第5話 致命的な弱点を発想の転換で補った小野寺勇吾の闘い方
「――さァ、一年生の部、一回戦第五試合が始まります。海音寺
ようやく気を取りなおした
「――優勝候補の双璧の一角と謳われるだけあって、この盛り上がりようは、もう一人の優勝候補が出場した第一試合に匹敵するものがあります。第四試合があまりにも盛り上がりに欠ける試合展開であっただけに、それが際立ちます。果たして、経歴や格式では同格の名門同士の対決はどちらに軍配が上がるか、これも必見です」
「――けっ、こっちの具体的な紹介はなしかよ」
佐味寺
「――それもこれも、
「――安心しろ。お前も不甲斐なく敗北するから」
それを聞き取った海音寺
「――なんだとっ?!」
目をむく
「――オトコがエラそうにふんぞり返る時代はもう終わりなんだよ。一周目時代や第二次幕末前の二周目時代までの歴史ではオトコが圧倒的にその名を残していたが、これからはちがう。オンナがオトコをひれ伏す女尊男卑の弱肉強食の時代が始まるんだ。このオレが先陣を切ることでな。それをこの武術トーナメントで証明してやるぜ」
自信満々とはまさのこのことである。
「~~上等だ。てめェには浜崎寺のイジメを妨害した時の借りがあるからな。無手ではこっちの方の分が悪かったが、この得物なら分が悪いのはそっちの方だぜ」
佐味寺
それに対して、
憎悪を込めるかのように、丹念に。
「――両者、おざなりながらも一礼すると、お互い異なる得物で構えます。佐味寺
「――なめてますね。相手を」
苦々しく解説したのは多田寺先生である。
「――剣術における上段の構えは、唐竹で攻撃する分には、振り上げる
「――にも関わらず、海音寺選手はその構えを取った。彼女には自信があるのですよ。その構えでも槍相手に勝てる自信が」
武野寺先生が自信を込めて断言する。
「~~ナメやがってェ~ッ」
それを悟った
(~~開始と同時にその隙だらけの胴体を貫いてやるぜ~~)
殺人的な眼光でにらみながら、内心で決意する。
――そして、
「――始めっ!」
審判が開始の合図を発する。
と同時に、
無防備の相手に。
出現した青白色の穂先が閃光となって
――よりも先に
その青白色の刀身は相手の
通常の長さではない、物干し竿のような長い刀身であった。
「……………………」
気を失っているのは明らかであった。
「――ふん。口ほどにもねェぜ」
「――それまで。勝者、海音寺
審判が勝者に手を声を上げた瞬間、試合会場に大歓声が沸き起こった。
「――なんという豪快な一撃でしょうかっ!
実況の
「――格段の実力差があればこその勝ち方です。これは――」
ゲストの武野寺先生も、興奮を隠しきれない声調で解説するが、あまり具体的ではない。具体的に解説したのは多田寺先生である。
「――あそこまで
「――誇示するためさ。オレの力を、ここにいる会場のヤツらに」
と、海音寺
「――これまではオトコの
最後のセリフは、控室の出入口の隣にたたずんでいる平崎院
両者とも終始視線を合わせぬまま。
「――錬氣功に氣功術のすべてを全振りしたというわけですか。わたくしとちがって――」
「――フム、ニャかニャかやるニャ」
傲然とした足取りで控室を歩く海音寺
「――なに上から目線で感心してるのよ。二回戦はあのオンナと闘わなければならないのよ。わかってるの、その現実」
隣にいる鈴村
「――いやイヤ、その前に一回戦突破さえできるかどうかも怪しいやろが」
さらにその隣にいる龍堂寺
「――猫式武闘術かなんだか知らんやけど、そんなイロモノ武術、実戦で使えるわけあらへんやろが。ダメ元でネコパンチを教わった時点で中断して正解やったで。でないと、氣功術の会得すらままならへんかったわ」
それを聞いた
「――ニャにおォーっ! 猫式武闘術をバカにするニャ。ニャらば証明して見せるニャ。ネコパンチで相手を倒すことを」
そして、二人の前で勝利宣言をする。
「――がんばってください。猫田さん」
その横で、小野寺
「――さァ、一回戦第六試合、猫田
「――優勝候補の双璧には及ばないものの、鳴り物入りで武術トーナメントに参加した佐味寺三兄弟のうち、三男が浜崎寺
「――はっきり言って、名門が聞いてあきれますね」
解説の晶が平然とこき下ろす。この三兄弟が、勇吾をイジメている例の女子三人組と同様、浜崎寺
「――うるせェ、余計なお世話だ」
佐味寺
「――構え」
審判の指示にしたがい、
それに対して、
「――空手でいうところの猫足立ちに似た構えですね」
「――ちょっと待って。そういえば、猫田さんの武器はっ!?」
「――ちゃんと装備していますよ。両手の甲に、『
「――えっ!? そうなの?
