ご契約ありがとうございました。次回作にご期待ください 6/7

「PCの中に向こう一年は連載ができるだけの下書きが入ってる。他に家にある物は全部好きにして良い。遺言状も用意してある」

「それは……私にゴーストライターになれという事ですか?」

「それをどうするかは君が決めれば良い。どのみち口出しできないしな」


 彼女は怒りと憤りと悲しみを混ぜたような複雑な表情を見せる。そんな彼女に私は諭すように自分の本音を吐露する。


「私は『バド』を自分の手で終わらせたくない。そんな時にあの【契約】と君の手紙を読んで、出した結論がこれなんだ。誰よりも『バド』が好きな君に全てを託したい。そして次に繋いで欲しい」

「……わかりました」

「良かった……ぐっ!?」


 それまで何事も無かった体から急速に力が抜けていった。

 いや、力だけではない、何か言葉に出来ない、生きていくのに必要な諸々が体から抜けていくのを、理屈を越えた何かで実感していた。

 ああ、死ぬんだな、私は……。


「先生!」


 地面に倒れこんだ私を抱き起こす腕があった、ぼやける視界に、芳野の泣き顔があった。

 泣いて、笑って、怒って、悲しんで……そうか、彼女はこんなにも人間らしかったのだ。私がそれを見ようとしていなかっただけなんだ。

 気づくのに十年かかったが、ギリギリ間に合ったらしい。


「先生……私、好きでした……」

「芳野君……まさか、君は私を……?」

が、本当に好きでした!」

「……」


 ああ……彼女は……本当に……。

 幸せだ。作家となってから、今ほど嬉しいと思った事は無い。そして、それで良いのだ。これ以上の幸福を私は知らない。


 私の旅は終わる。

 だが、バドと一緒に旅をしてきた人がその先も旅を続けてくれるなら、旅そのものは決して終わらない。


 いずれ冬が終わるとしても、その後に必ず春は来るのだから。

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