第4話


 この世界についてそして私の自身についての授業が始まった。

 そして私の知らない知識がツラツラと並べられる。


「魔術には核となる物が存在しています。核は大気中の魔力を吸収し魔法陣の中心に置くことで魔力を魔法陣へと流し、術を発動することができます。つまり核が無いと魔術の行使ができません。この便利な現代の生活が無くなります 」


 そう言うと彼女は赤く輝く直径3センチほどの丸い宝石をどこからともなく取り出しわたしに手渡す。

 魔法使いはこの宝石を作り続けなければいけないのか。


「ほう 」


 手に乗せられた宝石を見る。

 綺麗だ。


 だがこんな世界設定知らない。


「その核とは魔法によってのみ生成されます。魔法とは核を個人の体内に宿した魔法使いが、魔法陣などを用いず、非科学的な奇跡を起こすことの事です 」


『科学と言いながらその根本的なものは非科学という矛盾な 』


「魔術の根本が非科学なのは魔法使いが魔力を人々に認識させるために作ったもの仕方ないのです 」


 ん?


 というかまた読まれた気がする。


「そして魔術に用いている核は魔法使いの体内の核を真似て作ったレプリカとなります。しかし魔力の使用限界はオリジナルとは雲泥の差な上、その他できることも大きく異なります。ここまででご質問は?」


「はい!」


「はいどうぞ 」


 手を挙げて質問すれば当てられた。


 なぜかお互いノリノリだ。


「『魔力を人々に認識させるために作った。』というのはどういうことですか?」


 質問タイムが設けられたので、先ほどの引っかかった事を聞いてみる。


「お答えします。私達魔法使いは非科学的な現象を起こします。それは一般人にとって恐怖でしかありませんでした。恐怖の対象は迫害されるのが世の常です。そんな世界を許せなかった。だから私達は魔力の存在を認識させ、それによる生活の向上を図る事で、利益を与え、恐怖の対象から幸福を齎す者へと人々の意識を変えさせたのです 」


「貴方達がその偉業を成し遂げたの?」


「ええ 」


 なるほど、ここ最近でできたことならば眠っている内にということが十分ありうる。

 それなら私は知らないであろう。


 若いのに凄いなと感心していると耳を疑うような言葉が彼女の口から飛び出す。


「100年間頑張ってきたお陰で今では魔法使いの生きやすい世界になりましたね 」


 ふぅとやり切った顔を3人ともしているがその顔立ちはどう見ても20代前半である。


「……何世代に渡って?」


「一世代ね 」


「……」


 100年前からならば私が眠っておる間にという仮説が崩れる。

 流石に100年も眠っているわけがない。


 というかこの人達はいくつなのだろう…?


 魔法使いの寿命は普通の人間とは違うというのか。


「私達は老いないのよ。体内の核が常に新しい細胞を生み出しているお陰でね。ただし、死はあるわ。体内の核が壊れた時よ。普通の人は魂と身体をシルバーコードという紐状の物で繋がれていて、それが切れた時が死とされているわ。一方で魔法使いは核と魂が融合していてそれが体内にあることで身体中の魔力が周り身体を動かしているの。あ、です!」


 先生モードを忘れいたのを思い出したみたいだ。


 内容としてはいくつか気になったことがある。


「はい!質問いいでしょうか?」


「どうぞ 」


 もう完全に先生と生徒である。

 さっき会った人とは思えないほど息が合っている。


「1つ目は、核が壊れる時はどういう時ですか?2つ目は、身体を動かすのが魔力ということは食事や睡眠などを必要としないということでしょうか?」


 核が壊れる時が明確にはないということは理論上「死」が存在するだけで、事実上不老不死ということになってしまう。

 それに食事や睡眠が必要とされないということは人間としての欲求がないということかもしれないし、もしかしたらできないかもしれない。

 それは悲しい。


「お答えします。まず核が壊れる時というのは核の使用上限を超えた強力な魔法を行使した時です。多すぎる魔力を吸収することで核が耐え切れず砕けてしまいます。ちなみに普段は超えないよいにリミッターがかかっており、もし多少オーバーしてしまいヒビが入るなどしても自然治癒するので安心してください 」


「なるほど 」


 人の体と同じか。

 自然治癒でも治らないほどだと死ぬと。

 どうやら不死ではないらしい。


「2つ目の質問に関してですが、食事や睡眠は欲しいですね。なくても死ぬことはありませんし、魔法で体調を治すことはできますが、人間としての機能は備わっていますので。欲しい、というくらいですが 」


 欲しい、ということは必要はないけど、あると嬉しい。つまり、娯楽の部類なのだろう。

 良かった、寝ることも食べることもできるらしい。


「ありがとうございます 」


 ぜひとも甘いものが食べたい。


「どういたしまして。美味しいものを食べに行きましょうね。特に甘いものを 」


 コクコクと全力で頷く。

 この際また読まれたことはどうでもいい。

 是非とも!


