名探偵の臨終
おもむろに斎藤派を瞼を上げた。
顔を横にやって、時間を確認した。十二時間近だ。
眠気が強くなっているので布団を敷いて床に就こうと、酔いの醒めきらない身体を起こす。
缶を塵箱へ放り、ちゃぶ台を端に退けた。
点けたままのテレビを背後に彼が布団を敷き終えると時刻が十二時になった。直後テレビの画面が唐突に消えた。
ベニヤ板とを砂利を擦り合わせるような不気味な音。
斎藤は不気味な音のした液晶テレビの方を何気なく振り向く。
彼は知らぬ間にすり替えられた物体を見て、狐につままれた気分で目を細めた。
液晶テレビの置かれていた位置には、打って変わって彼の記憶に新しい遺留品と同じ型のブラウン管テレビが鎮座していた。
「何故、ブラウン管テレビがここに」
漏れた疑問に反応したかのように、ブラウン管テレビの画面に寸時のブレが生じる。画面のブレが無くなり、映像がはっきりとする。
映像はどこかの葬儀場での葬式の様子を映していた。列席している人々は後姿しか画面にはない。
女性の咽び泣きが姿は映さず流される。女性の咽び泣きに混じり、女の子の絞り出すような泣き声も聞こえる。
「縁起でもない」
斎藤は動揺から立ち直りテレビに近づくと、電源を落とそうと電源ボタンを押し込んだ。だが画面は消えず、葬式の様子を流し続ける。
彼はたじろぎ、テレビの後ろへ目をやった。彼の目が引ん剝く。主電源から電力を供給するはずのコードが目視できないのである。
驚倒する彼に関わりなく絶えず葬式の様子が流れている。
斎藤が恐れるも画面を見ると、火葬の段階に入っていた。
女性の咽び泣きがまたも聞こえる。次は声だけなく喪服姿も映された。さらに相貌は覗き込むような角度まで迫って、顎から徐々に映していく。
斎藤は強烈な衝撃に打たれる。咽び泣いている女性の相貌が明らかになり、自分の妻だと認識したからだ。
火葬の直前に止めどもなく啼泣する妻の隣で、娘も際限ない涙をしわがれた声で落としていた。
見るも信じられない映像に呆然と斎藤は目を離せない。
炉が映り、棺が運び込まれる。火葬が始まった。そこで映像が途切れた。
兆候なしにブラウン管が烈火のごとく発火した。床に燃え移り、彼の足下で炎が猛った。
「――なんだなんだ」
彼は我に返り、火の手を払おうと懸命に足を振り回す。
努力は遺憾にもズボンに着火する羽目になる。
「ああああ熱い」
ズボンの裾から炎は彼の身体を上昇していく。発火元の炎は衰えず、斎藤の焼却に加勢し続ける。
炎に巻かれ倒れた彼の身体は、意識を遠のかせていく。
彼の最期は唐突に訪れたのだった。
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