第9話
『何で年を取らない…?』
『気持ち悪い……』
『化け物めっ!』
目がさめるとなぜか隣では花梨が気持ち良さそうに眠っている。
そういえば昨晩、花梨に一緒にお風呂に入ろうと言われていたのにそのまま寝てしまったのだ。
自分の服装を見るとネグリジェに着替えられており、花梨が着替えさせてくれたのだろうと推測する。
そしてそのまま一緒に寝たと……
『いや、何でだよ 』
なるほど状況は分かるが納得はできないと心の中でツッコミを入れる。
身体が汗ばんでおり、気持ち悪い。
とりあえず身体を洗いたいと思い、部屋に備え付けられているお風呂でシャワーを浴びる。
『しまった、タオルとか用意していない 』
何も考えずに濡れてしまった事を後悔するが、それもすぐに無くなった。
「楓、おはようございます! 着替えとタオル置いておくわね 」
「おはようございます。 ありがとう 」
とても有り難い。
だがしかし、眠っていたはずの花梨が私の困っている時にちょうど起き、困っている事を予測し対処するーー何てこと普通可能だろうか?
いや、そもそも魔法使いなので普通ではないのだけれど。
などと考えながらお風呂を上がれば脱衣所で待機してた花梨に全身を魔法で乾かされる。
確かに便利だが、なぜ居る?
先程から花梨の行動に突っ込みを入れたい衝動に駆られている。
そんなもやもやすら掻き消すほどの怒涛の着せ替えが始まった。
先程用意されていた着替えは? と聞けば、アレも一つの候補よ!と元気な返答が返ってきた。
もうそれでいいじゃん……
着替えという名の着せ替えが終わると共有スペースに朝食を食べに行く。
共有スペースに着くと既に榊と柊が席についており、おはようと声をかけてくれる。
ここでは朝食を取りながらその日の日程を確認し合う事になっているらしい。
「今日は俺が休みだから、楓の魔法練習はおれ俺がするぜ 」
「よ、よろしくお願いします!」
いよいよ魔法練習が始まる。
榊の言葉に期待と不安が混じった声で返事をすれば、嫌でも気づいてしまう、花梨と柊の嫉妬の眼差しだ。
昨日一日で気づいた事はこの3人がどうしようもなく私を大切にしてくれているという事であり、この眼差しもそのためだろうと考えられる。
だから2人の嫉妬も、その嫉妬に気付き2人を煽る榊も、止めることができるには私しか居ない。
「私、練習頑張るから、2人ともお仕事終わったら練習の成果見てくれる…?」
「もちろんよ!」
「うん、見るよ 」
「ありがとう。 楽しみにしててね 」
「たの、しみ。 ヤバイ、今日の仕事捗りそう…… 楽しみをとっておくわ!」
「楓が僕達に見せるために頑張ってくれてると思うとそれだけで僕達も頑張れるよ。ちなみに僕達の中に榊は入っていないから、当たり前だけど僕と花梨に見せるために頑張ってくれるんだから。榊は勘違いしちゃダメだよ?」
「ふん!負け惜しみを!」
ダメだ収集がつかない。
無駄に自分のハードルを上げただけだった。
とりあえず花梨と柊を仕事に送り出し早速練習が開始する。
「楓はとりあえず核を感じるところからだな 」
そう言うと榊によって魔法防御壁が三重に張られる。
もしもの時は、この防御壁に地球の未来がかかっている。
「楓の中には核がある。それが大前提だ 」
榊が私の胸元を指差しながら言う。
ここにあるということだろう。
「でも何かあるようには感じない 」
「あって当然のものだからな。内臓だってそこにあると言われても、これが胃だ! なんて分からないだろ?」
「確かに!」
なるほど言われてみればそうだ。
基本分かるのは心臓くらいなものである。
「しかし、核の傷は死に至る恐れがある。 使用限界を感じるためにも認識しておく必要がある 」
「そんなものも感じ取れるようになるの?」
「なるぞ! だからお嬢様お手をどうぞ 」
そう言いながら差し出された右手が差し出された。
手を重ねろということらしい。
そっと左手を重ねた瞬間何かが身体中を駆け巡り、胸のあたりが急に熱くなる。
「っ……!?」
「今、楓の中に魔力を多めに流し込んだ。 どうだ? 魔力が巡る感覚、その魔力が核に吸収される感覚、感じれたか?」
「! これが!」
「感じたみたいだな 」
無邪気な笑顔が向けられる。
