仇敵は現場にあり

 衝撃的な室内の様相につい逃げ出してしまったが、若山もキャリアが短いとは言え一端の警官。階段の最終段を下りたところで冷静さを取り戻し、敏速な行動力が発揮される。

「ひとまず報告した方がよさそうだ」

 携帯で署に繋ぐ。応対あると、すぐに告げた。

「若山だ。○○区○○町〇番地のマンションだ。すぐに人を派遣してくれ。斎藤さんが殺されている」

 応対側の電話口から驚愕した声が聞こえ、次第にどよめきに変わっていく。

「わかりました。今すぐ人が向かいます」

 応対者がそう返すと、若山は頼んだと言って通話を切った。

 数分後二台のパトカーがマンションの駐車場に現れ、若年も壮年も混じった警官達四人が駆け付けた。

 近隣にうるさいほどの足音で階段を上がってきて、中年警官が若山に錯乱も露に聞いた。

「若山。斎藤警部が殺されているとは本当か!」

「そこの部屋です」

 若山が指で示した半ば開いたドアに近づくと、中年警官は噎せ返るような腐臭に鼻を押さえて慌ててドアから離れた。

「もう臭ってるじゃないか」

「そうですけど。中に入れないほどではないですか?」

「ああ、臭うが我慢すれば中に入れる」

 大勢で入るには部屋が狭いので駆けつけたうち二人は外で待機し、若山含め三人が臭いに眉を顰めながら捜査用の手袋をつけ現場に足を踏み入れた。

 入るなり若山は斎藤の死体の横に屈み、弔いの意を込めて合掌して目を閉じた。

 中年警官が斎藤の下に敷いてある布団を見て、頭を捻った。

「布団の一部が焦げている。斎藤は焼き殺されたのか」

「人の身体を焼き殺すには、焦げてるだけとは規模が小さすぎませんか」

 若山が疑問点を述べた。もっともだ、と中年警官は納得する。

「それより懐かしい置物がありますよ」

 現場捜査に立ち入っている頬髯の警官が、死体の足裏の方向に彼らを傍観するかのようにふてぶてしく離れて鎮座している機器を、二人に示した。

 黒く分厚いボックス型の電気機器。

「ブラウン管テレビだったか」

「そうですね、何でこんなところにあるんでしょう」

「とりあえず遺留品として」

 頬髯の警官がテレビを持ち上げてみると、案に相違して腕に力が要った。

「想像以上に重いもんだ」

 丁重にテレビを元の位置に戻すと、頬髯の警官は手首を労わるように回した。

 外で待機している二人が部屋の中に声をかける。

「鑑識も向かってるそうです」

「そうか。後は鑑識に任せるか。どうもこの臭いには慣れん」

 中年警官は鑑識がもうすぐ来るとわかり内心安堵して、部屋から出た。

「若山はどうする?」

 頬髯の警官が友の死に沈痛な面持ちの若手刑事に、優しい声で訊いた。

「なにをしてでも犯人を捕まえてやる」

 若山は歯噛みしつつ、そう吐露した。


 犯人に対する義憤に燃える若山。果たして刑事若山は昵懇の友人斎藤を殺めた犯人を、突きとめ逮捕できるのか?

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