矢山行人 十五歳 夏22

 目を覚ますと、朝の七時を少し過ぎていた。


 僕は下着の中に射精しているのを確認した後、パジャマ替わりのジャージのズボンと下着を脱いだ。性器についた精子をティッシュで拭い、新しい下着とスエットのズボンを履いて洗面台に向かった。

 射精した後の下着を水道で洗った後、洗濯物の中に入れ、服を脱いで熱いシャワーを浴びた。


 夢精はこれまでも何度もしてきた。

 けれど、今までの夢精とはまったく違って、生々しい夢だった。手を握って、開いてみる。

 まだ朝子に舐められた後の、あのひんやりとした感触が残っているように思った。

 リアルな夢。

 僕は細部まで思い出せる夢を辿って、風呂場で勃起した性器を握り、自分の手で射精に導いた。


 リビングに行くと兄貴がテレビを見ながら、朝食をとっていた。

 母が「少し待ってね」と言うので、僕は兄貴の向かいに座った。

 父は今日も仕事のようで、いなかった。

 母がトーストが二枚乗った皿を僕の前に置いてくれた。トーストはかりっと焼き上げられていた。

「ありがとう。いただきます」

 と言って、僕はトーストにマーガリンを塗って、食べた。


 兄貴はテレビに集中しているようだった。

 母は呑気な声で兄貴に話かけた。

「そういえば」

 と母が兄の名を呼び、「彼女とはうまくいってるの?」と続けた。


 あ、お母様。それ今、禁句。


「ん?」

 案の定、兄貴は不機嫌な顔になった。


 母は気にせず続けた。

「この前、家に連れてきてたじゃない? 見覚えのある子だなぁって思ってて。ねぇ、あの子、名前は言ったけど、名字は言わなかったじゃない? なんて言うの?」


「宮本」

 兄貴は面倒くさそうに言った。


「宮本美紀……」

 と母が言った。


 宮本? 


「あ、もしかして、美紀さんって行人と同い年の弟がいるんじゃない?」


「さぁ」


 兄貴は言って、トーストを全て食べてしまうと、ごちそうさまもなく席を立った。リビングを出て行くのを僕も母も呼び止めなかった。


「ねぇ、行人。宮本くんにお姉さんいるって話はないの?」


「分かんない。宮本は四月から不登校になっているから」

 僕の中には確信のようなものが芽生えていた。


 ――行人くんの周囲にいる同級生も待ってくれない。すぐ言葉にすることを求めてくる。


 どうして美紀さんが僕の周囲にいる同級生のことを知っているのだろう?

 と疑問だった。

 けれど、美紀さんが宮本の姉であるなら、僕らを取り囲む人間模様を知っていてもおかしくなかった。

 美紀さんが僕をからかったり、気にかけるのも弟の友達だから、というのなら納得できる。


「あ、母さん」


「なに?」


「兄貴、彼女と別れたらしいよ」


 母が「え?」と言ったが、僕は無視してトーストをかじった。

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