あの日交わした契約を私は決して忘れない 5/7

「いたか!?」

「いや、おらん!」

「そんな遠くには行ってない筈だ!」


 なんで山狩りみたいになってるの?私何にも悪いことしてないよ。


 見晴らしの良い道から背の高い草が生える脇へ飛び込んで木の影に隠れたのは上手くいった。このまましばらく隠れていよう。


 ……


 はっ!?寝てた……。涼しいのと疲れてたからつい……。


「きゃっ!」


 慌てて立ち上がろうとして、足下の草葉で滑っちゃった。……あれ?どっちだっけ?


 完全に方向を忘れてしまった。元の道がどっちだったか全く分からない。


 どうしよう。どうしたら……このままじゃ、間に合わない。あぁ、こんな時いつも彼が手を引いてくれたのに……。


 不安が本当に体を押しつぶしているかのように、動けなくなる。手が震えて、涙まで出てきた。


「香奈。こっちだ」

「え!?」


 今、確かに聞こえた。聞き間違えるはずがない!でも、そんなはず……。


「香奈。俺だ。陽だ」


 立ち上がって声の方へ歩いていく。幻聴でもなんでも良かった。行くしかなかった。その為に私はここまで来たんだから。


「香奈、こっちだ。もうすぐだ。……ここだ」


 声の導くままに、私がそこに着いた瞬間、暗闇だった視界が一気に開けた。青い空と蒼い海に挟まれた、この世の果てのような場所。


 ここだ。やっと辿り着いた。絶対無理だと思っていたのに、私は追い付けたんだ。

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