第4話「自殺志願者専用遊園地」
やがて、山あいを走る車は、トンネルに行き着いた。
長いトンネルだった。
それを抜けると、道の先は下り坂になっていて、坂の下には街が広がっていた。
車は街へは向かわずに、別れ道を曲がって山裾を走る。
そうしてしばらく行くと、ほどなくして、山の上にある大きな観覧車が見えてきた。
シュウたちは、おお、とか、わあ、とか思わず声を上げた。
「あれが、ぎんいろ三日月ランドの観覧車?」
シュウは、ほかの三人のうち誰にともなく尋ねたが、それは尋ねるまでもないことだった
なぜなら、観覧車の正面には、ここからでもよく見える銀色の三日月が飾られていたからだ。
「あの三日月、観覧車に取り付けてあるのかな?」
「うーん……動いてる? 観覧車といっしょに」
「いや……観覧車は動いてるけど、三日月は回ってない、みたい」
「だよね。三日月の尖ってるとこ、ずっと真上と真下にある」
「なあんか、バランス悪く見えないか? もうちょっと、こう、三日月の上に座れる角度にしたくなんない?」
「なる、なる! 三日月のイラストとかオブジェって、そういう角度が多いもんね」
妹とそんなことを話している間に、車は遊園地の入口に到着した。
駐車場に車を止めて、シュウたちは外に出た。
周りには、シュウたちと同じく家族連れや、友人や恋人と連れ立って来ているらしき人たちの姿もあったが、連れのいない人も多く見られた。
同乗者を降ろしたあと、車から降りずにそのまま駐車場を出て行く人もいて、それはきっと、ここまで見送りにだけ来た人なのだろう。
駐車場にバスは見当たらなかったが、この遊園地へはシャトルバスが出ているので、それに乗ってやってくる人たちもいるはずだ。
シャトルバスの乗り場は毎年、見送りの人たちでごった返す。
二年か三年か前にバス乗り場へ見送りに行ったとき、シュウは人混みに酔ってしまった。
駐車場にいた係員に、父が車のキーを渡す。
そうして、四人は入場ゲートへ向かった。
入場ゲートの看板にも、大きな銀色の三日月が描かれていた。
こっちの三日月は、後ろに傾いた揺り椅子のような、よく見る角度の三日月だ。
「ぎんいろ三日月ランド」って、こんな遊園地に似合わない可愛い名前だよな、と、今さらながらにシュウは思った。
立ち止まることもなく、シュウは入場ゲートまでたどり着いた。
ちらちらと周りをうかがってみたが、ほかの人たちも特に立ち止まってはいないようだった。
鞄からチケットを出そうとして、ちょっと足を止める人がいるくらいだ。
ゲートの係員に、シュウは自分のチケットを提示した。
ずしりと重い金属板のチケット。
それを受け取った係員は、専用の機械を使って、チケットから入場券の部分をバチンと切り離す。
入場券が傍らの箱に入れられると、先に入っていた入場券の上にシュウのぶんのそれが落ち、金属の欠片と欠片がぶつかる音が響いた。
入場券を切り離したチケットが、シュウの手に返される。
配布されたチケットは、入場券とアトラクションチケットのセットだったので、残りはアトラクションチケットだけになったわけだ。
これだけでもまだけっこう重いな、と心の中で呟いて、シュウはゲートをくぐり抜けた。
「やっぱり、ここにはチケット売り場ってないんだね」
「そりゃあそうだよ。この遊園地に客として入れるのは、国からチケットを配布された人間だけさ」
「ねえ、ねえ。アトラクション、なんにする?」
「そう慌てないで。いくつもは乗れないんだから、ゆっくり園内を回って選びながら、先に食事でも、ね」
シュウたち一家はそんなことを言い交わしつつ、園内の奥へと入っていく。
と、そこへ。
唐突に、マイクを通した声が響き渡った。
『はーい! ガイドが必要な方は、こちらにお集まりくださいねー。これより、当遊園地【ぎんいろ三日月ランド】のアトラクションについてご説明させていただきまーす』
声のほうを振り向くと、そこには〈死神〉がいた。
真っ黒なローブに、大きな鎌。
噂には聞いていたが、ぎんいろ三日月ランドの園内で働く従業員は、本当に死神の扮装をしているのだ。
行こうか、と、シュウたちはそちらへ向かって歩き出した。
入場ゲートの近くにいたほかの客たちも、死神姿のガイドのもとへ、みんなぞろぞろと集まっていく。
ある程度人が集まったところで、ガイドは「はい、それでは」と話を始めた。
『えー、皆さんご存じのとおり、この【ぎんいろ三日月ランド】は、自殺支援制度の実施に伴って全国十三ヶ所に創設された、自殺志願者専用の遊園地です!
園内には、楽しく自殺するためのアトラクションが豊富に取り揃えてありますので、どうぞみなさん、どれでもお好きなアトラクションをお選びください!』
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