第3話 武術トーナメント優勝への道と突破口
――こうして、六人の少年少女は、猫田
……はず、なのだが、
「……本当にここなの?」
言いだしっぺである本人に、
眉間にしわをよせて。
「――うん、ここニャ」
それに答えた
「――今日は特別にアタイたちの貸し切りにしたニャ。ここはアタイがひいきにしてるとこニャから、オーナーにも顔が利くんニャ」
「……イヤ、そないなことを聞いてるんやないんやけど……」
「――なにが不満なのニャ。練習器具やリングだってこの通りそろっているのに。人だっていニャいし」
「……でも、代わりのが、いるわ。それも、大勢……」
「――いったいどれニャ?」
いまだに気づく様子のない
「~~まだわからないのっ! アタシたちが言いたい事っ!」
「……ニャにが言いたいのニャ? はっきり言うニャ」
「――じゃ、言わせてもらうわっ!」
「――なんで
「――どのネコもかわいいですねェ」
「……空気と話の流れを読めや、
「――ニャにを言うか。邪魔あつかいするなんて失礼ニャ。これでも猫式武闘術の師匠と弟子たちニャンだから」
「へェー、すごいですねェ」
「オイ信じるなや……」
こちらはこちらで
「――とにかく、こんなにもいたら練習もできないわ。なんとかしてちょうだい」
「イヤニャ!」
「このコたちはただのネコじゃないニャ。アタイの家族ニャ。
それもかたくななほどに。
「――猫田さんってホントにネコ好きなんですね」
また述べた
「そうなんニャー。アタイほどネコ好きな人間はそうそういないニャ。髪型や口調までネコっぽくする人間なんて」
「……わたしは、きらい。猫アレルギー、だから……」
「――さァ、来るニャ。愛しきの家族たちよ。アタイのところへ」
両腕を広げて手招きする
天使のような表情でネコたちを迎える猫田
一瞬、
別に幻視のマインドウイルスを注入されたわけでもないのに。
そして、
牙や爪を、
「いたい痛いイタイいたい痛いイタイっ!」
天国のお花畑の草原に見えた光景は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図に激変した。
「……ネコは好きでも、ネコには嫌われてるのね。あなた……」
「――そっ、そんなことニャいニャ。こっ、これはテレ隠しの愛情表現ニャ。ツンデレなんニャ。ほっ、本当は好き好きニャンだ」
「……ずいぶんと血のにじむような愛情表現ね……」
「――ネコに好かれとるっちゅうのは、ああいう状態をさすんやないか」
むろん、牙や爪を立てずに。
そのネコたちは、かわいいとしか形容のしようがない鳴き声を上げながらすり寄り、全身を使ってこすりつける。
その人になついている、なによりの証拠である。
猫田
「……いいなァ。そんなになつかれて。僕には一匹もなついてこないのに……」
なぜなら、ネコがなついたのは、猫アレルギーの持ち主の上にネコが嫌いな人種の人間だからである。
すなわち、浜崎寺
「……や、やめて。近寄ら、ない、で……」
「――それにしても皮肉やな。ネコ好きなヤツがそのネコに嫌われとる一方で、ネコ嫌いなヤツがそのネコに好かれるやなんて」
「――ホントよね。これが逆なら良かったのに」
(――まるで小野寺
「――要するに、氣功術の基本は呼吸法にあるのね」
「――ええ。氣功術は呼吸によって体内の『氣』という生命エネルギーを活性化させて練ることで、様々な種類の氣功術を使うことができるの。だから効果の高い氣功術を身につけるには、肺活量と、全身にめぐらせてある『氣脈』という『氣』の伝達効率を高める必要があるのよ」
「――なるほど。精神を鍛えれば向上する超能力とは全然ちがうんやな」
「――そう。そして、エネルギー源もね」
「――でも
次に小野寺勇吾が質問する。
「――残念だけと、本人の資質次第以外には、効果がいまいちな瞑想しかないわね。それ以外は松岡流氣功術に属する方法だから、それで高めるのは法律で禁止されているわ」
「――つまり、それも命を落としかねん方法やったっちゅうわけやな。どんだけ危険なんや。松岡流氣功術は」
「……それだけ、会得、したかったんだと、思う。当時の、女性、たちは……」
「――それで、まずはニャにから始めればいいのニャ」
全身傷だらけの
「――リミッターの呼吸法の会得ね」
「――リミッター?」
「――さっきも言ったように、旧来の氣功術の会得や使用は命を落としかねない危険な代物よ。だから、だれにでも安全に会得や使用ができるようにするには、ここまで『氣』を使ったらこれ以上は危険だから強制的に使えないようにする、一種の
「――一周目時代にもあった柔道の受け身みたいなものですね。まず最初に教えるのはそれですし、それが下手だとケガをしてしまいますから」
「――さすが
「――よし、それじゃ、さっそく始めるニャ」
ボクシングリングの上に座っていた
「――まずは
それに遅れて、あらためて言った
「――あ、待って、
そこへ、コーナーポストに背を預けていた
「――あなたはいいわ。氣功術の会得は」
「――どうしてですか?」
「……どうしてって、アンタ、相手が一歩踏み込んできただけでビビッて動けなくなるほどの
「えっ?!
