償いは契約の後で 1/10


 四十年弱の自分の人生を振り返ると、実に無意味だったように思う。

 人並みの幸せがあれば満足と思っていたが、或いはその日和見な性格が災いしたのかもしれない。


「あなたの寿命、後一年と三日です」

「………………はあ」


 後一年生きたところで何かあるとは思えない。

 かと言って見たい物と言われても何も思い付かなかった。

 そんな自分の内心を察したのか、彼の方から助け船を出してくれた。


「自分の事じゃなくても良いんですよ。なにかあなたの人生において大切な人との心残りなどありませんか?」

「心残り……」


 そう言われてふと思い出す顔があった。

 そして気がつけば思い付いた疑問を口にしていた。

「……特定の人が今どこに居てどんな状況かって分かりますか?」

「勿論、ただし見れるのはあくまでも五分です。まあ、その辺りは、あなたの願望に合わせて『何を見せるか』は自動調整しますが……」

「それなら……相田真波《あいだまなみ》……あ、昔別れた妻なんですけど、その人が今どこで何をしているか分かるなら、僕は契約しても構いません」

「はい、承りました」


 五分後、僕の前から悪魔は永久に姿を消した。


 それでも、今のやり取りが夢でないことは、彼女の居場所と現在の容姿に関する情報が、まるで物心ついた時から知っていたかのように記憶に深く刻まれていた事が証明していた。


 後三日

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