短歌・春

哮喘で音にならざる下十四 不如帰思ふ季節の境


春の陽の穏やかなれど掌のあまり熱きに不調疑う


濃き紅を4つにさきて沈丁花匂ひ滴る手毬とぞ思ふ


ビル群を虹の低きが貫くも疾き風吹きて消し廻りけり


窓外の空と花の鮮やかに新たなる号報ぜられたり


染料を吸わせた様な紅梅も切り口見れば時に白梅


気の重い週の中日は気に入りの香水刷いて我を誤魔化す


花咲けど暦ばかりが春になる冬より寒き夜も来るらし


春来しと思へぬままに花は散り甘き房伸び夏きにけらし


雨降れど人の燥ぎし月晦日ふたほとせぶりの譲位かな


忘らるる覚悟はあれど目の前の終ぞ呼ばれぬ名こそ哀しき


雷の轟き晴に霰降り遠き山から逃げる先なし


春来しと思ほえぬまま夏日なり毛糸を洗ふ機会逃せり

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