それを聞いた
「……だいじょうぶなの。
「――それを言ったら
「――せやけどホンマにそれで度胸がつくんか、残り九日で。おまいならともかく、海音寺が相手やと、迫力の差があり過ぎて、
「――しかたないでしょ。他に方法がないんだから」
『
それで作った
これを身代わりに武術トーナメントで闘うのなら問題はないのだ。
よく考えたら当然である。
とはいっても、
(――けど、それはそれでマズいのよねェー――)
一見、それなら問題なさそうに思えるが、小野寺
なぜなら、『ヤマトタケル』の正体が自分だと看破される可能性が高くなるからである。
それも飛躍的に。
戦闘向きの能力ではないとはいえ、
なのに……
(……その戦闘スタイルの確立はおろか、相手が一歩踏み込んで来る、その迫力だけで闘えなくなる
「――あら、こんなところで特訓していたのですか、みなさん」
上品だが優越感に満ちた口調の声が、
一同は声のした
「――あなたは――」
華族でありながら陸上防衛高等学校に首席入学を果たした歩兵科一年の
「――なにしに来たのよ。ここは高貴な淑女が来るところじゃないわ。こっちは武術トーナメントに向けていそがしいんだから」
「――ずいぶんと失礼な言い草ね、平崎院さまに対して」
「――ショッピングモールで色々と買い物していたら、たまたまこの
「――光栄に思いなさい。平崎院さまがこんな薄汚い
嫌悪に満ちた声が、平崎院
松下
それぞれ、ウェービーロング、ポニーテール、ボブカットの髪型をしている。
もはやおなじみの小野寺
ウェービーロングの少女は一ノ
ポニーテールの少女は
ボブカットの少女は
――という名前である。
三人は平崎院
まるで彼女を守るかのように。
従者か取り巻きみたいな忠実ぶりである。
(――なるほど、そういうことだったのね――)
その光景を見て、
「――三人とも。そんな態度で接するものではないですわ。彼らは武術トーナメントを勝ち上がるにはどうすればいいのか必死なのですから。ここは彼らに対して敬意を払いましょう」
平崎院
「……ずいぶんとシャクにさわる言い方やなァ、オイ」
それを感じ取ったのか、
「――せやなら相手になってくれへんか。敬意を払ってくれるんなら。武術トーナメントの優勝候補の実力とやらを知りたいさかい」
「なにを言うかっ! お前のような下賤の者が平崎院さまと手合わせしたいとはっ!
ウェービーロングの少女――
「――いいでしょう。お相手します」
平崎院
「平崎院|さまっ!」
「――いいのです。
殊勝なことを言っているが、
「……平崎院|さま……」
「――だいじょうぶです。心配しないで。三人とも」
「――
「――わかっとるわ、
それ際に残した
闘いの舞台となったリングの上では、二人だけとなった平崎院
それぞれの右手に
同じ得物だが、使用する
つまり、剣対鞭の構図である。
「――どうなるのかしら、この闘い」
「――得物のリーチから見れば明らかに鞭が有利ですが、だからと言って必ずしも優位に立てるとは限りません。相手の得物によっては、むしろ不利になります」
それを受けて、
「――そもそも鞭自体、歴史的に見て、戦闘には向いてない武器なのです。相手の武器や使い手の練度次第では、使い手自身を傷つける危険があるほどに。だから調教や拷問にしか使われてないのです」
「――ニャるほどニャるほど」
しきりにうなずく
「――それに対して、剣は平時、戦時、ともに使われる、攻守のバランスの取れた汎用性の高い武器です。ゆえに、剣技の修得者や流派は多く、どんな武器にも対応できる性能があります」
「――つまり、
「――はい。
「――すごいニャ、小野寺っち。完璧な武器の解説や試合展開の予想ニャ。愛にゃんの言うとおり、総合武術道場の跡取り息子は伊達じゃニャいニャ」
「……全部、両親の受け売りですので。猫田さん……」
「――もう、謙遜しちゃって、
「……でも、本当に、そうなの、かな……」
そこへ、
「……両者が、使う、武器は、
「――なによォ。
それに対して、
「――間違っているかどうかはすぐにわかるわ。この闘いで」
「――さァ、いくでェッ!」
勝負の結果、
完敗というべき一方的な内容であった。
その詳細と経緯はこうである。
だが、それに目が慣れてくると、迫りくる鞭を払いのけ、しかもそれを相手に返した。
自分にはね返ってきた鞭は、だが、平崎院
当てが外れた
そして、
青白色の刀身の部分なら巻きつけられてもいったんそれを消せば済むが、柄の部分だとそうはいかなかった。
素手になってしまっては、もはや闘いにはならなかった。
