いんそむにあ

韮崎旭

いんそむにあ

病弊の光暉。眺める朝が戸を叩くなら死刑宣告も遠からず。

呪詛と怨嗟が優しく沈める、暗い水に、水よりも滑らかな液体に、忌まわしい羊水とは無縁の黒い花園に。


怨嗟と病癖が優美に慰撫する、こちらにあればもう怖れる者はない、死を告げる鳥が楽園に手引する。その先、僕の不在があまい陶酔と安堵に直結する。

吐き出した心象は目の前ですぐさま腐っていくのだ、この暴力性が蝕んだ内臓が、愛であるとでもいうように。


怖がりな鼠が、片目をもちさっていった。

生まれて来たくはなかった。まさか、そんなことってあるもんか、つまり、存在するなんてことが、まさかね。僕は幽霊さ。

なあそうだろ?


疾病と恐慌が充満する肺を、凶器がそっとなだめるように貫いて、別れを言う時間はやわらかでなごやかで。路上にあふれる血の生温かさと不衛生、さようならを告げる幸福に脳髄の中心が痺れるように思い。

狡猾と傲慢を抱えた原罪が、泥がなす人形を歩かせる。この脚はもう動かないのに、歩かせる。


不備を、不都合を、あらゆる負債を、抱えた残忍を、生命の悲惨を、生産せよと新月は言う。

こちらを見る目はあたたかく、すずやかで、なつかしく、親しげだ。

怨嗟と呪詛の快適な水槽で、失う呼吸には微塵の価値もないので、その溺水は天恵に違いなく。


悪癖と嗜癖の境をさまよい、倒錯にすらなれなかった失敗作がただ、無様に。

怨恨と病癖が渦巻きさそう。こちらにおいで、君の帰る場所へ。あああなたを待っていた、死よ、いとしい廃墟よ、待ち望んだ終末を、今こそ与えてくれるのだね?


「ようやく本来の在り方を得る」


路上で血液とともに時間が失われ感覚が変性する。七色の明滅に重ねた喜びは、虫の羽音にかき消された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いんそむにあ 韮崎旭 @nakaimaizumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