第7話


 神様になると宣言し、神様にしかなれないのだと知った。


 そしてもう一つ知ったことがある。

 それは私がとても醜いということだ。


 自分は彼等に愛されているということはここ数時間で十分分かった。

 そのことが堪らなく嬉しい。

 たとえそれが神に対する愛でしかないとしてもだ。


 だから私はこの居心地の良い空間を守るために神様になることを決めの。

 それは彼等のためではなく自分のためであり、彼等の信仰に応えることで、彼等に捨てられないようにしようと思う浅ましい心理からくるものである。

 そこにはどこまで行っても自己中心的な考えしかなかった。


 私はこんなにも醜い。

 自分が彼等から敬われることなど間違っていると私は知っている。


 目の前で自分に下げられた頭を見ると罪悪感と寂しさが混じった感情が湧いてくるが、そんな感情を持つこと自体が烏滸がましいことも知っている。

 3人の顔が見たい。

 だから一刻も早く頭を上げさせたかった。


「さっきも言ったけど、私にそんな態度取る必要ないから 」


 そんな価値など無いのだからとは言わなかった。


「俺達の神になると決めて下さったのに?」

「でもまだ何もでないし、していない 」

「ふーん? 律儀だな 」

「あら、それでこそ楓だわっ! 好きっ!」

「わっ!?」


 今までの硬い雰囲気をぶち壊して花梨が飛びついてき、その様子を見て榊と柊が生まれる性別を間違えたと悔しがっている。


 この感情は律儀だなんていうそんな綺麗なものではないのに。


 あと榊と柊の反応もそうじゃない感がすごい。


「あ、女体化の魔法……!!」

「それだっ!!」

「それでもない!!」


 柊の閃きに榊が天才かよと言いながら同調するのを反射的に制してしまった。

 しかし、雰囲気が和やかなになったことに思わず笑みがこぼれた。

 この空間が好きだ。


『こんな幸せな時間がずっとずっと続けばいいのに 』


 そんなことを思ってしまう。


 そして自分の狡さを認識する。

 彼等は必死に今の幸せを自分達の手で掴み取ったのに、私は何も苦しまないままその幸せを分けてもらい、幸せを感じているにだ。


 こんな醜い私でごめんなさい。

 こんな醜い私だと言えなくてごめんなさい。


 花梨に抱きしめられながら言葉に出すことのできない謝罪を心の中で繰り返す。


 それでも彼等の幸せを願っているのは本心である。

 そんなことを思う資格など持ち合わせていなことなど理解しているが、それでも彼等のためになるのなら、どんなことだってするつもりだ。

 彼等の敵になるものは全て排除する。

 例えそれが創造主であったとしてもだ。


 目を閉じて心の中で彼等を幸せに与えるのだと改めて誓う。


 なぜここまで彼等に入れ込むのだろう?

 その他の人間はどうでもいいと思うほどに彼等を大切に思っている自分がいる。


 今はまだ彼等としか関わりを持っていないがこれから他の人と関わることで大切な人が増えるかもしれない。


 それでもこの3人を一番に考える自信がある。


 理由は分かっている。

 それは人間だと言われたことだ。

 彼等は私を神様と言うが、それは神様のような存在であるだけで、その本質は人間であると認めてくれたことが私の中では最重要なのだ。


 彼等が食事を与えてくれ、私は生き物になれた。

 しかし、食事をしただけではただの生き物で止まっていた。

 それを彼等が私を人間だと認めてくれて始めて人間にしてもらったのだ。

 いわば生き物として、人間としての親である。


 生みの親がそうあれと願うのなら私の存在意義は決まり、それ以外は必要ないのだ。

 彼等が私に神であることを望むのなら、私は彼等のために彼等だけの神様になる以外、捨てられないための選択肢は無いのである。


 花梨の腕の中で人の温かさを感じながらゆっくりと目を開けた。

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