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chapter2-ex:正義の会合
―――そこは、巨大な円卓を中央に、5つの椅子が立ち並ぶ巨大な会議室だった。
「
その所在は一般人は愚か、末端のヒーローにすら完全に秘匿されておりその存在そのものが門外不出。そのなかで極一部の幹部クラスのヒーローのみが、この場所の存在を知らされ会議に参加することを許されるのだ。
―――だが、この会議はそんなものと比較にはならないほどに、厳重に秘匿されたものだった。
なにせ参加者は、「
並べられた椅子には複数の人影が座っており、その上座―――ひときわ大きな椅子に座る巨大な人影へと、その顔を向けている。
その姿、身長は五人とも似ても似つかない。
―――一人は細身かつ、流線型の装甲に身を包んだ戦士。
―――一人は羽衣のような装備を纏ったスリムな体型の女性。
―――一人は巨大な剣を担ぎ、いぶかしげに顎を触る和風鎧のような装備の武者。
―――一人はピンク色のフリル付きスカート、そして巨大な杖を手にした小さな女の子。
―――そしてその視線の先にある一際巨大な椅子に座る最後の一人は、白いスーツに身を包んだ黒髪の青年。
四人はその人影からも分かる通り、変身したヒーローだ。
そして彼らの視線の先、一際大きく豪華な椅子には鎮座するスーツ姿の青年がいた。
彼は、腕を組みおもむろに言葉を口にする。
『―――それで?行方不明になった英雄たちの行方は?』
『はい、リーダー』
青年の言葉に、四人組の一人―――ヒーロー、否ヒロインとおぼしき長身の女性は、手元の書類に目を通しながら報告を始める。
『―――ルーパー・リーパーは記憶喪失状態で街を徘徊しているところを保護、ホロウ・ヴィジョンに関しても駅前で何者かと交戦した痕跡を発見した直後、記憶を失った状態で保護しました』
『……記憶喪失、ねぇ』
『あ、このパフェ美味しい!』
なされた報告に対して、一同は顔をしかめる。
……うち一人の少女だけは目の前のパフェに夢中でほとんど話を聞いていないようではあったが。
『えぇ―――ヒーローとして活動してた頃の記憶のみが全て喪失していました、これで四件目です』
女性は続けて、立体モニターにデータを投影させる。
そこに表示されたのは、直近で起きた彼等「
うち幾つかはそもそもの仇敵であり社会に潜む外敵である「
だがそれとは全く似ても似つかない手口による人的被害が、ここ数ヶ月で倍増していたのだ。
<・クラッシュ・ロウ:死亡>
<・スパイク・モール:不明>
<・マルコシアス:不明>
<・ネオ・キャロット:保護>
<・ネック・カット:不明>
<・ロード・ランナー:保護>
<・ルーパー・リーパー:保護>
<・ホロウ・ヴィジョン:保護>
次に表示されたのは、被害者のパーソナルデータ。
うち一番上―――クラッシュ・ロウの顔画像の上には×マークが引かれ、赤文字で「死亡」の二文字がでかでかと表示されている。
『……クラッシュ・ロウが殺害された件のこともある。こうなっては、例の組織の存在を認めざるを得ないな』
それを一瞥し、スーツの青年は重い口を開く。
『「
『我々はあくまでも反社会的な行動をする能力者、そして人類の驚異である『
提示された事実に一同は、口々に疑問の言葉を溢す。
―――「
その活動内容は所属ヒーローの襲撃、物資の強奪、研究施設の破壊など様々だ。
反社会勢力、などという言葉では表現できないその手法は一種のテロにも等しい。
真っ向から「
だからこそ、「
――何故社会的、道義的に「正義」であるところの自分達に、彼等はそうまでして仇なそうとするのか、と。
『もしくは彼らも、それに与する物だと判断せざるを得ないな』
『……太白、どう思う』
『本名で呼ぶなやリーダー!』
スーツの青年―――「
「
警察や軍に頼らない自警団扱いの組織、そこに所属する秘密裏に行動するヒーローという立場上、万が一にも外部に正体がバレるのはタブー。
極端な話、任務中の簡単な呼び掛けですら、その危険性を孕んでいるのだ。だからこそその予防策として、有事の際、およびヒーローへの変身時以外は相互不干渉の姿勢を取るというのが、「
とはいえ、ここは最高幹部のみが一同に介する会議。
お互いの素性などお互いが容易に調べられる立場なのだから、ここに限っては絶対的に遵守されるべくものではないのだ。
「あ、悪い……それで「ヒヒイロガネ」、お前はどう思う?」
『―――まぁとにかく、身内に被害が出ている以上は調べずにはいられないわな。向こうの仕業かどうか、なんて判別できないが少なくとも何かしらの敵対者のやったことには違いない』
太白と呼ばれた武者鎧姿のヒーロー―――「ヒヒイロガネ」はそう告げると、少しため息をつく。
それが昨今の情勢に対してか、首領たる青年に対したか、は本人のみが知るところだ。
『私も同意見です、部下であるクラッシュ・ロウが殺されている以上、「イズミ」統轄である私としても捨て置けない話ですから』
「アタシも、お友達さん達に調べるようにお願いしとくね!うちの学園なら人脈の広い子多いから、なにかわかると思う!」
先ほどまで報告をしていた女性と、如何にも魔法少女然とした姿の少女も口々に「ヒヒイロガネ」の意見へと続く。
「……」
鎧をきた細身の少年も、特に意見をする様子はなくただ静かに頷く。
つまりは、全会一致の容認。
それは「
必然、首領の青年の内心も穏やかではない。
―――なにせ今までは、最早人ではなくなった化け物―――『怪人』を相手にすることを目的に、ヒーロー達は集い、結束していたのだ。
だが、今回は違う。
『……決まりだな、皆よろしく頼む』
相手はほぼ確実に、生身の人間。
それを相手取るとなれば、多くの離反者が産まれるリスクだってある。この旗のもとに集ったのはなにより悪の怪人を倒し、不良能力者を鎮圧するため。
間違っても、人殺しをするためではないのだ。
……だが、今はこうするしかない。
クラッシュ・ロウの殺害。
身内の死を前にして日和見をしていられるほどに、彼は、そして「
少なくとも、彼はそう信じている。
『とにかく、今は情報が乏しい。彼等を単なる敵対者と見なすかそれとも―――』
『―――各員、怪人が出現するまでは最優先で 「アンチテーゼ」の情報を探るよう各部署に伝達せよ。敵味方の判断は、その結果次第だ』
そうして、「正義」を掲げる者達の会合は終わった。
果たして、どちらが正義なのか、それとも、どちらも正義などではないのか。それはまだ分からないが、少なくとも今言えることはただ一つ。
―――答えはきっと、これから始まる英雄達の血で血を洗う不毛な死合のなかにしかないということ、ただそれだけである。
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