「――
「――せやけど、リーチの長さじゃ、
「――始めっ!」
審判が試合開始の号令をかけると、両者は同時にそれぞれの得物の端末から打撃部分となる青白色のそれを出現させる。
「――さァ、来るニャ」
猫田
落ち着きがないとも言える。
どの
両手の甲から三本の光爪が伸びているので、どれもおおげさに映る。
「~~ふざけやがってェ~ッ~~」
それを見て、
「――別にふざけてニャいニャ。大マジメニャ」
「~~その口調でしゃべっている時点でふざけてんだよっ!」
もっともな理由なので、選手と観客の何人かはもっともらしくうなずく。もっとも、それで収まる猫田
「――ニャによ、それっ! それじゃ、あたい自体がふざけた存在みたいじゃニャいかっ!」
「――だから最初っからそう言ってんだろうがっ!」
うんざり気味の怒号を放った
「――ちっ」
「――おォーとっ! 猫田選手。
「――だけど、凌ぐだけでは勝てないわ。このままでは捉まるのも時間の問題よ」
武野寺先生がしかめっ面で解説するものの、
「――だから窺っているのよ。相手との距離を自分の間合いまで縮める隙を、冷静に」
多田寺先生がつけ加えるようにそれを続ける。
「――くそっ! いい加減に――」
「――今ニャッ!」
それを見て、
大振りになる瞬間を待ってましたとばかりに。
――のだが、
「――甘いぜっ!」
――前に光の爪で防がれてしまう。
「――どっちがニャ」
「――喰らえ、猫式武道術――」
と叫びながら、
「……ネコパンチか。ここで……」
「――右上段前蹴りっ!」
右ひざから跳ね上がった右足の上足底で、
バク宙の要領で一回転して着地した
そして、ついに
トドメのネコパンチをもらって。
そして、動く気配はなかった。
「――それまで、勝者、猫田
審判がそのように判断すると、試合を終了させ、勝者の手を取って上げる。
その直後、観客席から歓声が上がる。優勝候補の双璧とは異なる歓声が。その中に拍手の音が混じっていた。
「――なんということでしょうかっ! 猫田
実況の
「――どうニャ、ちゃんとネコパンチで倒したニャ」
控室に戻った
「……い、いや、たしかにフィニッシュはネコパンチで倒れたけど、その前に色々な蹴りでHP《ヒットポイント》を一桁までけずったからやろが」
「――そうニャ。あの多彩な蹴り技も猫式武道術のひとつニャ」
「……ネコのイメージぶち壊しやで……」
「――でも、見事な闘いでした。もしかしたら、次の海音寺選手に勝てるかもしれません」
「――それじゃ、次はアタシの番ね」
「――見てなさい。大神十二巫女衆の筆頭巫女であるこのアタシが、
それも、握り拳をつくって。
「……また発症したで。鈴村の中二病が。いい加減、妄想と現実の区別をつけろやって。何とかならへんのか、
「……ゴメンなさい。ボクでも無理です。色々と努力しましたけど、結局、治りませんでした。初めて会った時からこうでしたので……」
「……つまり、手遅れやと……」
「……
「……人間、生まれる場所と親と育成環境は選べへんからのう……」
「――なに最初からアタシの負けが決まっているような前提と
「……勝手に幼馴染を殺すなや……」
「――とにかく、行ってくるわ。アイツを倒しに――」
「――どうか無事に帰ってきてください。無理に倒さなくてもいいですから」
「――なに言ってるのよ。絶対にアイツを倒してやるわ。だから、アタシの凱旋を待っていなさい」
――こうして、鈴村
――見事に負けた。
敗因も試合展開も保坂
唯一の違いは、千鳥足ではなく、タンカで控室に運ばれて来たところである。
「――
それを見て、
「……ううっ、どうしてアタシの霊術が効かないの……」
「……意識が朦朧としとる状態でもまだ中二病が収まらへんとは、筋金入りやな」
「――現実逃避とも言えるニャ」
「……でも、最後まで、あきらめずに、力を尽くして、闘った。それは、すごい、こと……」
「……結局、一矢すら報えなかった。
しかし、今しがたこぼした
「……
それを感じ取った
「――安心してください。僕、
その後、タイミングよく、一回戦第八試合の出場選手の入場を知らせるアナウンスが響いてきた。
