一章:異貌都市 2



 ――リンゴーン リンゴーン

  リンゴーン リンゴーン――


 何処からともなく鐘が鳴る。

 開幕を告げる鐘の音が鳴る。



「――また一人、ノスタルギアに夢幻体ゴーストが堕ちてきた」



 そう呟いたのは仮面の男。

 学者然とした風貌の、痩身の男が、口元に楽しげな笑みを浮かべながら誰にともなく言った。


「一人、また一人、これで一体何人目だったか……いずれにせよ、実験は着実に進んでいるようだ」


 豪奢な椅子に腰かけた男は、滔々と言葉を口にしながら立ち上がり、窓際に歩み寄って、


「素晴らしき哉、素晴らしき哉」


 カツン、と靴底を鳴らして。

 男は眼下を見下ろしながら、愉快気に諸手を挙げる。


「十一人目……そうだ。これで十一人目だ。千年京と呼ばれし極東の都より、我が師の遺産によって栄えたこの望郷の地に、また一人到りし」


 男が、滔々と科白を口にする。すると――



『――GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR……』

    『――GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR……』



 何処からともなく、獣の発するような呻き。

 ぞろぞろと、足元から這い上がってくるような不気味な嘶き。

 それに対して、男はというと。

「ああ、我が愛しき仔らよ。悪しき爪たちよ――おはよう。諸君!」

 ――頭上、見上げて。

 ――声を、高らかに。


「さあ、目覚めの時だ。今宵、このノスタルギアに新たな贄が降り立った……」


 ――男が、嗤う。


「さあ、来たる再誕のために――行っておいで、アリキーノ」



『――GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!』



 男の声に応えるように、咆哮が轟く。

 そして、獣は解き放たれた。

 鈍く、軋みを上げる四肢――動かして。

 固く、鋼鉄の如き身体――引き摺って。

すべては、野に放り込まれた哀れな仔羊を喰らうために。



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