名探偵の推理

 交通機関を乗り継いで東京に戻ってきた斎藤は、自宅であるアパートの一室に直帰することにした。夜の十一時を越えていたことも彼をそうさせた。

 道中彼の頭の中では、判明しない河合庇の殺害方法とブラウン管テレビとの関連性に考えを巡らしていた。

 熟考したまま自宅のドアを開けた斎藤に、出迎えはない。

 一介の警部には不相応なほど質素なワンルーム。昨年の冬頃東京都内の署に赴任してきた彼は、月給の半分程を赴任以前の自宅に住む妻と娘の生活費用の仕送りに割いている。

 ちゃぶ台の下で胡坐をかき斎藤は、膝までしかない冷蔵庫の中を覗き込んだ。彼の両頬がニタリと吊り上がった。

 冷やされたプリン体オフとでかでか載っているビールを一缶、縦に並んだ手前から取り出した。続いて缶の列の横にあるジョッキも掴む。

 ちゃぶ台に手にした二つを置く。

 プルタブに指をかけて缶から気の抜けるような炭酸の音がすると、開け口からジョッキに少し透ける黄色の液体を注いだ。白い泡が急激に膨れていく。

 ジョッキの把手を掴み、首ごと逸らして口に流し込んだ。

「ぷはっ」

 彼の頬が自然と緩む。同時に停滞気味だった推理が加速した。

 河合庇が自殺すると、得をする人物がいるのか?

 河合庇の動静、その節目となればやはり行方不明前の数年前に遡る。

 まだまだ情報不足だ、そう斎藤は内心慨嘆した。

 河合の動静については明日調べるとして、彼は別の推理に移行する。

 混迷する脳内の推理に細やかな刺激を与えるため、部屋の隅の小ぶりな液晶テレビにちゃぶ台上のリモコンを手に持ち向けた。

 スポーツニュースが放送されている。プロ野球の試合結果を要所ごと経過を追いながら流されている。偶然だが青いユニフォームのチームの四番が豪快な引っ張りスイングでホームランを打った映像の瞬間、彼は推理の端緒となり得る物を見出した。

 驚いた気分で手元のリモコンに目を落とした。

「ブラウン管テレビの時からリモコンは使われていたはずだ。これがあれば距離が少し離れていたとしてもテレビを操作できる。リモコンとテレビ本体の呼応に何かしらの作為が施されていたなら、眠っている河合庇をテレビの前に移動させさえできれば、何らかの方法で殺害できる……」

 しかし彼の推理はそこで行き詰った。電気機器類など門外漢であるため、リモコンを使用した殺害方法がどういったものなのか思い浮かばなかった。

「ブラウン管テレビの解体結果を待つしかないか」

 推理だけでは答えに辿り着けないと諦め、無意識に嘆息がこぼれる。

 ビールを一気に呷り一口目より大きく息を吐くと、腕枕で身体を後ろに倒した。

 捜査のため遠出した疲労か、瞼が重く感じた。

 斎藤は僅かな時間だけ目を閉じることにした。


 ついに手掛かりになるやもしれぬ事実を発見した斎藤。遺留品のブラウン管テレビの解体結果を待つばかりである。結果によって斎藤は推理を発展させ、事件の真相へ近づけるのか?

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