「――それでは、行ってきます」
立ち上がった勇吾は、これも力強い足取りで控室を出て行った。
「……………………」
龍堂寺
「――いいのか? これで」
「――いいわけニャいニャ。雰囲気に呑まれて言えニャかっただけニャんだから」
「……でも、なんて、言ったら、いいの?」
だが、
そう。一回戦を突破した三人は知っていた。
小野寺
「――さァ、七試合まで続いた一回戦も、これで最後になります」
実況の
「――小野寺
「――一撃で終わります。
「――小野寺選手はなす術もなくそれで倒されます」
「――残念ですが、これまでの試合の中では一番つまらないものになるでしょう」
そして簡潔であった。
「……ど、どうしてですが?」
「――相手が少しでも接近しただけで萎縮して動けなくなるほどのビビリだからです」
「――これでは勝負になりません。それ以前の問題です」
「――言いたくはありませんが、いくら自由参加とはいえ、出場すべきではありませんでした。せめて保坂選手か鈴村選手レベルの心技体でないと、試合にならないでしょう」
にべもない返答とはまさにこのことであった。これも個人差はあれど。
「……だよねェ。普通に考えれば……」
実況と解説やゲストのやり取りを観客席の最前列から聞いていた観静
「……『だよねェ』って、
隣に座っている窪津院
「……大丈夫です。
「……………………」
それを聞いて、
「――うーん……」
その隣に座っている蓬莱院
「――さっきからうるさいわね。なに考え込んでるのよ」
「……この光景、どこかで見たような気がするのだ」
「――この光景? 両者がああやって対峙しているのが?」
「――うむ。そうだ。それも、一周目時代にあったガンアクションものの娯楽映画でた。
「……ちょっと、
「失敬なっ!? 忘れたのではない。思い出せないだけだ。その時の記憶を。エスパーダには脳内記憶の完全保存機能はあっても、脳内記憶検索強化機能までは実装されてないのだ。その機能は次世代機のエスパーダで近日試験的に実装される予定なのだ。そうであろう、観静女史」
「……え、ええ、まァ。ど忘れみたいに、覚えているのに思い出せないという
話を振られた
「――だから私の頭がおかしいわけでは、決してないぞ。誤解するなよ、元助手」
(……本当にそうかしら……)
「――わかったわ。それじゃ、引き続き脳内記憶の検索作業に専念して。思い出したら、わたしたちにも教えて」
という指示と要求にとどめた。
その頃、試合場では、三木寺
「――よくもまァ、格式のあるこの武術トーナメントに出場できたわね。実戦訓練ではあんな醜態をさらしたっていうのに。身のほど知らずも程があるわ」
「……それでも、僕は出場しなければならないのです。武術トーナメントで優勝するためにも、絶対に」
「……優勝? なにそれ、超ウける。マジで身のほどを知れよ、いい加減。アンタがアタシに勝てるわけねェだろ。イジメられっ子の分際で、
「……
「――そうかい。だったら思い知らせてやるわ。これ以上ないくらいの恥をこの場でかかせてやることでね」
「――一瞬でこの試合を終わらせてあげるわっ! アタシの勝利でっ! 相手が無様に瞬殺されるところを、よく目を凝らして見てなさいっ!」
大声で会場中に宣言する。それを聞いた観客たちは、大いに盛り上がる。小野寺
「――へェ。やってくれるじゃねェか。闘う前から勝利宣言なんて」
控室で観戦している海音寺
「――自分の実力を最高のパフォーマンスで
隣にいる平崎院
「――おォーと。なんということでしょうか。三木寺選手、小野寺選手に対して瞬殺の勝利宣言をしました。はっきり言って、前代未聞です」
実況の
「――そりゃそうでしょう。さっき試合場へ向かう途中、三木寺選手が襲い掛かるように近づいて見せたら、びっくりして尻餅をつく有様を見せたのですから。勝利を確信して当然でしょう。やはり、一朝一夕で克服できるものではありません。ビビリは」
解説の武野寺先生が解説する。
「――試合前の行為としては明らかにマナー違反で感心しませんけどね」
