに敵首魁の意識を反らし、反撃の糸口を切り開いた。
正直、およそ覚醒してから数ヶ月しか経っていないとは思えぬほどに、彼の技量、判断力は向上していると感じた。
果たしてそれは偶然か、天性の才か。
……それとも、ただ胸に渦巻く復讐への執念が、そうさせるのか。
それは分からないが、唯一つ、確かに言えることは。
「これでも急いできたんだがね。……ホールへの増援、正直助かった」
目の前のこの復讐鬼は、最低限背中を預けるには足る実力をもつ男であるという事実。
―――
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