一方的なサンドバックであった。
それを悟った
「……くっ、なんでや。なんでこうも簡単にもぎ取られてたんや。
「――力負けして当然よ」
あざ笑うかのように言ったのは
「――平崎院|さまは『錬氣功』を使ったのだから、いくら男子でも
「ニャんだってっ?!」
「そんなっ! 氣功術の会得解禁は今日からなのよっ! こっちは基本のリミッターの呼吸法すら会得してないのに、その日のうちに次の
「――これが天賦の才というものよ。あなたたちには無縁のね」
「――これで思い知ったかしら。平崎院|さまとアンタたちとの実力差を」
「――いくらアンタたちが努力しても、平崎院|さまには絶対にかなわないのよ」
「――なのに、武術トーナメントに出場するなんて、身のほど知らずもいいとろだわ」
「――それでも出場するというのなら、このアタシたちが武術トーナメントで叩きのめしてあげるわ。平崎院|さまの手をわずらわせるまでもないわ」
三人の女子は六人の同学年の男子と女子を見下した目つきで睨みながら言い募る。
「――特に小野寺、アンタわね」
「………………………」
勇吾は口を閉ざしたまま沈黙しているが、どこか上の空であった。その表情と糸目は、先ほどの闘いでなにかを見出したかのようなそれに、
「――そういえば、あの
「………………………」
「――せいぜい気をつけることね。もっとも、気をつけてもあの三兄弟にアンタが勝てるとは思えないけど。もし平崎院さまに当たったら棄権することをお勧めするわ。浜崎寺」
「………………………」
「――それじゃ、武術トーナメントに向けてムダにがんばりなさい」
そう言い残して、三人の女子はそろって松下
平崎院
リングを降りたその足で。
終始無言であった。
もはやここに用はないと言わんばかりのさりげない傲慢さである。
「――クソッ! 戦闘のギアプさえ使えれば……」
「――使えてもたいして変わらないわ。ギアプは技能が向上するだけで、
「……最大の脅威ニャ……」
「……でも、その平崎院|と互角に闘える海音寺も同じくらい脅威だわ……」
「――どんな闘いでした? その時、僕は保健室に連れて行かれていたので、観てないのですが」
それを聞いた
「――興味あるわね、それ」
「――もしかしたら参考になるかもしれへん。見聞
「……よく、考え、たら、
「――『彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず』っていう兵法の言葉もあるしニャ。知って損はしないニャ」
「……わ、わかったわ。見せてあげるから、そんなにせまらないで」
おさえるように両手を上げた
そして、愛をのぞいた一同は同時にそれを脳内で再生する。
『……………………』
松下
「……ダメや、これ……」
それを破ったのは
「……レベルが高すぎて参考にならへん……」
万策尽きたと言いたげであった。それだけ海音寺と平崎院の闘いぶりは、他の同学年のそれよりも群を抜いていたのだ。
「――海音寺さんの
しかし、
「――その気になれば、平崎院さんの鞭よりも伸ばせそう……」
そこまで言った後、
「――みなさん。僕、ちょっと行ってきます。確認したくなったことができたので」
そして、その場から走り出す。
「――どこへ行くの?」
「――
「――僕、気づいたんです。
「――えっ!? それってどういう……」
「――それはまだ言えません。ですが、僕の考えが正しければ、僕にも希望はあります。ですから、みなさんもがんばってください」
と、言い残してドアを閉めた。
「……どういうことやろ?」
「……わからないわ」
「……けど、たしかなことがひとつだけあるわ」
「……なに、それ?」
「――
「――!」
その言葉に、
「……せやな。アイツ、全然あきらめてへん
「……アタシ、初めて見たわ。
(……アタシにいたっては全開も見たことがあるけど……)
「……わたし、がんばる。たとえ、ムダな努力で、終わっても……」
「――そうニャ。みんニャを誘ったアタイがしょげてどうするニャ。責任をもって指導しニャいと」
そして、四人は次第に感化される。
あきらめずに行動する小野寺
「――よっしゃ! 武術トーナメントまであと九日。やれるところまでやったるわ。みんな、死に物狂いでがんばるでぇっ!」
『おォーっ!』
「――それじゃ、まずは当初の予定どおり、氣功術の基本、リミッターの呼吸法の会得ね。それには――」
(――希望って、どんな希望なのかしら――)
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