そうか、これが魔力というものか。
認識した途端、大気に混じる魔力が感じられるようになった。
意外とあっさりしている。
「もっと大変だと思ってた 」
「楓が優秀なだけだ 」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。
2人がいないのをいいことに思う存分撫でられた。
「よし、次は魔法を使おう 」
「はいっ!」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ。 魔術と違って発動に原理なんてない。 願ったことが実現する、そんな奇跡こそが魔法だ!水よ! 」
そのの声に応えるように大気中の魔力が動き出す。
榊の中に吸収されていった魔力の代わりに、空中には水が湧き流れを作り蛇のように榊の周りを渦巻まいた。
「綺麗…… 」
「ありがとう。望みを声に出す必要はないが、声に出すことで明確になり魔力を扱いやすくなるという利点がある。最初の内は言ってもいいと思うぞ 」
「分かった!」
「早速やってみるか?」
「もちろん!」
意識すると周囲の魔力を吸収し核が熱を帯びた。
目の前で渦を巻くお手本を見る。
『あんな風に、私も……!』
「水よっ!」
核の熱が一層強くなり、吸収した分の魔力が消費されて行くのが分かる。
そして何もない空間に小さな水の玉が生まれ徐々に増えていき、流れを作り周りに渦巻き始めた。
「! できた!」
「おっと、気を抜くなよ。 水の制御が解けてしまうからな 」
「分かった 」
「それにしても早かったな。 さすが楓だ! 」
「ありがとう!」
よかった、大丈夫そうだ。
私にもちゃんと操れる。
その事に心の底から安心した。
「楓が今使った魔法と、俺の魔法、違いが分かるか?」
「え? 私は榊と同じようにしたつもりだけど?」
「この2つは似ているようで全く別の方法で水を作り出している。 俺は空気中の原子を使い水を作りそれを増殖させている。 それに対し楓は何もない空間から新たに原子からこの水を生成しているんだ 」
「昨日花梨が言ってた……!」
「そう、それじゃあ次はこの水を動かしてみるぞ 」
「はい!」
榊が水を様々な形に変形させていく。
それを真似するように同じような形になるよう水に意識を向ける。
段々と変形にかかる時間と気力が減る、容易に水を操れるようになった。
「その調子だ! 楓は上達が早いな!」
「そうかな?」
「そうだぞー もっと誇れ!」
「ありがとう 」
褒められて悪い気はしない。
それにしても意外とあっさりしていた。
「最後に仕上げてをやるぞ 」
まだ終わっていなかったらしい。
「仕上げって?」
「この水を消す事だ、後片付けは大事 」
コクリと頷いてみせる。
確かに後片付けは大切である。
「俺はこの水をもう一度原子に戻したりして水を消すが、楓は原子自体が消えていくよう願うんだ 」
「うん、やってみる 」
水を構成しているものから少しづつ、消すように。
そう望めない徐々に水が消滅していき、やがて完全に水がなくなった。
「よし! これで一通りできるようになったな! まだ午前中だが終わってしまた 」
「先生の教え方が上手だったのかも 」
「先生っ! 楓、これからは俺の事を先生と呼んでいいぞ!」
「花梨と柊が嫌そうにすると思うからやめておく 」
「そっか…… 」
あからさまに残念そうにするがそれ以上言ってこないところを見ると榊にも想像ができたらしい。
「何はともあれ、これで楓もこれで立派な魔法使いだ! この世界の魔力の使用権限最上位に位置するのは楓だ、楓が望めば世界中で魔力を使用することができなくなる。 それは俺達も例外なくではない 」
「世界は知らないけど、君達の力を制限はしない。 というか、できる気がしない 」
「できるんだ、楓が望めばこの世界は思いのままに動かせる。 それだけは覚えておけ 」
魔法使いになった事によって、私の両肩に世界とか言う要らない重圧がかかることになった。
早々に返却願いたい。
私は神様らしい 北森アヤ @kitamoriaya
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