第7話 終章
――こうして、武術トーナメントは、多少の遅延があったものの、その日のうちに無事終了した。
二、三年生の部の優勝者は、ほぼ下馬評通りの結果であったが、一年生の部はその真逆で、大波乱もいいところであった。
実力から見て、武術トーナメントの出場自体、大それた事業なのに、一回戦で惨敗するどころか、見事優勝してしまったのだから、無理もなかった。
それも、すべての試合、瞬殺で。
「……ウソでしょ……」
「――さァ、この場であの時の暴言を撤回しなさい。この賭け、アタシが勝ったんだから」
向かい側の席に座っている観静
「……なんで小野寺が優勝するのォ……。どう見たって一回戦負けは確実だったのに……」
だが、
「――いい加減、認めなさい。現実を。ジャーナリスト志望者がそんなザマでなれると思ってるの」
「……………………」
「――あまり誠意を感じられないけど、ま、いいわ。認めただけでも大したものなんだから。それじゃ、それに敬意を表して、パンケーキをおごってあげる。賭けに大勝ちしたおかげで、懐が温かいのを通り越して、火傷するほどの熱さで困ってるから」
「……それって賭けに負けたアタシに対する当てつけ」
「――まァ、そうなるわね」
「――撤回したとはいえ、
たしなめるように言うと、
ドヤ顔にあふれた、その表情が。
それも当然であろう。
結果的にも、経緯的にも、小野寺
優勝を果たした小野寺
理由はやはり、一年生の部が終えた後に述べた武野寺
この認識が、時が経つにつれて、陸上防衛高等学校の関係者を中心に浸透しつつあったのだ。
本来の実力に不釣り合い極まりないこの結果に、教師の間では危惧を、生徒の間では、それに加えて嫉妬と憎悪を、それぞれ胸中に抱き、このままではいけない、絶対に済ませないと、同時に思い始めていた。
要するに、小野寺
本人はこの結果に対して、学年首席卒業へ大きな一歩を踏み出せたと無邪気に喜んでいるが、それを心から祝福してくれている者は二桁にすら満たない。大半はまぐれだの運がよかっただのと、相手の実力を見極める能力や、それを認める度量にとぼしい人間がよくする決めつけで片付けられている。実際はまったくちがうのだが、ほとんどの人間が勘違いなまでに誤認しているのは、この不当な評価こそ、小野寺
(――今頃は一人で祝宴を上げているでしょうね――)
と、
エスパーダの
(――
それに出るやいなや、なじみのある関西弁の声が、聴覚機能を刺激した。
(――なによ、
(――ついに、ついに起こったんや。恐れていたことが――)
(――恐れていたこと? なにそれ?)
(……民事訴訟や――)
(……はァ?!)
(……『小野寺
(……………………)
(――あのアホがワイの注意を聞かずにまた他所の家事を請け負ったんや。で、あとはわかるやろ――)
(…………………………………………)
(――それでやな、いま『小野寺
そこまで聞いた
「――フォンシタノ《どうしたの》、フィンファン《リンちゃん》」
隣に座っている
「――なんでもないですわ。さァ、食べましょう、
(……専業主夫になるために必死こいて知恵と力を絞り、運と詐欺まがいの戦法で悲願の優勝を果たし――たがゆえに、他の生徒からこれ以上ないほどの嫉妬と憎悪を、望み通りの不当な評価ごと買った結果がこれか……)
しかし、胸中は真空のように虚しく、スッカラカンであった。ここまでやっておきながら、やった当人も含め、だれ一人幸せになれないこの現実に、
――完――
才能と志望が不一致な小野寺勇吾のしょーもない苦難3 -専業主夫になりたい小野寺勇吾の最初の試練- 赤城 努 @akagitsutomu
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