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『またね、n回目のリンネ』
今日は きみと出会う日
どの人生世界でも 4月8日に “はじめまして” の目があう
でも きみは 気付かないからな
私が『 』で 覚えているだけで
きみとは 何度だって
“はじめまして”
*
桜は満開だった。
毎年雨に降られたり、風に吹っ飛ばされたり、散り散りした状態だから。
俺は別に、桜は好きじゃない。
綺麗だけど、綺麗だからなんだって話だ。
花に、なにを語らせる? 桜が入学を祝っているわけねェだろ。
桜の咲く、桜満開の、桜のように、桜、桜って。
今日だけで何回聞いたよ?
「
「はい」
装飾された体育館で、入学を許可される者の名前が順に呼ばれる。
担任の声に答えて立ち上がると、周囲が波動のように騒めいた。
気にするな。仕方ない。自分でもこのくらいわかってンだろ、覚悟の上の今日の俺だろ?
金髪を染めなおさずに、入学式を迎えた俺は、弱くないだろ。
今日からの俺の、新しい身分。
椎高は、県内トップの進学校だ。
ここへ進学したのは、地元中学から俺だけだった。勉強仲間は、みんな落ちた。
センセーもびっくりだな。
散々ヤンキーだの不良だのと形容されてきた俺が、椎高に受かるなんて。
俺を生徒指導したセンセーもみんな、眼玉飛び出ちまうンじゃねェの? ウケる。
さらに俺は、受かっただけじゃねェ。仕事がある。
入学前から与えられる、仕事だ。先日学校から電話があった。
先輩方との対面式にて、学年代表挨拶。
そうだよ。いいか?
俺は、椎高に第2位で受験に合格したンだよ。
どうだ、目玉飛び出たついでに顎が外れただろ?
中3の頃、センセーにも親にも、椎高の受験を反対された。
当然だ。不良の長だった俺が椎高とか、酒でも飲んだかと疑われた。飲んでねェよ。
でも俺は頑張ったし、結果も出した。
快感だった。
無理だと言われたことを、自分で覆すのは。
実際、みんな俺を崇拝した。
俺を慕っていた人はもちろん、嫌悪していた人も俺を認めた。
達成感って、これなんだな。
小6の、中学入試に落ちた屈辱とは真逆の。
けどな、浮かれンなよ。
俺はあくまで2位だ。この学年240人の首席は、俺じゃない。
唯一、俺に勝ったヤツは————
「生徒代表挨拶。A組、
「はいっ」
前列から響いた返事を、俺はこびりつけるように聞いた。
彼女は、真っ白な上履きでひとり、体育館を歩いた。
コンコンという足音、足音だけ。
優等生な姿で、階段をのぼる。
長黒髪に真新しいブレザー、赤縁眼鏡。
俺とは違う。正反対の、
壇上で文章を読み上げる彼女の声を、俺は1つも漏らさないで、CDに焼き込むように聞いた。
覚えておく。絶対に。
彼女の顔も姿も、この声も、負けたという俺の気持ちも。
忘れてしまうこの脳みそを駆使して、忘れないように。
読み終えた彼女はひょいと回れ右をし、こちらへ、凛と口角を上げた。
ぱっちりとした黒い瞳が、俺と1秒、目が合う。
……は?
勘違い? じゃねェよ。絶対こっち見たろ。一瞬じゃなくて1秒。
なんだ? なんで瞬時に、俺を見た?
俺は彼女を知らない。知っているのは、彼女が俺より頭がいいことだけ。
彼女も、俺を知らない。自分より頭の悪い人なんて、さぞかし眼中にもないはずなのに。
なぜ俺を見ている?
なぜわらっている?
2位の俺を、
「……ざけンなよ」
確証もない。勝手な被害妄想だ。
昔に握った右手拳が、汗ばむ。
馬鹿げている、受かっただけでいいとしろ。首席なんて高望みしすぎ。
でも、俺は強い。負けない。強いから。
独りの俺は、とても貧相で軟弱そうだけど。
中学時代、騒ぎ狂った仲間は、ここにはいない。
ナツメ組は、もう終わった。
憧れた先輩も、俺を団長と慕ってくれた後輩も、いない。
正真正銘の孤独。
だから、なんだ。仲間がいなくとも、ペンは握れる。
今日からは、拳じゃなくて、ペンを握るから。
そして、
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