第5話
「魔法使いは私達4人だけだから 」
花梨の衝撃的な発言に頭が痛くなる。
過重労働の嫌な匂いだ。
思わず表情筋が働いてしまう。
この世界の生活の基盤は核であり、それが作り出せるのは魔法使いのみ。
つまり今のこの世界は目の前の魔法使い3人だけで支えていると言ってもいい。
あの核1つでどれだけの魔術が扱えるかは知らないが、そもそも3人で足りているのか?4人に増えたとして足りるものなのか?
「多分、想像しているようなことはないから安心して?」
「えっ」
私の表情を見て色々察したのか柊が私の想像を否定する。
多分、と付くあたり花梨の読心術ほどの怖さはない。
こんなにも内心が読まれるのは、顔に考えが出過ぎてしまう私のせいかもしれないが、なぜかこの空間ではそうなってしまうのだ。
同族の安心感が本能的にあるのかもしれない。
とりあえず、どういうことか聞いてみる。
「核製造機械を開発したからそこで大量生産することができるんだよ 」
「メンテは半年に1回でいいしな!」
「機械化…… 」
はぇー便利な世の中だなー。
柊と榊の言葉に感心したようにコクリと頷く。
つまり仕事は半年に1回ということか……
「……普段は何してるの?」
こんな豪華なところで毎日ゴロゴロしてるの?
とでも言いたげな顔を向けると不本意そうな声が帰ってくる。
「普段は会社を、魔術を使った商品とその商品を動かすための魔術の開発をしてるから!働いてるから!」
「今日も僕と榊は出勤してたよ 」
「私は今日お休みでした 」
なるほどどまた頷く。
核の扱いを一番分かっているのは彼等だ。
その彼等が新しい技術の開発に携わるのは道理だろう。
そういえば榊と柊はスーツを着ている。
私が目覚めたから会社から直接来てくれたのだろう。
迷惑をかけてしまったか。
となると疑問に思うことがある。
「来てくれたのは花梨が連絡を取ったの?そんな素ぶり見せてないけど…あと来るの早くない?それも魔法?」
「花梨からの連絡は魔法だな、テレパシーってやつ。泣きながら連絡きた 」
「それは今関係ないでしょ!?」
「おふっ……!」
バシッと音とともに榊が腹を抑える。
花梨の回し蹴りが鳩尾に入ったらしい。
どうやらデリカシーを体に叩き込んで行くスタイルのようだ。
そんな2人をよそに柊が話すを進める。
「来るのは魔法じゃないよ 」
「そうなの?」
「そうなの。だってココの下が会社だから 」
「え!?」
ここが会社の上?
驚いていると、失礼と声をかけられお姫様抱っこされる。
今度は柊にだ。
「おいてめぇ!」
それを見た榊が勢いよく柊に噛み付くが、柊は華麗にスルーしていく。
その柊の肩を掴んだのは花梨だった。
「ソレ、私の仕事よ?」
「さっきここまで楓を連れて来るのに花梨はもうしたでしょ?」
「当然だわ。そしてこれからも私がするわ 」
満面の笑みを浮かべる2人が怖い。
自分で歩かせて欲しいが、それを許してくれなさそうな2人の間で大人しく丸くなっていることを選ぶ。
とても長く感じられた数秒の沈黙の後花梨が口を開く。
「……今回は譲るけど、次はないわ 」
「無理強いは良くないよ?楓が望む方で 」
「次は俺だろ!?」
「私が望むのは私自身の足で歩くことだっ!」
やっとの思いで言った私の主張は流され、そのまま壁一面を覆うカーテンの前まで運ばれる。
そして自動的にカーテンが開き、現れた大きな窓ガラスの外には高層ビルが並ぶのを見下ろすという光景だった。
「っ……!」
凄いの一言だった。
人が小さ過ぎてよく見えない。
これだけ発展した街を見たことがない。
それともこれがこの世界の「普通」なのか?
