契約探偵の事件簿 3/3
「ふー、あったかい。やっぱり冬服の支給欲しいですねぇ…」
「また余計なことしたのか?
燃え盛る山荘で暖をとるⅩⅡに
「余計なこと?」
「お前の【顧客】がああいう【契約】をするのは分かる。犯人が居ると分かってから【契約】したんだからな。だが俺の【顧客】がした【契約】は、事前に探偵がその場に居るのを知っていないと出来ない!」
「引き合わせたのは私じゃありませんよ?私にそんな能力は有りません。【課長】辺りならそのくらい出来てもおかしくないでしょうが」
「……俺の【顧客】の【契約】は『もしこの場に俺のトリックを暴ける人間、――名探偵――が居ればこの三日間どう動くか知りたい』だった……」
「なら探偵がその場に居なければ【契約】不成立、言ったもん勝ちでしょ?」
「……」
「あの二人は元々探偵小説という虚構に、病的なまでの憧れを抱いていました。そこに我々の存在と自身の寿命を知って、現実と虚構の区別が付かなくなったんでしょう。よくある事です」
納得がいかないと言いたげに渋面を作るⅩⅣ、そうする内に山荘が焼け落ちて、火の付いた壁が二人に向けて倒れてきた。だがどちらもそんなことはお構い無しだ。
しばらく沈黙が続いたが、再び口を開いたのはⅩⅡだった。
「そもそも自力でトリックを考えた犯人は、探偵がどう動くかだけ判れば良かった。対して探偵は【契約】で犯人のトリックを知る必要があった。どっちが裏をかけるかは分かりきってます。犯人はそもそも寿命を延ばすつもりが無かった訳ですし」
火は徐々に消え、後には黒く焼け焦げた人の形をした塊が散乱する、それらを見下ろしながらⅩⅣは重々しい雰囲気で呟く。
「この二人、【契約】してなかったらどうなっていたんだろうな……というか、最初から今日死ぬように、お膳立てがされていた気がしてならない」
そんなⅩⅣとは対照的に、能天気な笑顔でⅩⅡは言う。
「あははっ!考え過ぎですよ。まあこの仕事に就いて日が浅いから人間だった頃の記憶がまだ濃いんでしょうけど」
「……お前は前からそんなだった気がするよ」
「あ、やっぱ分かっちゃいます?」
それから一時間後に、消防と警察が到着した。
だが、その余りにも悲惨な光景に気をとられ、不自然に焼け跡が無い二箇所がある事に気付く者は誰も居なかった。
終わり
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