被害者は友人にあり
勝手な捜査のため署を出ている斎藤から捜査中の一報も入らないのは、彼が赴任してきてからついぞないことだった。
しびれを切らした警視は、斎藤警部と昵懇である刑事課の若山を呼びつけた。
上司に呼ばれ、若山は従順な犬のごとく即刻警視のもとに現れた。
「何でしょう、警視」
「斎藤はどこに行った」
「はあ、また捜査にでも……」
それはわかっとる、と警視は若山の言葉を遮った。
「連絡がないのが問題なんだ」
「斎藤さんから連絡がないんですか。連絡ができない状況にあるんでしょうか」
「推察はいい。斎藤の家に行って、あいつの居場所を確かめてこい」
若山は非常時用にと斎藤から部屋の合鍵を渡されている。
「いなかったら、どうします」
「お決まりの時刻表で、あいつの居場所を特定だ」
斎藤は独断の捜査の際、日本の地域ごとに分かれた鉄道の時刻表にしおりを挟んでおくのである。
「わかりました」
若山にとってこの命令は慣れっこなのだ。
タクシーで若山が斎藤の部屋があるマンションに着くと、勝手知ったる歩きで斎藤の部屋のドアの前まで来た。
彼は咄嗟に鼻を手で覆った。突如吐き気を催しかねない鼻腔を詰まらせる悪臭に襲われたのだ。人の住む場所から発せられる臭いではなかった。
「斎藤さん?」
若山は恐る恐るドア越しに声をかけた。返事はない、そしてこの悪臭。異常な事態だと驚きとともに悟った。
悪臭を極力吸わないよう鼻を覆ったまま、慎重に彼はドアを開ける。
「うわああああああああ」
酸鼻たる有様に肝を潰して鼻を覆うのも忘れ、彼はマンションの階段を駆け下りた。
彼が目にしたもの、それは何であろう床上の斎藤警部の焼死体である。
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