『  』で 私は 勉強が できた


よく 天才 って 言われた



きみは すごいよ


きみの能力は 《  》 なのに 中学まで 1位で



でも 私だって 努力もしてる


勉強 してるの



ずるくない って


自己暗示 したいから 






 蟻のように人がたかっていた。



佐倉さくら佳乃よしの……」


「そ、そんなへこむなよ。な?」



 定期テストⅠの順位表が、廊下に貼りだされているらしい。


 上位100位までの名前と、総合得点が明記されている。



 1位はだと思う。



 どの科目もB組でトップだ。失点はほぼない。俺が1位だろ。


 自分以下の人なんて興味もねェ、



「俺は見なくていいって」


「いいから来いって!」



 と思っていたのに、あっけなかった。



 席が近くてよくつるんでいる松橋まつはしに引かれて、廊下の人だかりに紛れた。


 松橋はずんずん、その人だかりへ割り込んで行く。



「ほらっ夏芽2位じゃん! すげぇよ!」



 総合963点、B組、悠木夏芽ゆうきなつめ



「は……?」


「すげぇなぁ!」



 すげぇ、すげぇな。ほんと夏芽すげぇよ。すごすぎる。すげぇ~



 松橋がすげぇを連呼する。

 


 遠くに聞こえる。


 もはや聞こえない。



「……2位?」



 放心していた。



 何度見ても、どう見ても『悠木夏芽』は2位だ。2段目にある。


 なんで、どうして、俺は誰に——



『A組 佐倉佳乃』



 上段は、知っている名前だった。



 そう、あの女子だ。入学式で打倒すると決めた、黒長髪の赤眼鏡。



「え……な、夏芽?」


「……」


「いやいやいや! 2位ってすごいぞ!?」


「1番じゃねェ」


「1000点満点は論外だろ! 佐倉さんは天才だから」


「負けは負けだ」


「240人中の2位だからな!? 喜ぼうぜ!」



 俺はただ、自分の頭の悪さに絶句しているだけだ。 


 1位だと思っていたその甘さと、佐倉佳乃をあなどっていた自分に。



「年にテストはたくさんあるし」



 慰めも同情も、励ましも要らない。


 俺は負けた。



「まだ高1だしさ」



 負けないはずだ。誰にも負けないナツメは、どこ行った。


 

「ちなみに俺は120位だからよ! 教えてくれ勉強!」



 喧嘩に負けないナツメは、勉強でも負けない。


 ナツメ組の長は、負けないナツメだ。



「夏芽だって頑張っただろ?」


「頑張りと結果はちがう」



 周りの小声は、佐倉佳乃を讃えている。


 聞こえる。聞こえるだろこんな密集近距離じゃ。いたい。



 痛かった。自尊心が。



 逃げていた。


 松橋の声を無視して、ちらちら見える木々の揺れに吸い込まれるように、教室へ、ベランダへ。


 

 世界は100か0だ。1番じゃなければ、ビリ。




 逃げないナツメも、強いナツメも、もう既にいないのか。



 俺は、どこへ行った?


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