多田寺先生が眉間にしわを寄せてつけ加える。
「――両者、礼――」
審判にうながされて、
「――構え――」
それだけはしたがう。
それに対して、
「――変わった構えですねェ。これはいったいなにを意味するのでしょうか」
「――どんな構えを取ろうと関係ありません。試合が開始されたら、なにもできずに終わります。さっきも言ったように、相手が少しでも近づいてきただけでビビッて動けなくなるのですから」
「――重ねて言いますが、これでは勝負になりません」
「――やはり出場するべきではありませんでした。何度も言いますが」
解説もゲストの二人も同じ論調でそろって一蹴する。
「――大衆の前で見るも無残な大恥をかくことね。身のほどしらずにこの大会に参加した罰よ。でも安心しなさい。これからもアタシたちがそれをネタにたっぷりとかわいがってあげるから」
三木寺
「……………………」
それに対して、小野寺
まるではやく始めてくれと言わんばかりに。
「……ダメだわ。ヘビに睨まれたカエルよ、これは……」
「……
「――あっ、思い出した」
その時、
「――ガンアクションものの娯楽映画であったこの光景を――」
「――ええっ?! こんな時に思い出したのォ!? なによ、それって――」
どっちに集中していいのかわからず、
そうこうしているうちに、
「――始めっ!」
審判が試合開始の号令を発した。
「……………………」
だが、両者は動く気配がまったくなかった。特に、三木寺
「……あ、あれ? 動きませんね。両者とも。いったい、何が……」
しばらく経ってから
前のめりに倒れる形で、ドサリと。
倒れたのは三木寺
それを見届けた小野寺
「――倒れましたよ」
「……そ、それまで。勝者、小野寺
困惑気味に試合終了と勝者の名を挙げた。
「……へ? 試合終了? 勝者、小野寺選手?」
オウム返しに述べる
「……ど、どういうこと? これ? どっちもなにもしてないのに、三木寺選手だけ勝手に倒れて、それで小野寺選手の勝利って……」
「……勝手に倒れたんじゃないわ。
いつの間にか席を立っていた解説の
「……倒されたんだ。小野寺選手の斬撃で……」
ゲストの武野寺先生も
「――斬撃って、そんなの、全然してなかったけど……」
しかし、
「……無理もないわ。普通の人間の動体視力じゃ、そうにしか見えないのも……」
そう言ったゲストの多田寺先生にいたっては冷や汗までかいていた。
「……今からそれを映した私の見聞
「……それでも、鮮明にはほど遠いけどね。けど、試合会場を映している人間カメラの動体視力よりかはマシなはずよ……」
武野寺先生がまたつけ加えるが、その表情は親友や解説者と同様、戦慄にこわばっていた。腕には鳥肌まで立っている。
「……アンタもそれにリンクしなさい。肝心の実況がこれじゃ、仕事にならないからね」
「……そ、それでは、さきほどの三木寺選手が倒れた場面の
多田寺先生の見聞
「――えっと、これは、審判が試合開始の合図をかける直前の視覚映像ですね。両者、それぞの得物で構えています。そして、始めと言――った瞬間、小野寺選手の右手から青白色の光が閃いた――ように見えます。そしてそれは、三木寺選手をすり抜け――たと思ったら、あっという間に消えてしまいました。その間、両者は微動だにしていないように見えますが、これはいったい……」
「……
解説の
「……小野寺選手が開始線の相手にまで刀身を伸長させて繰り出した、横薙ぎの斬撃だわ……」
武野寺先生が詳細を簡潔に説明する。
「……それも、目にも止まらぬ――いえ、目にすら映らぬ、超高速のね」
それに多田寺先生が補足する。それが一番言いたいことだと言わんばかりに。
「……えっ、斬撃? あれが? 小野寺選手は、横薙ぎの途中みたいなあの構えから、まったく全身を動かしていないように見えましたが。
「……そりゃそうよ、
解説の
「……小野寺はその態勢から手首のスナップを利かせて横薙ぎの斬撃を放ったのよ。裏拳を打つ要領で」
「……その時、
武野寺先生が補足すると、多々寺先生もそれに続く。
