chapter3-7: 瓦・礫・兵・団




 ―――新都アオバの中枢に位置する特区、その中心近くに位置する火力ビル一階、エントランスホール。


 そこでは大勢の人々が買い物や食事など、思い思いの生活を営んでいた。

 一人、親子連れ、友達同士。

 その人数、間柄は様々だろう。そしてそのそれぞれが、それぞれの目的で休日を謳歌する平和な空間。


 そしてその中には、二人のヒーローがいた。


「インファイター」と「メカニックマスター」。

 彼らはこの火力ビルの警備担当。普段はシフト制で片方のみが任務にあたっているのだが、今日だけは違う。

英雄達ブレイバーズ」の入団試験、その警戒の為、二人同時に警備に駆り出されていたのだ。


 とはいえこのような長閑のどかな場所に、襲撃などそうあるものでもない。

 だから今日も、二人は周りの人々に声を掛けられながら、いつも通りにこのビルで平穏に過ごしていた。



 ―――そこに、一つの異物が入り込むまでは。



『……んあ?』


 まずはヒーローの一人―――「インファイター」が、俺の姿をその視界に認めた。

 戦闘衣を身に纏った、黒い戦士。

 彼はそれを、“応援にきたヒーロー“だとでも思ったのだろうか。



『お前、どっからきたヒーローだ?所属を―――』


 気軽に話しかけてくる辺り、警戒心は欠片も見受けられない。


 ―――だから、その油断の隙を突く。

 俺は相手に反応するよりも先に、即座に変身機の上部をスライドさせ、装填された記憶触媒―――『仮面MASKED』の触媒の力を解放する。


 <MASKED:最大解放チャージアップ


『え』


 ―――気付いた頃には、もう遅い。


 俺の拳は、既に目前のヒーローの身体へと沈み込んだ。

 問答無用のその一撃は、着弾のその寸前までインファイターに気付かれることはなかった。奴が取ろうとした守りの構え、その内側へと的確に突き刺さる拳の破壊力は、果たしてその威力を遺憾なく発揮する。