「それでは説明の続きをさせて頂きます 」


「よろしくお願いします 」


「ズバリ申し上げまして、貴女の存在はその魔法使いの頂点に立つ存在です 」


「んん??」


 いきなり飛躍した。


「貴女は魔法使いです。大魔法使いです 」


「あ、私も?」


「もちろんです。私達の神様ですので 」


 断言されてしまった。


 魔法使いの説明の時に言っていた「私達」にはどうやら私も含まれていたらしい。

 今までの核やらなんやらは私にも当てはまるのか、そっか。

 そんな気はしていたのだ。

 だがそんな感じはしない。


「体の中に核がある感じがしませんが……」


「確かに貴女の中にあります。魔法の使い方はまた練習しましょう 」


 この体にあの石が入っているのか。

 自分の身体を見下ろす。


「起きた時に身体は健康そのものだったはずです。それは体内の核が貴女の身体を健康に保っていたからです 」


 言われてみればなんともなかったな。

 なるほど便利な身体である。

 便利する気もするが。


「そして貴女は私達にはな成し得ない力を持っています。それは『有を無にし、無から有を生み出す』力です。私達が起こす奇跡は非科学的ですが、それは増幅と減少を行うことができるからです。核もその原理を利用して複製を作っています。ちなみにですが、魔術は存在する物質を魔法陣と魔力を使って強制的に化学反応を行なっているだけです 」


「はい質問!」


「はいどうぞ!」


 流れが完全にできてしまっている。

 美女も楽しそうだ。

 楽しいのが1番いい、うん。


「それは、無から生命を生み出すことも可能だということですか?」


「いい質問ですね。結論から申し上げますと、できません 」


 流石に生命の理を外れているか。


「理由は解明されていないのですが、老いない時点で生命の理を外れているからこそ生命に関する事には触れることができないのではないかと考えています。流石に創造主の考えまでは理解できません 」


 そういえば既に外れていた。

 老けない以外にも、在るものを無くしたり減らしたり、無いものを作ったり増やしたりなんて世界の理から外れているのだ。


 というか、


「創造主、居るのですか?」


「さぁ?それも解明されていません。しかし、私達のような存在、ただ猿の進化というにはおかしな点が多すぎますので 」


「ですよね 」


 まあ、化け物だよね。

 うん。


「まあ存在するのなら一発ぶん殴りたい気持ちではあります 」


 ニッコリ美しく笑う顔が怖く見えた。


 この魔法が認められる世界になるまで想像を絶する苦労があったのだろう。

 創造主を恨むくらいには。


「話を戻しましょう。先ほどの生命に関することは触れることができないと言いましたがどのレベルまでかと申しますと、魂を生み出すこと、切れたシルバーコードを繋ぎ直したり新しく繋げたりすること、核を生み出すことです。身体の治癒などはできますのでそれにより命を繋ぐことは可能です。身体は器にすぎませんので 」


「核の複製をしているのでは無いのですか?」


「完全にはできていません。劣化版なのです。ですのでできる範囲を異なってきますし、体内に埋め込んでも不老の身体になったりしません 」


 確かに性能が大きく違う。

 だとしたら私の中にある核はなぜこんなにも破格の性能なのだろうか?


「結局私の存在はどういうものなのでしょうか?」


「魂と核が自由に動き回る為の器である身体を生み出した存在です 」


 それは……


「……私の記憶無くなる前は私は何をしていたのでしょう?」


「記憶が無くなる前など存在しません。今の貴女が全てです 」


「私には知識があります。少しこの時代の知識と異なりますが、言語も習得しています。これはどういうことでしょうか?」


「……身体を作る過程で体内に入る前まで魂が感じていたことではないでしょうか?断言はできかねますが 」


「……」


 確かに「魔法の力です 」「創造主が与えたのでしょう 」と言われればそれまでだ。


「……分かりました。ありがとうございます 」


「不甲斐ない先生で申し訳ありません 」


 とても申し訳なさそうに綺麗な顔を歪める。

 彼女達も全てを把握し切れているわけではないのだろう。


 というか先生と言い切ったな。


「以上で私からの説明は終わりますが、何か他にご質問はございますか?その、説明が下手だった所とか……」


 おずおずと不安そうに聞く。


「下手なんかじゃなかったよ 」


 そう言いながら笑いかければ安心したように、よかったと呟き笑い返しってくれる。


 それにしても質問か。

 気になったことはあらかた聞いた気がする。

 魔法や魔術などお伽話のようなことをたくさん聞いたが、なぜか頭の中はスッキリしている。


「あ 」


 そういえば重大なことを聞くを忘れていた。


「私の名前はあるのでしょうか……?それとみなさんのお名前を教えて下さい 」


「あ、自己紹介を忘れてるっ!」


 その声に後ろでトランプゲームをしていた勇者様と騎士様がカードを持ったままバッとこちらを向く。

 顔には忘れてたとしっかり書いてある。


 というかいつのまにかトランプしてた。

 先ほどまでの敬いっぷりはどこへ行ったのだろうか。


『楽にしてとは言ったけどね 』


 しかし、こちらの方が落ち着く。

 別に敬われたいわけではないというのが本心だからだ。


 2人が急いでこちらに来る。

 トランプはほったらかしだ。


「自己紹介忘れてた!俺は榊だ、よろしくな!」


「僕は柊だよ 」


「私は花梨です。よろしくね 」


 今まで3人に変なあだ名を付けて心の中で呼んでいたが、勇者様が榊、王子様が柊、美女が花梨という名前らしい。

 訂正しておかなければ。


「そして貴女のお名前は『楓』と3人で決めてしまったのだけど、どう?イヤ?」


 不安そうに聞く。

 確かに名前は大切だもんな。


「榊、柊、花梨に楓。うん。ありがとう。嬉しい 」


 ふふっ笑えば3人ともホッとした顔で笑いあう。

 名前をつけてもらえるのはなんだか気恥ずかしい。

 けれど凄く嬉しかった。


「そういえば言い忘れていたことが1つあったわ 」


「ん?」


 ここまで色々な説明受けてきたのであと1つや2つは誤差だ。

 どんとこいという風に花梨の方を見るとニッコリと微笑まれた。


「魔法使いは私達4人だけだから 」


 過重労働の香りがする。


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