追悼

 翌日、訃報が立て続けに署に届いた。

 若山を含め斎藤警部の殺害事件の捜査に参加した者の大半が、場所問わず急死を遂げていた。そしてどの現場にも共通する点が存在した。

 遺体の半径一メートル圏内に持ち主不明のブラウン管テレビが放置されている。それが共通点だ。

 警察では同一犯及び集団である、と数々の現場の状況から断定した。

 警察官のみが殺害された怪事件に、同僚を悼み署をあげて捜査に乗り出した。

 現場検証から所々方々への聞き込み、緊急の通報以外総出で事件の解明に注力した。

 一方、ブラウン管テレビの事件などニュースの報道だけで対岸の火事ぐらいにしか考えていない加藤警部のもとにも訃報が入ってきた。

 訃報を聞いて身も凍る思いがした。

「それは何かの冗談か?」

 加藤は現場に出向いた部下に、報告を否定したく訊き返した。

 現場の部下は心痛に堪えながら、冗談ではありませんと言った。

「俺も現場に行こう」

 部下に電話越しでそう告げ、加藤は苦虫を噛み潰した顔になった。

 殺人の起こった現場である人通りの少ない住宅街の道路に加藤が到着すると、報告してきた部下が見つけ走り寄ってきた。

「警部、やっぱり来ましたか」

 落ち込んだ面持ちの部下に、加藤は泰然と現場に踏み入った。

 ショートカットの小柄な女性三柴が電柱の傍で仰向けに倒れていた。血のついた電柱と額からの多量の出血。周囲に誰かと争った形跡もない。

 加藤は同僚の遺体を見つめながら部下に尋ねる。

「三柴は自ら電柱に頭をぶつけたのか?」

「残念ながら状況からして、そうとしか考えられません」

 遺体の頭部から右の位置に傲然と鎮座するブラウン管テレビを見据える。

「そういや東京で似た事件があったよな」

「犯人が被害者の傍にブラウン管テレビを置いていく、殺人事件ですよね」

「河合庇の事件にもブラウン管テレビが置いてあったらしいな」

「はい。それで三柴さんは河合庇の事件で遺留品となっていたブラウン管テレビを解体して内部まで調べてたらしいですよ」

「触らぬ神に祟りなしだ。呪われたブラウン管テレビの扱いは慎重にしてくれ」

「呪われたブラウン管テレビですか。どうしてまたそんな珍妙な呼び方するんですか」

「ブラウン管テレビが遺体の近くに置かれた事件に、深く関わった人物が次の被害者になる。これを呪いと言わずに、どう呼べばいい」

 加藤の顔からは血色が抜け落ちていた。

「どう呼べばいいって、それは、一つに事件として処理するしか」

 部下は返事に困り、しどろもどろで言った。

「次の被害者になりたくはない」

 そう重々しく言って加藤は現場を去った。

 

 ブラウン管テレビの怪事件に怖ろしい規則性を見取った加藤警部。彼の推測は全くの見当はずれなのか、どうであろう?

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