あの日交わした契約を私は決して忘れない 6/7

 彼のやった事はきっと悪いことなんだろう。

 じゃあ、この世の悪いことした人が全部裁かれてるか?と聞かれれば、私はNoと答える。


「逃げよう」


 何処へ?そんなのどうでも良かった。いや、その時にはもう気づいていたんだ、私も彼も。逃げ場なんて無いことに。


 へえ、私、一年前はこんな顔してたんだ。それともあれかな?彼から見た私だからこんな風に見えてるってことなのかな?脳内補正ってやつ?

 今は、どんな顔してるかな?私。きっとボロボロだろうなあ。荒れ具合とか、頬のこけ具合とかは触れば分かるし。


 林を抜けて、足元よりずっと下に広がる海の景色は一年前ときっと変わってない。初めて見てもそれが分かる。


「忘れなさい。君はもう自由だ。これからは君自身が人生を変えていかなきゃいけない。その為には、今抱いてる気持ちを変えなきゃいけないんだ。分かるね?」


 先生、私、全然変わらなかったよ。過去も、今の私の気持ちも。だから此処に来たの。

【契約】をするかどうかも一瞬だって迷わなかった。むしろ運命だと思った、今日があれからちょうど一年後だなんて。


「愛してる」


 この世のどんな言葉より欲しかった言葉を彼が言ってくれた。それが全て。それだけでもう他のこと全部どうでも良くなっちゃった。だから、これで良いの。心からそう思える。


「君!そこで何をしている?」


 あーあ、もう少し浸っていたかったのになあ。まあしょうがないか、その分早く逢えると思えば。


「やめるんだ!待て!!」


 じゃあ、今からそっち行くから、一年も待たせちゃったけど、許してくれるよね?


 お兄ちゃん

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