矢山行人 十五歳 夏24

 宮本歩こと、ミヤと僕は中学にあがってから喋るようになった。

 体育の授業で二人組になってからの仲だった。ミヤはサッカー部に所属していて、先輩から可愛がられるような愛嬌も持っていた。


 中学一年の夏休みに一度、僕は町でミヤを見かけた。

 隣には彼女の寺山凛がいた。僕の隣には秋穂がいて、お互い照れ臭いやら、誇らしいやらな表情を浮かべていた。

 なんとなく、休日に女の子と出かけているっていう事実が、無条件なアドバンテージになる瞬間が男子中学生にはあった。

 それから僕とミヤは二人きりになると、彼女の話をした。

 と言っても僕は秋穂と付き合っている訳ではなかったから、基本的にミヤと寺山凛の話だった。


 寺山凛は引っ込み思案で、恥ずかしがり屋な為、ミヤと付き合っていると周囲の人に言うことを嫌がっていた。

 ミヤは、胸を張って寺山凛と付き合っていると公言したい、と常々言っていた。けれど、男子から見れば何でもないことでも、女子側から見ると大問題みたいなとこがあるのだと、寺山凛は言うのだった。


「そー言われたら、何も言えねぇよ」

 と、ミヤは言っていた。


 で、お前はどーなのよ?


 とミヤは最後によく言った。

 僕と秋穂の関係を一言で告げるなら、用心棒とお姫様だった。

 僕が用心棒で、秋穂がお姫様。

 そうミヤに言うと、わけわかんねぇと笑った。

 僕自身だって、正確に理解している訳ではなかった。ただ、この世界で一番守りたい存在、それが西野秋穂だってことだけは確かだった。


 その秋穂を僕が守る立場にあるかどうかは、別問題ではあった。

 というのも、秋穂の兄、ナツキさんは二つ年上で、僕たちが中一の時に三年生。生徒会長として学校に君臨し、ちょっとした伝説の存在となっていた。


 話はよくあるもので近隣にガラの悪い中学校があって、そこの生徒と僕たちの通う中学校の生徒で揉めごとを起こしてしまった。

 厄介な連中が僕たちの中学校の周辺をうろつくようになって、見かねたナツキさんが友人二人を連れて、ガラの悪い中学校へ乗り込んだ。そこで、どんな話し合いがあったのか、僕たちは知らない。

 ただ、その結果、僕たちの通う中学校周辺にガラの悪い連中が近寄ることはなくなった。


 漫画みたいな話だけれど、間違いのない事実だった。

 だから、ミヤは

「西野さんのお兄さんがもはや騎士って感じだから、用心棒の行人に活躍の場はねぇんじゃねーの?」

 と言った。

 まったくその通りだから、反論の余地はなかった。


 中学二年になって、僕とミヤと寺山凛は同じクラスになった。

 秋穂だけは違うクラスだった。ゴールデンウィークには四人で遊びに行った。とても素敵な時間だった。

 夏休みにも四人で遊ぼうと約束をした。

 けれど、一学期の終盤、教室で事件が起きた。

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