拾われる

「は?子供?」

「・・・」

『にゃー』

「な!?猫!?」


ナナシが鳴いた瞬間、呆けた顔から一気に驚愕の顔になった兵士さん。表情豊かですね。じゃなくて。この人は何にそんなに驚いたんだ?もしや猫ってこの世界だと絶滅危惧種なのか?もしや、所持してるだけで罰せられるとか・・・。


「おーい、何だった~?」

「猫だ!猫がいるぞ!?」

「何ぃ!?」

「何だと貴様ぁ!?」


なんだなんだなにごとだ。さっきまで向こうで作業をしていたらしい人たちが全力疾走でスライディングしてきた。ズザァ!!って音がした。


「き、きみ」

「・・・はい」

「そ、その猫を何処で・・・」

『そこら辺を歩いていたと言え』

「えっと、その辺に・・・」

「その辺!?猫が!?」


にゃんだにゃんだ本当にどうなされた御兄さん方。一旦落ち着かれよ。ていうか、お前普通に喋って良いの?・・・あ、私にだけ聞こえる仕様なのか。なるほど。


「3班!!何処にいった!!」

「やっべ司令官だ!」

「こ、此方です!!」


突然の大声に肩が跳ね上がる。ねぇ、本当にこの世界での猫の立ち位置なんなのさ。


「お前ら、荷車置いて何してる!」

「「申し訳ありません!」」


おぉ、見事な直角90度。声もぴったし。司令官、と呼ばれたお人は、ワイルド系のイケメンさん。軍服がお似合いですね。兵士さんたちよりも頭一つ分背が高い。ぶっちゃけ言います、怖い。


「で、何してたんだ」

「はっそれが・・・此方の少女を保護しようとしたところ、少女が猫を抱えておりまして・・・」

「猫?」


切れ長のつり目に見詰められ、またもや肩が跳ねる。漫画だったら効果音は多分「ぴぇっ」だ。近付いてきたので身構えれば、十分な距離を置いて司令官さんは跪いた。え、この時点で好感度急上昇。


「お前さん、その猫は何処で?」

「・・・その辺にいた」

「そうか。親は?」

「死んだ」

「わりぃ。他に生きてるやつに会ったか?」

「会ってないよ」

「そうか。なぁ、嬢ちゃん」


反らすこと無く、司令官さんは私をまっすぐ見詰める。目と目を見て話すのは、とても大事だ。


「その猫と一緒に、俺たちの元で暮らさないか」


疑問符はついていなかったし、元よりそのつもりだったのだ。断る理由もない。何より、子供だからと話を隠したりせず、きちんと向き合ってくれた。あぁ、本当にこの人はいい人だ。養護教諭をやっていた時にも、こんな人が大勢いればと何度思ったことか。


「目は口ほどにモノを言う」

「ん?」

「良いよ、御兄さん正直者だから。利用されて上げる」

「・・・ん??」

「え?」

「おやぁ?」

「うんん?」

『全くお前さんは・・・』


詳しいことは知らないが、ナナシを手元に置いておくために私を利用しようとしてるのは分かった。なので細やかな意地悪だ、極上の子供スマイルもおまけしてやろう。

兵士さんたちが顔をひきつらせている?知ったことか、これからお世話になりまぁす。


司令官さんに抱えられて荷車まで移動。3班は私とナナシがいるので、先に砦に帰れと司令官さんに命令された。流石に死体の乗った荷車に乗せるわけにはいかないので、兵士さんたちの荷物を乗せていた荷車に乗せてもらった。


「お嬢ちゃん、その猫に名前はあるのか?」

「ナナシ」

「ナナシ?不思議な名前だな」

「毛並みも随分汚れちまって・・・可哀想に」

『みー』

「わっぷ、何さ」

『そういや、お前さんに猫の立ち位置を言ってなかったなと思ってな。この世界で猫というのは神聖な生き物だ。一国に十匹いるかいないかだと思え。ちなみに猫が懐くのは一人だけで、懐かれた人間は猫の言葉が分かる。お前さんが俺と会話してても怪しまれねぇよ』

「それをはやく言えよ」

「お?どうかしたのか?」


それ知ってたらちゃんとお前にコミュニケイション取ったよ。あとお前そんなにレアキャラなのかよ。改めて兵士さんたちの目を見てみるとナナシに対してギラついた視線を向けている。え、こわ。


「そういやぁ、嬢ちゃんの名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

「レモン」


玲、と答えようとした。たしかに玲と言おうとした。しかし口は勝手にレモンと名乗っていた。ま、いっか。別に問題ないし。


「レモンちゃんか。可愛い名前だな」

「ありがとう、ございます?」

「なんで疑問系なんだよ!面白いなぁ!」


わっしゃわっしゃと頭を撫でられる。前世では背が高く、撫でられることなんて滅多に無かったので恥ずかしくなってくる。うきゃー。そもそも可愛いと言われることもあまりなく、大人びてるとかクールとか言われることが多かったので余計に照れてしまう。


「あ、ねぇ。お兄さんたちは何てお名前なの?」

「俺たちか?」

「そうだなぁ、砦で暮らすなら会うことも多いだろうし、自己紹介しておくか!」

「まず、今馬に跨がってんのがガルト」


焦げ茶の髪とくすんだ赤色の瞳がガルトさん。


「で、俺がアレフ」


薄い金髪にフローライトみたいな瞳がアレフさん。


「そんでこいつがライガだ」


全体的に水色なのがライガさん。

皆さんアイドルとか俳優並みに美形さんです。キラキラしてる。なのに猫に目をギラつかせている。シュールだ。


『レモン、暇だ。朗読しろ』

「良いけど、今読めるものないよ?」


左頬に痛くない猫パンチを食らった。そりゃ朗読をするのが転生の条件だったが、今手元に本が無い。人気のお伽噺なら諳じることも出来るが・・・。ふと兵士さんたちを見たら、兵士さんたちは見守りモードに入っていた。


『なら手を本の形にしろ』

「こう?」


両手の掌をあわせる。子供たちがよくやる「おててえほん」のマイムだ。


『で、読みたい本の名前を言え』

「夏目漱石のこころ」

『そしたら開け』


本を開くように掌を開いてみると、驚いた。目の前に文字が浮かんでいる。兵士さんたちも驚いている。浮かんでいる文字を目で追うと、こころの内容が書かれている。・・・すっげー。


『これで読めるだろ』

「すっごーい。なにこれー」

『古代魔術の≪フェリード≫だ。現代には魔道具としてしか残っていないが、お前の魔力はこれを使うのに最適だった』

「え、使える人間いないの?」

『人間はな。ちなみにその魔道具は国宝だ』


今なんと?


つまり、その、あれですか。

生きた国宝ってことですかい?!

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