短歌・秋

岩走るながめ垂水と冴ゆるなり何時しか秋のさやかに来たり


叢雨の夜毎来れば道すがら家まで持てと願ひゐたりける


確かなる嘔気ありせば飲まるのを異し鬱悒さの腹立たしきや


菊散らし青女の酔ひも吹き飛ばす猛き野分が月を締め行く


仄白く淀みし運河翡翠色空と土手の混ざり合うかな


冷え込みてコート出いたる紅葉月木の葉の色は未だ夏なめり


今の世に釣瓶久しくあらねども落ち方伝ふ秋の夕暮


天高く涼し秋来る風上の歩き煙草に殺意覚える


腹立ちて秋の来たるを覚えけり風無き道の歩き煙草に


霜降りず小春揺蕩ふ神な月冷たき時雨雷無かり


神楽月霜の降りねど秋去ねり復た来たる陽を戸の内に愛づ


淡黄の心を齧り行く秋に浅き夢見し乙女は居らず


秋は来ぬ霜降りず葉も青けれど秋は疾く去ぬと暦笑ふ


鐘代わり時雨の濡らす夢現明け行く夜を街の惜しむや


秋過ぎて釣瓶落ちたる川の淵投げ上げ問を思い出しけり


砂利敷きの上へ座れば革靴の焦げる臭いが耳に障れり


うそ寒の連れる帳はなお早く紅下黒を忘れたりけむ

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