3
きみは 私に勝てない
そういう宿命だから 抗えない
私は 『 』のせいで きみに負けられない
でも きみに 負けてみたいな
だから ほら
はやく
私に 勝って
*
「はい、定期テストⅠ、返しますよ」
「えー……」
うわー、いやだ、解き終わんなかった。やばい。今日のご飯ない。
僕のまわりでもテストへ文句がガツガツ聞こえた。
決してそれでテスト返却が鎮火されることはない。
「A組の平均点は——」
テスト期間とは、テスト勉強をしている期間だけではない。
テスト勉強、最中、そして狂気的な返却と直しのラッシュ。
もはや毎日テスト期間だ。
「今回の最高点は……」
恒例のように、トップ層の名前と点数が発表される。
良かれと思っているのだろう。モチベーションアップのために。
「なんと、150満点です」
ざわついた。
人が3つに分かれる。
検討もつかずきょろきょろ見回す人と、僕へ視線を送る人と、その150点満点の人を察し当てる人。
まんなかは撤回だ。
クラスメイトが見ているのは僕じゃなくて、彼女だ。僕の、隣の席の。
「その人は~」
今年の僕は、テストのたびに
1年の頃、毎回クラストップだった僕は、
「
地に落とされる。
歓声が起こった。
今年度初の定期テストだから、芳野咲良の天才ぶりを知らない人もいる。
拍手が起こった。
彼女は、今日もニコニコ笑っていた。
金髪が異色に目立っている。それを戒めることもなく、讃える。
それら全部が、彼女の存在まるごとぜんぶぜんぶ、僕への当てつけにしか見えなかった。
「芳野さんすげー」「去年もずっと満点だったよね」
「いつも1位のひと?」「失点ゼロの」
「ギャルかと思ってた」「天才ギャルだ」
みんなの視線が、芳野咲良へ向かう。僕と、芳野咲良本人から以外。
勘違いはするな。僕へじゃない。
金髪の彼女が、金メダルを取っている。
清々しくて、晴れ晴れしいことだろう?
「夏目くんは?」「夏目くんかと思った」
「去年は夏目くんだったのに」「さすがの夏目も満点は無理だろ」
期待の言葉を勝手に拾って勝手に背負って、苦しくなった。
「次が
人知れず音量の下がった拍手が、僕に贈られる。
もう、地に落とされ過ぎて沈んだ。
穴がなくても掘って埋まるから、ほっといて。
「夏目、おめでとーよ」
「……芳野さんこそ」
長い睫毛を上へ向けた、黄色い彼女がこっちを向いた。
その笑顔は、きっと本当に僕を讃えているのだろう。
本物には、本物を。
僕は精いっぱい、上げられるだけ口角を上げた。
芳野さんは、悪くない。いい成績をとることが、悪いわけない。
でも、僕にとっては、彼女の良績はとても都合悪く、邪魔だ。
申し訳ない。理不尽に恨むことが。そして自分が鬱陶しい。
負け犬をしている暇があるなら、精進しろ。
きっと、僕はぜんぶ
「夏目くんさ」
「うん」
「昨日会ったよね?」
「うん」
僕らは昨日、密会のように屋上で遭遇した。たぶん。
「老けた?」
「は?」
「昨日、もっとぱりってしてたのに。苦労してンだな」
苦労、って……。
僕の事情でも、知っているような口ぶりして。知りえないだろうけど。
どうせなら、頑張ってるって言ってくれればいいのに。
「アタシしか気づけないと思うけど」
「芳野さんと仲良くした覚えはないよ」
言ってしまってから、はっとする。
イライラに任せて口走ってしまった。
「……ごめん」
僕は席を立った。
いろんなものから逃げる。逃げている。
テストが返却される。僕は晒し上げされたけれど。
寡黙で秀逸だった『
僕の143点は、僕のように、どうしようもなく不愛想だった。
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