『―――浅いか』


『ぐ、あぁ―――ッ!?』


 吹き荒ぶ風圧と共に、インファイターは後方へと大きく吹き飛ばされる。

 その着弾位置は俺の意図した通り、丁度人混みのない辺りだ。


 いきなりの事に思考が追い付かない奴には気の毒だが、「英雄達ブレイバーズ」に与したのが運の尽き。大人しく、ここで倒れてもらう。


「きゃあ!?」


「なんだ、なにが……!?」


 無辜の民の、悲痛な声が聴こえる。


 平和だったはずの空間に、突如として現出した暴力への恐怖の声。……奇しくもそれは、自分自身が止めたかったものであり、今なお止めたい物でもあった。


 ―――だが、今は我慢してくれ。


 そう心のなかで呟きながら、俺―――リヴェンジャーは立ち尽くしインファイターが立ち上がるまでを遠巻きに観察する。


 市民達はすぐに逃げ惑い、ビルをあとにしていく。

 ……それでいい。ここに居られては、俺が十全に力を発揮できない。作戦の都合上強襲をせざるを得なかったが、極力人を巻き込むようなことはしたくなかった。


 だってそれをしてしまったら、奴と―――クラッシュ・ロウと、同じになってしまう気がしたから。


『な、何をするんだ、お前!?』


 もう一人のヒーロー、「メカニックマスター」がこちらを、まるで信じられないものを見るかのような目で見つめる。


 ……なるほど、確かに。


 俺は一人納得する。

 彼等は普段からここを警備している謂わば常勤のヒーロー……つまり、実戦経験には乏しい補欠面子なのだ。

 これがもし、怪人退治に精を出している熟練ヒーローが相手だったならば、これほどまでに先制攻撃が上手くいくことはなかっただろう。


 ……だが、そんな彼等も無知なだけの潜りでは決してない。

 数秒の逡巡の末、ついに彼、メカニックマスターはこの俺―――否、俺達の正体に勘づいた。


『……まさか、『反英雄組織アンチテーゼ』ッ!?』


『ほう、もう組織の名前は知れ渡ってるのか』


 一体、どこから名が知れたのか。

 それは判らないが、どうやら「英雄達ブレイバーズ」は既に「反英雄組織アンチテーゼ」の存在を既に感知していたらしい。

 であれば、この守りの厳重さにもある程度納得がいく。

 何せ火力ビル周辺には既に、3人ほどのヒーローが警戒に当たっていた。恐らくはそのどれもが、手強い能力を持った手練れであったに違いない。


 ―――闇討ちで気付かれる前に仕留めたのだから、その実力のほどは定かではないが。


 しかし、彼等二人に連絡が行く前にここに踏み込めたのは幸運だった。

 特に今話しているヒーロー、「メカニックマスター」の能力が知らされた情報通りであるなら、十全の準備をされていた場合、突破することは困難だった。


 不意の奇襲。やはりそれが、ヒーローという強者に打ち勝つ為の最善手であると、俺は改めて確信する。


『くそっ、狙いはまさか「変身機トランサー」か!通すわけには!』


『―――押し通る』


 俺は辺りの民間人が避難したのを確認してから、大地を蹴り、前進する。


 目前のメカニックマスターは、能力を行使すべく装備を展開する。

 そこが付け目だ。奴の能力は「機兵作成」。奴は無数のロボットを製造する厄介な製造系のヒーローだが、そこには大きな弱点がある。


 機械製造までの時間の長さ、それが奴の隙であり、弱点だ。

 だからその前に打ち倒せれば―――、


 ―――そこで、気付いた。


 遠くで響いた、瓦礫の動く音、そして空を切るような何かが高速で向かってくる音。


 俺がそれを受け、咄嗟に身をよじり回避運動を行った、次の瞬間。


『ッ、読まれた!?』


 ―――眼前を、尋常ではない速度で拳が通過する。

 それは俺がしたのと同じ、不意を突いた攻撃だった。もしも数週間前までの俺であれば、油断のままその拳を受けることとなっていたかもしれない。


『喰らえッ!』


 インファイターは攻撃が躱されたことに驚愕しつつも、攻勢を弱めることはなかった。

 油断をせず、不意討ちで作った隙を利用すべく、絶え間なくその高速の拳を撃つ。


 ……やむを得ない。


『……っ』


 俺は頭のなかで強く、強くイメージする。

 全身の筋肉の活性を、動体視力の強化を、思考の加速を。


 ―――「身体強化」。


 俺が産まれ持ち、しかしこれまでの人生で活かすことも、鍛えることもしてこなかった無用の長物。

 だがその力が、復讐鬼と堕した今になって、その真価を発揮するとは皮肉なものだ。


『な、避け―――!』


 機関銃の如く高速に、大量に尽き出される神速の拳。

 ―――俺はその悉くを視認し、処理し、回避する。