分かることは高層ビルを見下ろすほど高い建物に自分が今居るということだ。
「凄い?今ここが最上階で。ここの2つ下の階から全てウチの会社だよ 」
コクコクと頷く。
発展、するだろう。
だがこれほどまでとは思っていなかった。
「上2つは私達の家よ。最上が個人の部屋とここ共有スペース。1つ下が来客用とかね 」
「あとで部屋の場所を紹介するな 」
そう笑いながら言い、私の頭を撫でた榊はまたしても花梨からの回し蹴りを貰い撃沈する。
確かに私は意識を持ったばかりで100年以上生きている彼等には子供のような存在だろうが、私の見た目は10台後半から20台前半だし、成人と同等の理性はある。
つまり、さっきからのお姫様抱っこも、頭なでなでも、めちゃくちゃ恥ずかしい!
赤くなった顔を両手でで覆えば、榊に柊の足蹴りと花梨の回し蹴りが入る。
榊だけのせいではないのだが。
「わ、私いつもこんな抱っこして貰ってばかりじゃ悪いから早く着替えたいな〜 」
「……靴を全部捨てようか 」
「……偶然だな、俺も同じことを考えてた 」
「ダメよ! 靴まで含めていっぱいオシャレさせて、いっぱい写真撮るんだから!」
「もういいから私に歩かせて!!」
こいつら私をお人形か何かだと思っていないか?
取り敢えず着替えさせてももらえることになった。
その前にとエレベーターから各部屋の場所を教えてもらう。
柊にお姫様抱っこされたままで。
順番逆じゃね?という疑問は置いて行かれたようだ。
エレベーターを降りで右手に花梨と私の部屋、左手に榊と柊の部屋があり、中央に共有スペースがあるという作りらしい。
階を一通り回ると自分の部屋のソファーに降ろされる。
これからもう一度会社に戻るという男性陣を花梨がシッシと追い払い、お着替えタイムのスタートだ。
大きなクローゼットを開けるとそこには山のような洋服がキチンと詰まっていた……
「どれも絶対可愛い!」
腕を組みながら満足そうに頷く花梨に、私はなすすべもなく着せ替え人形となった。
たくさん着てたくさん履いてたくさん脱いだ。
正直疲れた。
回復魔法が使えたらなとボンヤリ思う。
「花梨……もうこの辺で、続きは明日のお楽しみ。ね?」
半分に逃げるように笑顔で諭せば、驚きの言葉が返ってくる。
「明日は明日で新しい服を買えばいいのよ!」
これだから金持ちは!!
「でも、今の言い方ものすごく可愛かったから今日はここまでのするわ 」
「助かるよ 」
助かったかな?
明日に私は助かってないな?
そして長い着せ替え人形の末、淡い青色のワンピースになった。
綺麗な刺繍がされており、派手ではないが綺麗なワンピースだ。
なんでも花梨が今日ワンピースだったため合わせたかったとのこと。
そして低めの白いヒールを履く。
「そういえば部屋の中で靴を履くの?」
「玄関という概念がなかったから靴を履いたままなのよ。お部屋では脱いでいたいかしら?」
「そうだね、なんだか違和感 」
ふふと笑う。
本気じゃなかった。
別に靴を履いてたってよかったのだ。
だが、私の「ワガママ」の力を私はまだ知らなかったのだ……
「裸足でフカフカの絨毯を歩く楓可愛いっ!すぐに裸足でも大丈夫なように完璧な清掃と、フカフカの絨毯を用意しましょう!今すぐに!!」
パチーンと興奮した花梨が指を鳴らせば、部屋のドアが勢いよく開き会社に戻ったはずの榊と柊が姿を現わす。
そして榊の清掃魔法のようなものが床を磨きあげ、柊が耳に何かを当ててブツブツ呟きけば、僅か数分でフカフカの絨毯が届いた。
こうして私の部屋は土足厳禁になったのである。
魔法と金の富裕層め。
私はフカフカの絨毯を素足で踏みしめた。
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