第6話「ど・れ・で・し・の・う・か・な」
ガイドの説明を聞いたのち、シュウたち一家は、とりあえず園内をぐるりと一周して、パンフレットを見ながら実際のアトラクションの下見をした。
「まだ、あんまりアトラクションに乗ってる人、いないね」
「そりゃあ、みんなじっくり選んでるんでしょ。一つしか乗れないんだから、後悔のないようにしなくちゃね」
妹と母の会話を聞きながら、シュウは、植え込みから覗いている監視カメラがちょっと気になっていた。
ここだけではない。監視カメラは、園内のそこここに設置されているようだ。
シュウが気づいたものだけでも、その数は十台や二十台どころではなかった。
さすがに、これだけたくさんのカメラに見張られているのは、なんとも居心地が悪い。
いったん気になり始めると、どうにも落ち着かない。
――とはいえ、まあ、仕方ないか。
自殺志願者ばっかりが集まる施設なんて、何が起こるかわからないのだから。
ある程度厳重に警戒する必要はあるだろう。そう思って、シュウは納得した。
園内を流れる音楽に混じって、時折、遠くから、近くから、悲鳴が響く。
今の時点でアトラクションを利用している客は「あんまり」いないが、それでも、気の早いやつがいくらかはいるということだ。
悲鳴が上がるくらいだから、〈興奮度〉の高い絶叫系アトラクションに乗っているのだろう。
昔から絶叫マシンの好きな父は、誰かの叫びが聞こえるたびに「おっ」と反応を見せていた。
結局、ひと通りのアトラクションを素通りし、シュウたち一家は園内を一周して戻ってきた。
「おなかすいちゃったあ。ねえ、なんか食べようよ」
妹がそう言って、近くにあるフードコートを指差した。
ちょうど昼食時になっていたので、シュウたちはそこで食事をとることにした。
パンフレットによると、この遊園地では、飲食物は基本無料ということだった。
「あっ。ねえ、見てよあれ。あの自販機。ロシアンルーレット・ドリンク、だって!」
「へえ……あんなのあるんだな」
妹が見つけたその自販機の看板に、シュウも注目する。
『 ご一服、いかがですか?
【ロシアンルーレット・ドリンク】
安楽度:80% 遊楽度:60% 興奮度:- 幻想度:-
13ぶんの12の確率で致死毒が入ったドリンクが当たる!
1杯につきアトラクションチケット1枚でご提供
苦しまずに死ねます!(※ ドリンクを1分以内に飲み干した場合)
致死時間…3分以内(※ ドリンクを1分以内に飲み干した場合)』
ちょっと近づいて見てみると、選べるドリンクの種類は、オレンジジュース、コーヒー、カフェオレ、レモンティー、ミルクティー、抹茶オレ、と、まあベーシックなものだった。
ただ、暑い季節でもないわりに、ドリンクはすべてアイスでホットドリンクは存在しない。
これはおそらく、毒の効き方の問題があるからだろう。
ホットドリンクを一分以内に飲み干そうとすれば、相当焦ってしまうだろうから。
「なーに? あんたたち、乗り物とかじゃなくて、それにするの?」
「あ、いや……」
母に声を掛けられ、シュウは両親のいるテーブルに戻った。
ロシアンルーレット・ドリンク。
面白いとは思うけど、今ここでそれに決める気はない。
妹も同様らしく、自販機にチケットを入れることなくテーブルに戻ってきた。
「ねー、お兄ちゃん」
「何?」
「あれのことなのかな? ……ほら。ガイドさんが言ってた、もしチケットを使い切っちゃったら――って話」
「あー」
そういえば。
そうか。
こういう、ロシアンルーレット・ドリンクなんてものにもチケットを利用できるのなら、この遊園地で「手持ちのチケットをすべて使い切る」可能性も、ないではないわけだ。
ドリンク一杯につきチケット一枚だから、手持ちの四枚をすべて使い切るには、四回連続で〈ハズレ〉――毒の入っていないドリンク――を引く必要があるわけだが。
「確率としては、かなり低いよな」
「ハズレは十三分の一だもんねー。それを四回連続で引く確率って……いくらになるの?」
「やめろ。僕に数学の話を振るな」
シュウは耳を塞いで顔を伏せた。
それを見て、妹だけでなく、父と母もいっしょになって笑った。
結局シュウたちは、フランクフルトとかタコ焼きとか、コーラとか普通のコーヒーとか、当たり障りのないものを注文して食事を済ませた。
味は普通においしかった。
フードコートを去るときに、一つのテーブルの上で突っ伏している四人組を見かけた。
テーブルの上には、ドクロのマークが描かれたドリンクのカップが四つあった。
少し歩いたあとで振り返ると、死神の扮装をした従業員数人が、テーブルに鎌を立てかけ、動かない四人の客の体を順番に抱えてどこかへ移動させようとしていた。
たぶん、この遊園地に来て初めて目にする死体だった。
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