 相手の筋肉の動き、その動作、その呼吸から弾道を予測。

 そこから戦闘衣から更に強化したバネのような筋肉によって、それを避け続ける俺の動きに、相手の表情はみるみるうちに曇っていく 。


『くそ、俺の拳を易々と……さてはお前、身体強化系の能力者か……!』


『さて、どうかな』


『そんなドーピング野郎に、この俺が……!』


 インファイターは唇を噛み、悔しそうな顔をする。

 ……その動揺からだろうか。

 にわかに拳の雨の勢いが、僅かにではあるが失速したのを俺は見逃さない。


『―――ッ』


『ぐ、あぁッ……!?』


 ―――刹那の一瞬に生まれた、拳の雨霰の中に生じる空白区域。

 そこを縫うように通過し、俺の一蹴がインファイターの頭部へと、絶妙な角度で激突する。


 戦闘衣によって強化されたその蹴りは、インファイターの頭蓋を割りかねないほどの破壊力を秘めていた。

 それが、見事なまでにクリーンヒットしたのだ。

 となれば、彼の末路は当然。


『……あ』


 吹き飛ばされたインファイターは、コンクリートの壁へと正面激突。土煙のなか、その身体はまるで人形のように地面へと転がる。


 その生死は定かではない。

 だが今までの経験から、リヴェンジャー―――俺は、「気絶しただけだ」と直感する。

 戦闘衣の防護性能という奴は、想像以上に頑丈で、高性能だ。

 ヒーロー姿では四肢がバラバラの状態だったはずが、変身を解除したら全身に切り傷があるだけ、なんてこともある。

 必ずしも変身後の姿は、変身前の身体とその状態を共有しているわけではないのだ。


 ……とはいえ、奴は確実に戦闘不能だ。

 これで残るは、あと一人。


『くそ、インファイターでも倒しきれないなんて……!』


 後方で戦闘に参加せず、わたわたと何かの準備をしていたメカニックマスターは、倒れ伏すインファイターの姿を見て戦々恐々としている。

 だが、彼は敗北を確信したわけではない。


 俺は彼が、俺達の戦いの最中、着々と能力の発動準備を整えていたことを知っている。

 つまり、彼には勝ち筋があるのだ。


『ふ、ふん、だがぼくが防衛担当の時に来るなんて大概不幸なやつだ、おまえがインファイターと戯れてる間に、ぼくの能力の準備は整った!』


 斯くして俺の予想通り、メカニックマスターは一転、勝利を確信したかのように俺に不敵な笑顔を向けた。


 ―――奴の切り札がくる。


 俺は身構え、拳を構える。

 そして彼の手は、その腕に取り付けられた変身機に添えられ、そして。



 <MECHANIC:最大解放チャージアップ!>


『―――さぁ、鉄屑を元に現れろ、ぼくの兵団!』



 ◇◇◇




『……なるほど、これは確かに少し面倒だな』



 俺は目前に現れた厄介事を、直視せざるを得なかった。


 頭身の低い人型の、大柄なロボット達。

 それは奥に控えてふんぞり返った、「メカニックマスター」の能力によって産み出された、ガラクタを再利用した機兵だ。



 ――その総数、目にとらえられるだけでも数十体。


『こいつらはぼくの最強の兵士達!お前ごときに、破れる訳はなぁい!』


 その大柄な身体は天井に届かんばかりの巨躯で、生半可な攻撃ではびくともしないことは明白。

 現在持ちうる小手先の技ですら、対した足止めにもなるまい。



 ……だから俺は、通信機を利用して、あるものを取り寄せることにした。


『……あれを頼む』


『―――は、はい了解です!』


 連絡を請けたのは、アンチテーゼで実働部隊のサポートをしている補助部隊の管制官、「ラビ・ナビット」。

 普段から頼りない、か細い声をしている少女だ……多分。


 多分、というのは、俺が彼女の変身前の姿も、変身後の姿すらも知らないからだ。

 知っているのは、彼女とその能力の優秀さだけだ。


 だが、それで充分。それだけで、一定の信頼には足る。


『……武装コード「ANTI KUKRI」、転送します!』



 聞こえてきたその声。

 それと同時に、にわかに俺の手が淡い緑の光に照らされ、やがてそれは一つの物体の形を取った。


 その場に現れたのは、昨日支給された新武装―――「ANTI KUKRIアンチククリ」。


 長方形の機械に、グリップ部が取り付けられたような手持ちタイプの武装。俺はその上部のボタンを押しながら、本体上部を可動、スライドさせる。


 ―――現れたのは、刃渡り数十センチほどの刃。

 記憶触媒の能力を抽出し、様々な効果を付与することも可能な携帯多目的兵装。それがこの「ANTI KUKRI」だ。


『……よし』