「……その斬撃の可動箇所が右手首だけの上に超高速だったから、なみの動体視力では、なにもしていないように映ったのよ。実際はまったく違うけどね」
「……要するに、超スゴいってわけですか。小野寺選手は……」
『……………………』
三人の解説とゲストは沈黙しているが、肯定の沈黙なのは、明らかだった。それを悟った
「……な、なんということでしょうかっ! 瞬殺で敗退すると、誰もが思っていた小野寺選手が、逆に瞬殺宣言した相手を瞬殺して勝利してしまいましたっ! これぞ、瞬殺だと言わんばかりに。これはまるで――」
「――西部劇という開拓時代のアメリカ合衆国を舞台にした早撃ち対決と同じ光景だっ!」
「……なるほどね。それで
「――どういうこと、
「――
『……………………』
「……なんて
「……早撃ちならぬ、早斬りだな、これは……」
それぞれ絞りだすように感想を述べたのは、だいぶ後であった。その間、会場はこれ以上ないくらいに湧き上がっていた。
「……だから
――凛が得心と感心をないまぜた口調で独語した頃、控室に戻った
「――ごっつずごいやないか、小野寺っ! 惨敗すると思うてたら、あんな快勝をするやなんて」
「――イジメられっ子が、イジメっ子を、返り討ちにする。これほど、気持ちのいいことは、ない」
「――はっきり言って、全然見えニャかったニャッ!」
驚愕と絶賛をもって。
「……あ、ありがとうございます」
「――正直、
「――小野寺の努力の賜物ニャ」
「――いえ、それだけではありません、猫田さん。あの早斬りができたのは、この
「――
「――そういや、おまいの実家は総合武術道場やったな」
「――そして、西部劇の決闘をヒントに、
「……な、なるほど……」
「――ま、なんにせよ、勝ってよかったで。あのザマやから一回戦で惨敗するんやないと思うておったんやから」
「――心配してくれてありがとうございます、
「――この調子でがんばるんニャ」
「……そして、わたしたちと、闘いましょう……」
一回戦を突破した四人の少年少女は、笑顔で喜びを分かち合う。
『……………………』
しかし、それを遠巻きに眺めている四人の少女は、彼らと同じく一回戦を突破したにも関わらず、笑顔や喜びからほど遠い表情と目つきであった。
「――さァ、長かった一回戦もすべて終わり、二回戦が始まります。その第一試合、平崎院
「やかましいわ。要らん情報を公開すんなや、実況」
試合場の開始線の前に立っている
「――龍堂寺さん。事実を公開されたからって怒るのは大人気ないですわよ」
しかし、反対側の開始線の前にたたずむ
「――気にすんな。単なるツッコミやから。そうせずにはいられへん
「――あら、そうなの。それは知らなかったわ。浪速の方って短気で怒りっぽいイメージが強いから」
「そら江戸っ子の方や。いっしょにすんな」
「――そないなことより、おまいには巨大な借りがあるんや。今日こそ利子と
「――借りが膨らむだけだと思いますけど」
と、
「――両者、互いに、礼。――構え――」
審判の指示に、
「――解説の
「――龍堂寺選手が圧倒的に不利ですね」
「――相手の鞭をかいくぐって接近戦に持ち込めても、平崎院選手には硬氣功があります。これがあるかぎり、決定的なダメージを与えることはできません」
「――となると、唯一の活路は封氣功しかありません。浜崎寺選手のような消耗戦が挑めるほど、
多田寺先生がそれを引き継いだ後、武野寺先生が総括する。
「――いずれにしても、龍堂寺選手には接近戦しか勝機がありません。海音寺選手や小野寺選手のように刀身を伸長することができるとしても、やはり一度は相手の懐に飛び込ばなければなりません。平崎院選手は徹底して
そして、結果もね、と内心でつけ加える。口に出さなかったのは、一回戦第八試合のような大番狂わせが起きる可能性も、わずかながら否定できないからである。あれだけ断言しておきながら、結果はあのありさまだったのに、ここで勝者予想を口に出してまたはずしたら、恥の上塗りもいいところなので、自制したのだ。
「――始めっ!」
審判の試合開始の号令がかかると同時に、
それに対して、平崎院
