契約探偵の事件簿 2/3


後三日


 ……そういう事か、実に上手い手を思い付くものだ。これなら誰も犯人が彼とは思わないだろう。

 自慢じゃないが、推理小説はこれまで何百冊と読んできた。

 そして更に自慢にならないが、一度として自力でトリックが分かった事が無い。

 だが【契約】によって、犯人と三人目までの犯行手口を見ることができた。流石に五分では最後まで見れなかったが充分だ。

 じゃあ、今から犯人を拘束して追い詰めるか?答えは否だ。

 せっかく三人分の答えが分かったんだ。しかもそこまでなら僕は標的になっていない。

 なら今は周りのモブが納得出来るだけの証拠を確保し、三日目に全員を集め、最高の推理ショーを披露してやる!


 ……さて、とりあえず今日は寝るか。


後二日


 第二の殺人が起きた。【契約】で見た通りだ。

 おっと、表面上は周りに合わせて怯えておかないと、最悪僕が犯人と疑われかねない。

 ……ったく、的外れな推理をする奴が居るな…。どこぞの推理アニメに出てくる中年オヤジかよ。

 しかし、こうしていつ殺されるか分からない恐怖に怯えるモブを眺めるというのも、中々気分が良いな。今回の犯人の動機は分からないが、快楽殺人鬼はこういうのが好きなのかもな。


後一日


 さて、そろそろ三人目が殺される頃かな?

 その後の展開が分からない以上、早めに舞台準備しておくか。

 犯人が長々と自分語りする可能性もあるし、何せ今日死ぬ予定と言っても、何時かまでは教えてくれなかったしな。

 証拠を突きつけた途端に逆上してこっちを襲ってくる可能性もある。

 なるべくならやりたくなかったが背に腹は変えられない。まず犯人を動けなくしてから推理ショーといくか。


 そして一時間後、談話室には縛られた犯人と、まだ生きている脇役、そして犯行を完璧に立証した僕が居た。

 半信半疑ながら犯人の拘束に協力してくれた体育会系モブも納得してくれたようで、僕は大満足だった。

 そして僕はまだまだ生き続けるのだ!現代に蘇ったシャーロックとして、周りから羨望の眼差しを受けながら!


 …と、忘れるところだった。

「…一体、何故こんなことをしたんですか?」

 正直どうでも良いが、まあ、お約束だし聞いておくことにする。すると犯人は答えた。

「『犯人』に憧れていたんだ…」

「憧れ?って今正に犯人でしょうが」

 何か変な臭いがするが、今はそれどころじゃない。こいつは何を言っているんだ?

「そういう意味じゃない。推理小説に出てくる犯人って意味だよ」

「…どういう意味ですか?」

 さっきから、どんどん臭いが濃くなっていく。眩暈までしてきた。何だ?何か得体の知れない嫌な感覚が……。

 そんな僕の心情を見透かしているかのように、犯人はこちらを見て言った。

「自分の寿命が後一年と知った時、どうしても『推理小説の犯人』っていう奴になってみたくなったんだ。でも探偵役が居ないことには只のホラー小説になっちゃうだろ?」


 こいつ、まさか…!



 それを聞いた瞬間、目の前の景色の全てが赤くなり、直ぐに全てが黒くなった。


 続く

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