 リヴェンジャーはそれを構え、無数並び立つ鉄巨人達と対峙する。


『はっ、そんな短剣でぼくの兵団と渡り合う気か、リヴェンジャー!』


『こいつは傑作だ……無敵機団のこの防衛布陣、破れるもんなら破ってごらんよ!』


 そんな俺を嘲笑うように、メカニックマスターは瓦礫で出来た王座のような椅子にふんぞり返り、見下してくる。


 どうやら奴は、随分と自身の能力に自信があるらしい。

 ……少し、失敗だ。

 インファイターは適当にいなして、能力を使用する前にアイツから仕留めるのが正解だったか。


 そんな後悔をしながら、俺は刃を構える。

 過去の失敗を悔やんでも事態は解決しない。そう考えるよう勤め、相手の弱点を、付け入る隙を見極める。


 ―――刹那、巨人が動く。


『……ッ』


『いけぇっ!!!』


 やって来たのは先鋒の三体。

 その巨躯には似つかわしくない機敏な動きで、3方向からその拳を構え突進をしてくる。


 俺はその動きに対応すべく、腰を落とし構えを取る。

 狙うは一瞬、相手の攻撃の直後だ。


 ―――巨人が目前へと迫り、拳を振り上げる。

 その動きは緩慢。だが遠心力により勢いのついたその拳は、当たれば一撃で落ちてしまうほどの破壊力を秘めている。


『―――ッ』


 強烈な風圧を伴った拳。

 それを俺は難なく回避し、抜け出し様にその脇腹へと一太刀、斬擊を見舞う。


 ―――その時響いたのは「コーン」という、甲高い金属音。



『!、やはり弾かれるか』


 俺はその音に、近接攻撃は通らないことを悟る。

 そのためそこから更なる攻撃を仕掛けることはせず、一旦距離を離すべく巨人の後方へと抜けていく。


 だが、目前にはまだ2体の巨人。


『あったり前だ!ぼくのビルドロボッツは、素材となった物の量によって強化される!』


 聞こえてくるメカニックマスターの声は、もはや勝利を確信した慢心に満ちたものだ。


『おまえやインファイターが散々暴れてぶっ壊したビルの瓦礫が、そのままぼくの兵団の力となる!』


 だからベラベラと、自分の能力について軽率に開示してくれる。

 ……俺としては楽でいいが、敵ながら心配になってくる。


 結局のところ、彼等はただの子供だ。

 対人戦などそれこそ自治紛いの不良退治程度で、怪人退治が本来の仕事である彼らにとって、駆け引きという概念はそう重要視されているものではないのだ。


『……なるほど……だが、一点弱点があるぞ』


『―――装甲の継ぎ目から赤い光が見えた』


『―――ッ!?』


 ―――だから、こんなブラフにも簡単に引っかかる。

 少なくとも、俺から見えた巨人の外殼には継ぎ目のようなものはなかった。だが、あの反応から察するに完全に瓦礫を制御化に置くことは出来ていないらしい。


『おそらくはそれが、あのガラクタを機械のようにしてる核とみたが?』


 巨人の走ってきた経路を見ると、そこにはポロポロと落下しているガラクタが見える。

 つまり無理な稼動をすれば、コアに追従できずに瓦礫の結合がほどけてしまうのだろう。


『くそっ……なら!』


 だがメカニックマスターは、その指摘に即座に対応した。

 例え警備担当の素人だとしても、その実力は間違いなく「英雄達ブレイバーズ」に見初められたもの。

 それどころかこの窮地においてなお打開策を打つその機転は、他のヒーロー達よりも優れているとすらいえる。


 その打開策とは、「コア」の結集。

 無数の機兵達は集い、その体をまるで溶かすように融合していく。

 それはまるで瓦礫の山。

 巨大な玄関ホール、その全てを覆い尽くさんとするその巨体は、やがて歪な人形を取り、その眼を開いた。


 その肩にはメカニックマスターが鎮座し、腕を組みながら叫ぶ。


『見ろこの完璧な作品!近づくことすらできない、堅牢な城塞!』


 俺がそれに、釘付けになった。

 そう思ったのだろうが、やはり―――、甘い。


『―――俺も忘れられちゃあ、困るなぁ!』


 相対した巨大な鉄、その正反対の方角から響いた、勝利宣言にも似た高揚した声。

 だが、それは俺の予想の範疇から抜け出すほどの襲撃ではなかった。


 振るわれた拳。


 それを俺は風圧から察知し、反射的に回避運動を取っていた。

 闇討ちを仕掛けたヒーロー、インファイターの身体がその横を超スピードですり抜けていく。


『ッ、次!』


 だが、その攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 通過していったインファイターは、速度をそのままに前方―――巨大機兵の元へと向かう。


