ご契約ありがとうございました。次回作にご期待ください 7/7

 ファミレス内で、融けていくアイスを横目に、春見芳野はるみよしのは原稿をチェックしていた。


「ご協力感謝します。私が人間に嘘をつくわけにはいかないので助かりました」


 対面に座るⅩⅡはいつもの笑顔でそう告げる。


「……これで良かったんでしょうか?」


 原稿から顔を上げ、芳野はⅩⅡに尋ねた。


「彼が後悔したかどうかはあなたが一番よく分かっているでしょう?何より佐野冬路さのふゆみちさんが自分で出した結論です」

「それは……そうですが」

「寧ろ喜ぶんじゃないですか?あなたが実は【、と知れば」

「…………」

「手段も手紙の内容も考えたのは私です。あなたが負い目を感じる必要はありませんよ」


 一切負い目など感じてない態度でⅩⅡは言う。


「何にせよ良かったじゃないですか、私は【契約】が取れた、あなたは念願の作家デビューです」

「そういう言い方は止めてください!」


 ちょうど近くを通りかかった店員が何事かと芳野を見る。

 そんな様子を見つつ出ていこうとするⅩⅡ。


「では、私はこれで……次はあなた自身の寿命が一年と三日になった時に、またお会いしましょう」

「あ、ちょっと待って下さい」


 呼び止めたのは一冊の文庫本を手にした芳野だった。


「これ、是非読んでみて下さい。本当に素晴らしい作品なんです」


 振り返るⅩⅡに、芳野は『バドとハルの終わりなき旅路』というタイトルの本を差し出す。

 一瞬怪訝な表情を見せるⅩⅡだが、直ぐに元の営業スマイルを取り戻し、本を受け取った。

 ファミレスを出て、芳野の姿が完全に見えなくなってから、ⅩⅡは手に持っていた本を投げ捨てる。

 本は地面にぶつかる直前に何かに吸い込まれるように消えた。

 そしてⅩⅡもまた、人々が往来する道の真ん中で忽然と姿を消す。


 往来には十数程の通行人が居たが、その事に疑問を抱く者は誰一人として居なかった。

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