「――双方とも一歩も引きません。武野寺先生の予想どおりに試合が展開しています。果たして、この後はどうなるのでしょうか」
「――どうやら龍堂寺選手の氣功術の技量は向井寺選手とほぼ同じレベルのようですね」
ゲストの多田寺先生が感想を述べると、
「――つまり、平崎院選手よりも劣っているという事を意味しています。氣功術に関して言えば」
同じゲストの武野寺先生が補足する。
「――このまま推移すれば、龍堂寺選手も向井寺選手と同じ末路をたどるでしょう」
「――ですが、龍堂寺選手には封氣功があります。これで相手の氣功術を封じることに成功すれば、形勢は一気に逆転します」
「――ええ、多田寺先生の言う通りです。だから平崎院選手は相手に接近させる隙を与えない
「――少しは腕を上げたのですね。それも錬氣功だけではなく、封氣功まで会得するなんて」
このセリフは、平崎院
「――当たり前や。九日前のワイと同じやと思うたら大間違いやで。『男子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉どおりに成長したんやからな」
それに対して、
「――たしかに、少し侮っていたようですわね、あなたを」
「――その通りや。せやけど、少し程度やないでェッ!」
「――なっ?!」
これにはさすがの
「――もろたっ!」
だが、
「――なっ?!」
今度は
唐竹の斬撃がはね返されたのである。
それは想定内の事態であったが、同時に想定外の事態も起きたのだ。
それも二つも。
ひとつは相手の左手首を狙って伸ばした右手もはね返されたこと。
もうひとつは右手もろともはね返された唐竹の斬撃が硬氣功によってではなかったことである。
「――
控室から試合を観戦している
「――
片腕での一本背負い投げである。
「ぐはぁっ!」
床に叩きつけられた
「……へへ、今のはさすがに硬氣功で防御力を上げることはでけへんかったな」
(――勝てるで、この勝負。なんせ勝機が見えたんやからな。封氣功を使わなくても――)
「――さァ、来いやァッ!」
それに対して、
「……たわね」
「――なんか
「……よくもわたくしの身体を傷つけましたわね。それも、下賤な士族の
その声には怒気がこもっていた。底冷えするほどの。声が静かで声優的なだけに、いっそうきわだっていた。
「……オトコのクセに、よくも……」
そして、絶対零度をはるかに下回る眼差しで
「――死ね」
と言って青白色の鞭を迅速に振り放つ。
空気を裂く音がソニックブームとなってともに襲い掛かる。
(――ついに本気になったか――)
「――せやけど、いつもの鞭撃と変わらへんで」
それに続いて言い放つと、
だが、
「――なっ?!」
あまりにも強烈な鞭撃に、今度は
「――威力が上がったやとっ?!」
なんとか踏みとどまった
「――まだ膂力を上乗せできるんかいっ!? アイツの錬氣功はっ!」
苦しまぎれに下した
「……ちがう。平崎院は、錬氣功で、自身の膂力を、今よりも、上げてない……」
控室で観戦している浜崎寺
「――
猫田
「――なのに、今では
その隣にいる小野寺
「……考えられるのは、ひとつだけ。龍堂寺さんは、錬氣功を、氣功術を、使えなくされた。平崎院の、封氣功で……」
「……あの時、平崎院さんが
「――平崎院の膂力が上がったんじゃニャい。
そう言った
「――楽に終わろうなんて思わないで欲しいわね。わたくしの留飲はこの程度では下がらなくてよ」
「――いやっ! 見てられないっ! もうやめてっ! 死んじゃうわっ!」
「……これはもう試合じゃないわ。ただの残酷ショーよ……」
「――審判っ! なにをしているっ! 早く試合を止めろっ! 戦闘続行が不可能なのは素人が見ても明らかだろうがっ!」
「――
勇吾は必至に親友の身体を揺さぶり、喪失している意識の回復に務める。
「――らしくねェな。お前がムキになるなんてよォ。そんなムカついたのか。剣撃を受けてしまった
それに背を向けて試合場から降りた
「――ま、気持ちはわかるけどな」
しかし、
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