 そしてその腕を足場に、反転。


 ―――つまりは俺が回避後の体勢を建て直すその前に、二の打ちを仕掛けてきたのだ。


 速度は先程ほどでは決してない。

 だが、回避するには動作が間に合わなかった。


『ぐ……う』


『浅い……ッ』


 ―――仕方なく、俺は腕で受け止める選択を取った。

 骨が軋み、外部装甲にヒビが入る。

 俺はその攻撃の勢いに大きく、後方に押されることとなった。


『……なるほど、これは確かに分が悪いな』


 遠くでインファイターがガッツポーズを取り、メカニックマスターと目配せをする。


 さしずめ向こうは、戦勝ムードといったところか。

 ……なら、俺はやり方を変えよう。


『なら、遠距離戦と洒落こもうか』


 ―――俺は剣の基部を可動させ、グリップを引き出す。

 すると現れたのは、長方形状の銃口。


 <ANTI KUKRI:銃装形態ガンモード



 そして俺はそれを、インファイターが此方を向くその前に差し向け、そして。


『―――ガッ』


 トリガーを、引いた。


『インファイター!』


 見事なまでに頭部へとクリーンヒットしたその光弾は、その破壊力を遺憾なく発揮する。

 突然撃たれたインファイターは、訳も分からず気絶したことだろう。なにせ民間人の使う銃とは違って、「反英雄組織アンチテーゼ」の造ったこの銃は対ヒーロー用の火力なのだから。


『慢心してる相手を討つなら、こっちの方が大分楽だな』


『くそっ、そんな……』


 メカニックマスターは味方の突然の退場に、思わず浮き足立つ。

 ……だが、それもすぐに落ち着いた。


 自身の足元の機兵の存在に、改めて気付いたからだ。

 そう、リヴェンジャーはインファイターへの対処法として銃による不意討ちを利用したが、その火力は巨大機兵の弱点を突くには圧倒的に不足がある。

 つまり、リヴェンジャーが逆転の目を持たない以上、優勢は未だ自分達の手にある!


『……ふ、ふふ、だがどうだ!この機兵には隙間どころか継ぎ目すら見えまい!この堅牢な壁がごとき機動鎧を、如何にして―――』



『―――そう、厄介だったんだ。あれだけ大量だと、俺じゃ纏めて駆除できない』


 そんな、勘違いをしていたのだろう。


『やっと、一纏めになったのだから』


 <CRASH:能力抽出エクストラクト


 ―――俺は一番強力で、かつ一番使用したくない記憶触媒を手にし、銃へと装填する。

 その名を聞くだけで吐き気を催す不快な触媒だが、その破壊力は間違いなく、俺の持つなかで最強。


『な、まさかお前、合体をするのを狙って……!?全機、急ぎ分離を―――』


 メカニックマスターはついに、俺の思惑に気付いたようで慌てて指示を飛ばす。


『間に合うかよ』


 だから俺はその前に、再びトリガーを引いた。

 ……忌むべき技名と、共に。


『―――破砕砲クラッシュ・ライフ





 ◇◇◇



『そん、な……』


 地面に転がった少年―――メカニックマスターは、辺りに散らばった瓦礫を前に、涙を目に浮かべながら呆然と座り込んでいた。


『ぼくの、ぼくのかわいい兵器たちが……全滅……?』


 その前へと、俺は立ちはだかる。

 手には銃。それを彼の頭へと差し向けて、威圧した。


『一応投降をすすめるが、どうする?』


 それをみて、流石に観念したのだろう。

 メカニックマスターは手から変身機をはずし、その変身を解く。


 <変身解除リクルージョン


『……投降、しま―――」


 電子音声と共に、彼の戦闘衣スーツが消滅した。


 ―――その瞬間だった。



「……へ?」



 響く、無数の足音。

 その音は明らかに、機械のものだった。

 断続的に響いていたその音は、やがて段々と近くなっていき、ついにその主が姿を表した。


 ―――先程の機兵よりも、スマートな外見のロボット達。


 それが十機ほど、半ば廃墟と化しているホールへと踏み込んできたのだ。



『……ッ、まだ抵抗する気か?』


 俺は拳を構えつつ、足元で踞る少年へと警告を飛ばす。


 ……だが、様子がおかしい。


「ち、違う!これは、ぼくのロボットじゃ!」


 そういいながら変身機を抱える彼の目に、嘘は感じられない。


 ―――つまりは、窮鼠の反撃よりも尚、性質の悪い事態となった可能性。


 俺はそれに行き当たり、ため息を漏らす。

 あぁ、全く。



『―――第三、勢力……!』



 何事も、そう上手くはいかないものだ。

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