あの日交わした契約を私は決して忘れない 7/7
とある地元民の証言
「いくら観光客来て欲しいったって、自殺スポットじゃあなぁ……。まあ、あの辺は普段誰も寄り付かんし、潮の流れですぐ海岸に辿り着くけえ、気持ちは分かるけんども」
「過去にも事例が?」
「ああ、ちょうど一年前にも同じ場所であったとよ。そん時は若い男女があそこ行って、男だけ飛び降りたっちゅう話だで。そんで、あの子見た時嫌な予感してさ」
部屋にはローカルのラジオがついていて、ニュースを読み上げていたが、電波が悪いのか音は途切れ途切れだ。
「……岬で昨日、飛び降り……一年前父親を殺害して…」
「一年前に自殺した男の連れだと?」
「いや、一年前の方は俺が直接見たわけでねーべや。話を聞いただけで。でもこんな田舎に見慣れない女の子が一人で歩いてたら、やっぱそっち考えちゃうべさ」
「…三日間…行方不…自殺した少年の妹と判……」
「町内会でも見慣れない人を見かけたら注意しろって散々話題に上がるしよ」
「……独自の取材…父親…虐待を受け…事が……」
「なんともやりきれねっぺ、まだあねー(若い)のによ」
なにやら色々な地方の方言が混ざっているような奇妙な言葉を語る中年の男を見ながら、
「ところで、彼女を見て何か、不思議に思った事はありませんでしたか?」
「え?……ああ、そうそう。その子な、なーんか妙だったんだわ」
「というと?」
「まるで周りの景色が見えてるかのように歩いてんだよ、変だべ?目に包帯巻いて、白い杖持ってんのによ。あ、でも最近建てたガードレールにはぶつかってたな」
「まあ、一年前、兄が見た物をそのまま見てるだけですからねぇ……」
「見てるだけで危なっかしくてよ。少し追っかけてみたんだけども見失っちゃってな。で、一応警察や近所の連中に連絡して皆で探してたんよ」
「なるほど、そのおかげで私がわざわざ声変えて誘導しなきゃいけなくなったわけですか……」
「え、何のこっちゃ?」
「ああ、いえ、こっちの話です。なるほど。大体分かりました。貴重なお時間どうもありがとうございました」
ⅩⅡは椅子から立ち上がり、お辞儀をした。もちろん表情はいつもの笑顔だ。
「ああ、いや、別になんてことねえよって。こっちも皆に話したけんども誰も信じてくんねっでよ。イラちしてたとこだ」
「あ、田渕さん。ここおったんか」
寄り合い所に来た飯沼は、既に居た田渕に挨拶をした。
「ん?おお、飯沼さん、はえのー」
「つか、田渕さんよ、今誰と話してたんだ?誰もおらんべさ」
飯沼が周囲を見回しつつ尋ねる。
「へ?……あ、いや、誰だったけか、なあ?」
「おいおい、まんだボケる年でもねっぺさ。まあええ、さ、一局やろうや。今度はまけねっど。必勝法あっからな」
飯沼が高らかに笑う中、田渕はしばらく戸惑っていたが、元来深く考えるのが苦手なのですぐにその事は忘れ、飯沼との対局に意識を向けることにした。
そして、二度と先ほどのやり取りを思い出す事は無かった。
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